ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和6年1月31日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件概要
(1)供与国名
フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)
(2)案件名
フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化計画(フェーズ3)
(3)目的・事業内容
本計画は、フィリピン沿岸警備隊が使用する巡視船5隻を建造し、同警備隊の沖合及び沿岸域内での海難救助や海上法執行等の業務を迅速かつ適切に実施するための能力向上を図り、もって同国の海上安全の向上に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)巡視船(97メートル級)5隻建造
- (イ)コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 643.80億円 年0.3% 40(10)年 日本タイド - (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.2%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)上、環境や社会への望ましくない影響が最小限であると判断されるため、カテゴリCに該当する。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
フィリピンは7,600を超える島々と世界第5位の海岸線(約3.6万キロメートル)を有する島嶼国であり、海上輸送は同国の経済・社会発展にとって大きな役割を担っている。フィリピン政府は海上ハイウェイ構想(車両を収納可能な貨物船(RoRo船)の航路と島内の幹線道路を接続することで、島々をつなぐ長距離交通網構想)を掲げており、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的な落ち込みがあったものの、2009年から2023年の14年間で、コンテナ船の取扱貨物数は1.9倍増加し、航行者数は1.3倍増加しており、近年は島嶼間の安定的な旅客・貨物輸送数を維持している。一方、船舶の老朽化や過剰積載等の不適切な運航、近年更に増加する自然災害の影響等により海難事故のリスクが高まっており、海難事故発生件数は2018年から2022年の5年間で、年平均1,091件を記録している。また近年、人や物の移動の活発化に伴い海上犯罪のリスクも増加しており、密輸、違法漁業、銃器不法所持、テロ等の脅威に対処するための取締り強化が重要な課題の一つとなっている。これらの課題に対応するため、海難救助・捜査の能力向上に対する協力の必要性が高まっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2023年2月9日に行われた日・フィリピン首脳会談の際に発出された「日・フィリピン共同声明」では、国際環境が一層複雑化する中、二国間の戦略的パートナーシップを強化し、両国の強じん性を推進するため、経済、安全保障、人的交流、地域・国際問題等といった現代的なニーズに応え、実践的な成功を収め続ける、変革的で前向きなパートナーシップに向けて取り組むことで一致している。
また、我が国は対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)における援助重点分野「持続的経済成長のための基盤の強化」の下、治安・テロ対策や海上安全分野の強化等を通じた法執行能力強化支援を掲げており、本計画はこれらの方針に合致する。
さらに、本計画はSDGsゴール9(強靭なインフラの構築)、ゴール14(海の豊かさを守る)及びゴール16(平和と公平をすべての人に)にも貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。
(2)効率性
我が国はこれまでフィリピンの海上安全分野に対して、「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化計画」及び「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化計画(フェーズ2)」等を通じた支援を実施している。これらに加え、本計画を実施することで、フィリピン沿岸警備隊(以下、「PCG」という。)の海上保安能力の更なる強化が期待される。また、PCGにはJICA専門家として海上保安庁から「フィリピン沿岸警備隊海上保安アドバイザー」(2023年~2025年予定)を派遣中であり、船舶の運航・保守に関する計画管理・訓練マニュアルの作成等を実施している。その成果は、本計画により供与される巡視船の効果的な運用・維持管理に対しても適用される予定であり、本計画との相乗効果が見込まれる。
(3)有効性
本計画は、海上における安全確保、すなわち人命・財産保護のため、海上捜索救助、航行安全管理、海上法執行、海洋環境保全等の業務を担うための海上業務の足となる船舶数が不足しているPCGの能力向上を図り、もって当該国の海上安全の向上に寄与するもの。また、本邦技術活用により「顔の見える援助」を促進し、我が国と同国の二国間関係の緊密化等に貢献することが期待される。事業完成2年後となる2030年には、新たに船舶運航時間を7,500時間/年、定期巡航数を60回/年増やすことができる見込み。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
- (1)JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料、フィリピン国別評価報告書(第三者評価・2019年度)。
- (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
- (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。