ODA(政府開発援助)

令和6年7月23日

評価年月日:令和6年4月3日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志

1 案件名

1-1 供与国名

 セネガル共和国(以下、「セネガル」という。)

1-2 案件名

 ティエス州地域中核病院拡充計画

1-3 目的・事業内容

 ティエス州地域中核病院の拡張及び医療機材整備を行うことにより、ティエス州及びその周辺地域において、非感染性疾患(以下、「NCDs」という。)を主な対象とした診断・治療体制の強化を図り、もってセネガルの強靭な保健システムの構築を通じたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(以下、「UHC」という。)の達成及び同国のポストコロナ保健投資計画である「ポストコロナ保健投資計画2020-2024」(以下、「PIS」という。)の実現並びに格差是正、レジリエンス強化に寄与するもの。
供与限度額は37.24億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリーCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)セネガル(一人当たり国民総所得(GNI)1,640ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類される。
  • (2)同国では、従来マラリアや結核等の感染性疾患を原因とする死因の割合が高かったが、近年、糖尿病やがん、循環器疾患等のNCDsが増加し、死因の47.2%を占めている(IHME Global Burden of Disease Compare、2019年)。また、同国における新型コロナウイルス感染症の死亡者のうちの97%がNCDsの併存疾患を持っていたことが判明しており(セネガル保健社会活動省、2021年)、NCDsの早期発見・治療が感染性疾患対策においても重要であることから、NCDs診断・治療体制の拡充に緊急的な対応が必要な状況である。
  • (3)一方、同国における人口1,000人当たり総病床数は0.54(セネガル保健社会活動省、2021年)と、サブサハラ・アフリカや低中所得国の平均(それぞれ1.2と0.8)と比較しても劣悪な状況にあり(WHO Global Health Observatory)、NCDs診断・治療に必要とされる血液透析や内視鏡検査、心臓・循環器系手術、CT検査、MRI等に関する施設・機材も不足・老朽化しているのが現状である。
  • (4)同国保健社会活動省は「国家保健社会開発計画2019-2028」(以下、「PNDSS」という。)を策定し、(1)保健・社会福祉分野の財政及びガバナンスの強化、(2)保健・社会福祉のサービス提供の発展、(3)社会的保護の促進の3つを柱としてUHCの達成を目指しており、近年患者数が顕著に増加しているNCDsへの対応を上位政策の一つとしている。さらに、適切な保健インフラの整備を主要課題の一つとして挙げ、保健社会活動省が定める基準に沿った医療施設や機材の整備を目標として掲げている。加えて、新型コロナウイルス感染症の発生を受けて策定したPISの下で、保健サービスの質の改善策の一つとして病院整備に注力し始めている。
  • (5)ティエス州は、首都の所在するダカール州の東に隣接し、人口約220万人を擁する。同州はダカール州の約390万人に次いで2番目に多く(セネガル人口統計庁、2021年)、州の面積は6,670平方キロメートルとダカール州の約12倍である。一方、国のトップレファラルとなる高度な医療を提供する三次病院のほとんどがダカール州に集中しており(全12施設の内10施設)、ダカール州とティエス州を含むその他州との間で医療格差が見られる。ティエス州では、比較的高度な医療を提供する二次病院が計3施設に留まり三次病院が存在しないため、その中でも規模の大きい二次病院であるティエス州地域中核病院は、同州のトップレファラル病院として患者が集中し、恒常的な混雑に繋がっている。さらに、交通の要所に位置することもあり、ジュルベル州、カオラック州等を含む最大400キロメートル圏内から患者を受け入れており、年間診察件数は近年増加の一途をたどっている。中でも循環器科の診察件数は、2015年の2,735件から、2019年には5,553件と2倍以上になっており(RAPPORT DE PRESENTATION DU RAPPORT DE GESTION、2019年)、NCDs患者の増加が顕著である。
     しかしながら、NCDsの診断・治療に必要な高度医療機材の不足・老朽化による受け入れ能力不足や、病院内の煩雑な移動動線によって引き起こされる混雑による診療効率の低下のために、急増するNCDs患者に適切な医療サービスを提供することが困難な状況となっている。このため、本事業では、ティエス州地域中核病院において、NCDsの高度な治療を可能とする専門外来棟(入院病床を含む)とMRI棟を新設することで、従来部門ごとに別棟で提供されていた各治療を専門部署に集約させ、患者及び医療従事者の動線環境を改善し、病院の受け入れ能力向上を図る。これにより、ティエス州及びその周辺地域におけるNCDsを含む診断・治療体制の強化及び質の高い保健サービスへのアクセス改善に貢献する。
  • (6)本計画は、NCDs等の疾病に対する治療体制強化により、セネガル政府が掲げるUHC達成へ貢献するのみならず、NCDs等との合併症(新型コロナウイルス感染症の重症化・死亡リスクの増大等)によるリスクを下げることで、ポストコロナの保健投資計画であるPISの実現にも寄与するものであり、同国の開発課題の解決に資するものである。また、我が国が対セネガル国別開発協力方針(2020年9月)の重点分野「格差是正・レジリエンス強化」で定めている、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に向け、保健医療サービスの提供能力と医療保障制度の両面の強化に対して支援を行う」との方針に合致するほか、SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」にも貢献するものである。さらに、2022年のTICAD 8において我が国が表明した150万人のための保健医療サービスの拡充を具体化する事業として位置づけられる。
  • (7)セネガルは、安定した民政が行われている西アフリカの代表的な民主主義国家であり、アフリカ連合(AU)や西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)に積極的に関与し、地域の紛争終結に向けた仲介役を積極的に務めるなど、域内で中心的な役割を担っている。また、西アフリカ内陸国への玄関口として、流通、経済活動等の地域拠点となっており、日本企業の西アフリカへの進出ポイントとしても重要である。さらに、同国は、国際社会において基本的に我が国の立場を支持する友好国であり、同国の開発ニーズ及び我が国の支援方針に合致する本計画を実施することで、同国の持続的な発展に寄与するとともに、同国との更なる関係強化を図ることは重要である。

