ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年9月5日
評価年月日:令和6年4月17日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件名
1-1 供与国名
パラオ共和国(以下、「パラオ」という。)
1-2 案件名
ミナト橋架け替え計画
1-3 目的・事業内容
ミナト橋の架け替えを行うことにより、橋の強靭化及び円滑な通行の確保による輸送力の安定化を図り、もってパラオの産業基盤及び連結性の強化に寄与する。
供与限度額は27.93億円
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パラオ(一人当たり国民総所得(GNI)12,790米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、高中所得国に分類されている。
- (2)パラオの政治・経済活動は、全人口18,055人(世界銀行、2022年)の約7割が居住するコロール島及び同島東部に隣接し、首都と同国唯一の国際空港や発電所、取水ダム、浄水場などの社会基盤があるバベルダオブ島に集中している。コロール島西部に隣接するマラカル島には、同国唯一の商業港であるマラカル港や発電所があるため、バベルダオブ島からコロール島を経てマラカル島に至る交通を確保することが、同国における経済活動基盤を確保する上では重要となっている。
- (3)マラカル島とコロール島を連結するマラカルコーズウェイには、1927年に南洋庁(当時)によって建設され、戦時中に破壊された「みなと橋」の名前を残しているミナト橋(1979年に建設。63.09メートル)が架けられている。我が国は無償資金協力「島間連絡道路改修計画(第2期)」(2005年)にて、一部箇所の補修を実施したものの、経年劣化によるコンクリートの劣化の進行が著しく、崩落の危険性が指摘されており、運輸交通及びライフラインの断絶が危惧されている。
- (4)こうした中、パラオ政府は「国家インフラ投資計画2021-2030」にてミナト橋の改修又は架け替えの必要性を挙げ、同国の道路・橋梁分野において多大な協力実績を有している我が国に対し、架け替えに係る緊急の要望を行った。
- (5)本事業は、同国の経済活動の中心地であり人口が集中するコロール島と同国唯一の商業港及び発電所を有するマラカル島を結ぶミナト橋の架け替えを行い、橋梁の強靭化及び円滑な通行の確保による輸送力の安定化を図るものである。
- (6)本計画は、2021年8月の第9回太平洋・島サミット(PALM9)の重点分野「持続可能で強靭な経済発展の基盤強化」における「デジタル及び物理的な連結性を含む質の高いインフラ開発」に合致し、太平洋島嶼国地域での物理的連結性向上の観点から、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たなプランの柱の一つである「多層的な連結性」にも合致する。また、対パラオ国別開発協力方針(2019年4月)では、重点分野「社会基盤・産業育成基盤の強化、民間投資の支援及び人材育成」にて「道路等の基礎インフラへの支援」を掲げ「インフラの整備及び連結性の強化」に力を入れるとしており、同方針にも合致する。
- (7)パラオの所得水準は相対的に高いことから、「所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用について」に基づき、無償資金協力の供与の適否について精査が必要である。本件は崩落の危険性が指摘されており、仮に崩落することがあれば運輸交通及びライフラインが断絶することが危惧されているミナト橋の架け替えを行なうものであることから、緊急性が高い(「緊急性・迅速性」)。また、パラオは、統計上その所得水準は高いが、人口・経済規模が小さく、観光産業に大きく依存し、国際的な経済変動に脆弱である(「経済的脆弱性」)。さらに、同国はFOIP実現のため地政学的に重要な地域に位置し(「重要政策との関係」)、パラオ政府のハイレベルから累次にわたり要請を受けている(「外交的視点」)。また、本計画は産業基盤強化に資するものであり、SDGsゴール8(包摂的で持続可能な経済成長)及びゴール9(強靭なインフラ構築)に貢献すると考えられる。
上記を踏まえ、無償資金協力として本計画を実施する意義は高い。
2-2 効率性
パラオ政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。ソフトコンポーネントは、本計画と同規模の道路・橋梁建設について、維持管理・点検・補修等が適切に実施されていることから、実施しないことに合意し、コスト削減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2023年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2030年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 橋を利用する車両数が、9,400台/日から10,300台/日となる。
- イ 橋を利用する旅客数が、12,300人/日から13,600人/日となる。
- ウ 橋を通過する貨物量が、2,236トン/日から3,610トン/日となる。
- (2)定性的効果
現在の事業対象区間における最小曲線半径が88メートルであるのに対し、架け替え後は最小曲線半径が145メートルとなり、走行安全性が向上すると考えられる。また、現在は事業対象区間においてコロール島側の陸地区間、橋梁区間には歩道が整備されていないが、架け替え後は、道路両側に歩道が整備されるため、歩行者が安全に利用でき、交通安全向上に寄与する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パラオ政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価(2015年度・第三者評価)