ODA(政府開発援助)

令和6年12月2日

評価年月日:令和6年11月20日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子

1 案件概要

(1)供与国名

 バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)

(2)案件名

 ジャムナ鉄道専用橋建設計画(第三期)

(3)目的・事業内容

 ジャムナ川流域において、既存のジャムナ多目的橋に並行して新たに鉄道専用橋を建設することにより、鉄道輸送需要への対応、既存橋の道路容量の拡大、持続性の向上及び安全性の改善を図り、もって同国内及び近隣諸国との輸送ネットワークの効率化を通じ、同国の中所得国化に向けた全国民が受益可能な経済成長の加速化に寄与するもの。

主要事業内容
  • ジャムナ鉄道専用橋(複線のデュアルゲージ)及び両岸のアプローチ橋の建設、レールの移設、関連施設整備(信号システム、両岸の駅舎等)
  • コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
382.06億円 1.70% 30(10)年 一般アンタイド

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価)
 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道・橋梁セクターに当たるため、カテゴリAに該当する。
 本計画に係る環境影響評価報告書は、2017年12月にバングラデシュ環境森林省環境局(以下、「DOE」という。)により承認済みであり、2023年11月に更新を完了している。
汚染対策
 工事中の空気質低下、騒音・振動等は、散水、車両荷台の被覆、機器や車両の適正管理、建設機材の防音対策、低騒音タイプの重機使用等の対策により影響を緩和する。また、作業員簡易宿泊所や建設現場からの排水や廃棄物による影響は、浄化槽や沈澱池の設置、廃棄物の保管場所の確保等を行うことで影響を最小化し、橋脚建設時は締切工の採用やシルトフェンスの使用等により濁水の影響を回避する。さらに、供与後の鉄道走行による騒音・振動等については、特段の影響は想定されていないが、騒音防止策として居住区周辺や事業用地に植林を行う。
自然環境面
 ジャムナ川西岸の森林公園では、本計画により樹木が伐採されるが、DOE等と協議の上で植林されている。また、本計画の対象地域は、国立公園等の影響を受けやすい地域又は、その周辺に該当しないものの、ジャムナ川一帯は、重要野鳥生息地に指定されているため、工事中の伐採の最小化等により影響は最小化される見込み。加えて、ジャムナ川には、絶滅危惧種であるカワイルカが生息しているが、工事中に目視で確認された場合は、杭打ち作業の中断や工事用船舶の停止を行うなどの対策をとることにより、重大な負の影響を回避する対策を講じる。
社会環境面
 本計画は、実施機関所有地内及びバングラデシュ橋梁局(Bangladesh Bridge Authority:BBA)から引き渡される予定の土地で実施されるため、用地取得及び住民移転を伴わない。また、ジャムナ川には中州があるが、本計画の対象地域周辺の中州には居住地の存在は確認されていない。
その他・モニタリング
 本計画は、工事中の空気質、騒音・振動、水質、生態系への影響等についてはコントラクター及びバングラデシュ国鉄がモニタリングし、供用後の騒音、生態系、生計への影響の有無については、バングラデシュ国鉄がモニタリングする。
外部要因リスク
 特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 バングラデシュの鉄道施設・機材の多くは1947年以前の旧英領時代に整備されたものであり、老朽化により輸送量・サービスの質が低下等しているため、定量・定時・大量・安全・省エネという鉄道輸送の強みが十分発揮されていない。その結果、近年では全運輸モードに占める鉄道輸送の割合は、1割程度にまで縮小しているが、同国及び近隣諸国の堅調な経済成長に伴い、将来コンテナ輸送が急増することが予測されており、最も効率的に行える鉄道輸送への期待が高まっている。
 同国の中央を流れるジャムナ川を渡河するジャムナ多目的橋は、隣国インドに繋がるアジア横断鉄道(Trans-Asian Railway)の一部を成す区間として、国内外の鉄道輸送の需要増加が見込まれたため、当初予定されていなかった鉄道(単線の広軌・狭軌のデュアルゲージ)が敷設された。しかし、単線運行による列車容量制限、橋梁中央部分ではなく端部(川の上流側)に線路が敷設されたことによる速度・重量制限等の問題が生じている。さらに、既存橋の構造(橋梁の片側に単線の線路を敷設)が、かつて橋梁にひび割れを発生させた(現在は修復済)との見方もあり、既存橋の持続性確保の観点からも、交通の大動脈である鉄道部分の切り離しが喫緊の課題となっている。
 同国政府は、上記の課題解決のため「複合一貫輸送政策」(2013年)において、道路輸送への偏りを改善するために鉄道輸送を強化する方針を定め、「鉄道マスタープラン」(2013年)において、アジア横断鉄道の一区間として、国際鉄道輸送に貢献する本計画を優先的に実施するとしている。
我が国の基本政策との関係
 本計画は運輸交通網を整備するものであり、我が国の対バングラデシュ「国別開発協力方針」(2018年2月)に定める同国向けODAの重点分野の一つ「中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化」(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進、発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等)に合致する。
 また、本計画を通じた鉄道専用橋の敷設は、ジャムナ川で二分されるバングラデシュを東西に繋ぎ、同国内の連結性を向上させるとともに、アジア横断鉄道の一部として、インドをはじめとする近隣諸国との輸送ネットワークの効率化並びに連結性強化に貢献するものであり、我が国が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を具現化する取組である。
 なお、2023年4月の「戦略的パートナーシップに関する日バングラデシュ共同声明」では、2014年の日・バングラデシュ首脳会談で合意された「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想に加え、「ベンガル湾からインド北東部を繋ぐ産業バリューチェーン」という新たなコンセプトの下、同国において、経済インフラ整備、投資環境改善、地域連結性の向上を継続していくことが再確認されており、本計画はこの点からも高い外交的重要性を有している。また、本計画はバングラデシュにおけるSDGsゴール9(インフラ構築)達成に向けた取組として、交通インフラ改善を通じ同国の産業発展に貢献するのみならず、近隣諸国や他ドナーの支援にも裨益する事業であり、国際社会からの共感と信頼確保に資するものである。

(2)効率性

 対タイ・ラオス円借款「第2メコン国際橋架橋事業」の事後評価等により、広域的な交通網整備を行う場合、国境を跨ぐ広域的・包括的な観点から、他の交通網の整備状況や開発計画も十分分析・検討した上で案件準備を行うことが重要との教訓が得られている。これを踏まえ、本計画においては、南アジア地域における広域運輸交通整備計画に基づき、他ドナーや同国政府の支援による関連案件との連携も含めて、事業内容の検討及び交通量予測を行った。また、対タイ円借款「ノンタブリ・パトウンタニ橋建設事業」等の大規模橋梁整備事業の事後評価等から、洪水や軟弱地盤の影響で、工事中に計画の見直しを余儀なくされ、対応に時間を要したとの指摘がある。これを踏まえ、事前調査時に実施されなかった地盤調査を同事業の調査・設計等のために役務に係る事業において実施しており、同事業では同調査結果を踏まえ、慎重に設計・施工計画を検討し、事後的な計画の見直しによる事業遅延リスクを最小限に抑える。

(3)有効性

 国内外の鉄道輸送の需要増加が見込まれるバングラデシュにおいて、鉄道貨物輸送量を2026年(事業完成2年後)には、2019年時点の約11.6倍まで増加させることにつながる。本計画により、同国内及び近隣諸国との輸送ネットワークの効率化を通じ、同国の中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

 バングラデシュ政府からの要請書、バングラデシュ国別評価報告書(第三者評価・2023年度)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
 案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
 なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。

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