2-2 効率性

 セネガル政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。
 施設建築については、現状の病院利用実績及び需要を踏まえ、必要診察室数・必要病床数を算出し、過大とならない適切な施設規模とした。仕上げ材の選定及び設備機器の仕様設定に際しては、医療施設としての機能性及び運用・維持管理の容易性は重視・確保しつつ、類似施設や過去案件の事例を参考にしながら同等程度のグレード設定とすることで、コスト縮減に努めている。具体例は以下のとおり。

  • 外装仕上げをシンプルな必要最低限のものとし固定荷重を削減。
  • 地下ピットを柱梁構造とし工期を短縮。
  • 内装仕上げはセネガルで一般的な仕様であり安価なものを選定。

 機材選定については、コスト・施工効率の観点に加え、現有機材については更新・追加の必要性、新規導入の場合は需要を踏まえその必要性を十分確認している。また、使用可能な人材の有無、使用する人材養成の可否、維持管理可否、セネガル側での調達困難さ等の観点から妥当性を確認し、機材の絞り込みを行っている。

2-3 有効性

 本計画の実施により、計画実施前の基準値(2019-2021年の平均値)と事業完成3年後の2030年の目標値を比べると、主に以下のような効果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 対象診療科の入院患者の受入件数/年が、20,749から25,098に増加する。
    • イ MRIによる画像診断検査件数/年が、0から1,920に増加する。
    • ウ 生理検査件数/年(以下(ア)~(ウ)の合計)が8,666から14,448に増加する。
      • (ア)内視鏡検査件数/年:460から2,160に増加
      • (イ)心電図検査件数/年:4,230から6,144に増加
      • (ウ)超音波診断装置による生理検査件数/年:3,976から6,144に増加
    • エ 化学療法によるがん治療件数/年が3,120から4,800に増加する。
  • (2)定性的効果
    • ア 提供可能な医療サービスの拡充により、対象地域内で対応が不可能であった患者の受け入れ、検査及び治療が可能となり、地域トップリファラル病院としての機能が向上する。
    • イ NCDsを始めとする疾患に対してより高度で適切なサービスが提供されることにより、患者の満足度が高まる。
    • ウ 院内環境、機能の充実、院内動線の改善により、業務効率が向上し、安全性が改善する。
    • エ 臨床教育環境が改善され、院内スタッフ及び医療研修生の自己研鑽意欲が向上する。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)セネガル政府からの要請書
  • (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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