ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年12月19日
評価年月日:令和6年10月11日
評価責任者:国別開発協力第二課長 氏名 廣瀬 愛子
1 案件名
1-1 供与国名
パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)
1-2 案件名
ハイバル・パフトゥンハー州の洪水被災地域及び周辺地域における母子保健機材整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、ハイバル・パフトゥンハー州において、2022年のパキスタン大洪水被災地域及び周辺地域に位置する医療施設(21施設)を対象に、母子を中心とする保健・医療の診断・治療に必要な医療機材の整備を行うことにより、医療診断・治療体制の強化を図り、もってパキスタンにおける医療・保健分野での人間の安全保障の確保と社会の強靱化に寄与する。
供与限度額は15.03億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限と判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パキスタン(一人当たり国民総所得(GNI)1,500米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)パキスタンでは、2022年に大洪水が発生し、1,700名以上の死者、約300億ドル以上の被害が発生した。特に、ハイバル・パフトゥンハー州(以下、「KP州」という。)の被害は大きく、犠牲者は300名を超え、147箇所の医療施設が損壊(10箇所が全壊)した。洪水被害直後と比較すれば復旧は進んでいるものの、多数の病院、診療所等の医療機関では、施設や機材の損壊により医療活動が十分回復していない。
- (3)パキスタンは2022年の大洪水発生以前より母子保健指標が世界でも最低水準の国の一つであり、新生児死亡率40人/1,000出生(2020年)は世界で二番目に高い。KP州では、医療施設の洪水被害により、特に出産、産前産後等の母子保健医療にて、妊娠の早期段階からの継続的な診断、治療が困難な状況が続いている。地域診療所等の一次医療機関では施設や機材の損壊により医療の質が低下し、これに伴い、地域病院等の二次医療施設には患者が集中し、一次医療では対応できないケースへの診療という本来の役割に支障が生じている。さらに、重篤症状や高度医療を必要とする患者等の搬送先である三次医療施設においても関係機材が不足している。こうした中、KP州保健サービス総局は、洪水による被災地域及び周辺地域に位置する母子医療の診断・治療体制の復旧、強化計画を策定したが、資金不足により実施目途が立っていない。
- (4)我が国の対パキスタン国別開発協力方針では、保健・医療を含む「人的資本への投資と社会サービスの拡充を通じた人間の安全保障の確保と社会の強靭化」を重点分野と定めており、母子保健を中心とした保健システムの強化を重視するとしている。JICA国別分析ペーパー(2022年10月)においても「保健プログラム」を重点分野と分析している。また、同国は、伝統的な親日国であり、またインド、中国、アフガニスタン及びイランに囲まれ、アジアと中東の結節点に位置し、地政学的重要性を有する。我が国が対パキスタン支援において識見を有する医療・保健分野で支援を行うことは、両国間の友好・信頼関係の増進に貢献し、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資するものである。
- (5)本計画は、パキスタン政府の2022年洪水被害の復旧・復興のための枠組み「Pakistan Floods 2022: Resilient, Recovery, Rehabilitation, and Reconstruction Framework」の戦略的復興目標である母子保健の復旧、改善に資する事業として、KP州の被災地域を中心とする医療施設の母子保健体制の復興及び強化を図るものであり、SDGsのゴール3(健康な生活の確保と福祉の推進)、ゴール5(ジェンダー平等の達成)及びゴール10(不平等の是正)にも貢献することから、実施する必要性は高い。
2-2 効率性
電子システム等で稼働する各種機材は、KP州保健総局本部及び各病院に配属されている電子医療機器エンジニアの維持管理体制、既設機材との互換性やスペアパーツ等の調達及び保守の容易さ、持続性を考慮して、日本又は現地で調達し、保育器等の非電子機器で同国に広く流通しているものは現地調達を想定することで、コスト低減、維持管理の容易化を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2022年実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値を比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 整備対象施設で対応できる分娩件数が、25,015(件/年)から28,842(同)に増加する。
- イ 整備対象の二次医療施設(10ヶ所)で対応できる帝王切開件数が、3,625(件/年)から4,300(同)に増加する。
- ウ 整備対象施設で対応できる超音波診断件数が、7,618(件/年)から88,561(同)に増加する。
- (2)定性的効果
- ア 対象医療施設における母子に対する保健・医療サービスの質、患者の満足度が向上する。
- イ 県病院レベルで超音波診断装置や胎児心拍陣痛計などエビデンスに基づく医療が提供されるようになり、地域住民の医療施設への信頼度が向上する。
- ウ 県内での母子保健サービス提供の質及び量の向上を通じ、より高次の医療施設に患者を搬送する際の患者及びその家族の負担が減少する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パキスタン政府からの要請書
- (2)JICAによる協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)パキスタン国別評価報告書(2014年度・第三者評価)