ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年3月29日
評価年月日:令和5年9月8日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件名
1-1 供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
1-2 案件名
コックスバザール県におけるバングラデシュ漁業開発公社水揚場整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、コックスバザール県のバングラデシュ漁業開発公社水揚場(以下、「BFDC水揚場」という。)において、関連施設及び機材等の整備を行うことにより、漁獲物の水揚効率の向上、衛生的な取扱いによる漁獲物の品質向上を図り、もって同県の漁業従事者の生産性向上及び流通水産物の損失減少を通じ、ミャンマーからの避難民を受け入れているホストコミュニティの生計向上に貢献し、ひいては同国の社会脆弱性の克服に寄与するもの。
供与限度額は、22.94億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、影響はサイトそのものにしか及ばず、不可逆的影響は少なく、通常の方策で対応できると考えられる。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)バングラデシュ(一人あたり国民総所得(GNI)2,820ドル(2022年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- (2)バングラデシュは、インド及びミャンマーと国境を接し、南西アジア地域の安定と経済発展に重要な役割を果たしているとともに、地域の連結性強化等の観点から「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現において重要な位置を占めている。かかる観点から、我が国は、長年主要ドナーとして継続的に同国を支援している。2023年4月の日バングラデシュ首脳会談において、両国関係は「包括的パートナーシップ」から「戦略的パートナーシップ」に格上げされ、両首脳は、両国がベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)構想及び新たに立ち上げられた、ベンガル湾から周辺地域をつなぐ産業バリューチェーンというコンセプトの下、 同国での経済インフラの整備等の向上を継続していくことを再確認した。
- (3)ベンガル湾に面するコックスバザール県は、バングラデシュ随一の漁獲水揚量を誇る。しかし、同県最大の水揚・流通拠点であるBFDC水揚場はインフラの老朽化が著しく、漁船接岸待機や小舟での水揚げ、運搬・作業動線の錯綜、汚染された水での洗浄や梱包等、漁獲物は非効率かつ不衛生な処理過程で品質劣化し、30%を超えるポストハーベスト・ロスが生じている。同県はバングラデシュの中でも貧困率が高く、人口の18%を占める漁業従事者の大半が零細漁民であり、中にはミャンマーから大量流入した避難民を受入れているホストコミュニティの住人も多数含まれており、こうした脆弱層支援の観点からも、流通水産物の質と量の改善が喫緊の課題となっている。
- (4)本計画は、BFDC水揚場の整備を通じて漁獲物の水揚効率の向上、衛生的な取扱いによる漁獲物の品質向上を図り、漁業従事者の生産性向上及び流通水産物の損失減少に寄与するものであり、コックスバザール県の漁業・水産業発展のみならず、ホストコミュニティの住民を含む脆弱な零細漁民の生計向上と栄養改善につながるものである。また、バングラデシュ政府が「第8次5か年計画」(2021-2025)で推進する海洋資源を活用した新たな経済成長を目指す「ブルーエコノミー」、漁獲物の廃棄率削減、漁民の生計向上・貧困削減にも寄与するものである。さらに、SDGsのゴール1(あらゆる場所であらゆる形の貧困を終わらせる)、ゴール2(飢餓を終わらせ、食料安全保障と栄養改善を達成し、持続可能な農業を促進する)、及びゴール14(持続可能な開発のために海洋、海洋資源を保全し、持続可能に利用する)にも貢献するものである。
- (5)我が国は、対バングラデシュ国別開発協力方針において、「中所得国化に向けた、持続可能かつ公平な経済成長の加速化と貧困からの脱却」を基本方針とし、「社会脆弱性の克服」を重点分野の一つとして定めている。また、我が国は、南西アジア地域の安定のため、バングラデシュに流入したミャンマーからの避難民の保護とホストコミュニティの負担軽減のための同国の取組を支援する方針を定め、日バングラデシュ首脳会談でも継続的支援について表明しており、本計画はこれらの方針にも合致する。
- (6)加えて、FOIPのための新たなプランにおける4つの「取組の柱」との関係において、コックスバザールにおける漁獲物の品質向上と廃棄率削減に資する本計画は、食料安全保障の点や環境負荷低減によるブルーオーシャン・ビジョンの点では「インド太平洋流の課題対処」に該当し、ベンガル湾における水産バリューチェーン強化の点では「多層的な連結性」に該当する。更にはホストコミュニティの生計向上に裨益し、ひいては同地域一体の平和と安定に寄与する点においては、「平和の原則と繁栄のルール」にも該当する。
- (7)上記のとおり、本計画の実施については、人道上のニーズ及び緊急性が認められ、我が国とバングラデシュそれぞれの政策方針に合致し、更には二国間関係の強化にも寄与することから、無償資金協力として本計画の実施を支援することが適当である。
2-2 効率性
我が国は、技術協力「ベンガル湾沿岸地域漁村振興プロジェクト」(2021~2026年度)にて、漁業従事者の生計向上を目的とした養殖・加工技術の改善や流通過程を含むバリューチェーンの強化を支援しており、本計画を通じて漁獲物の鮮度改善や加工品の質の向上が図られることで、より遠方への流通が可能になるなど、同技術協力との連携により漁業従事者の生計向上に資する相乗効果が期待できる等、高い効率性が確保されている。
2-3 有効性
- (1)定量的効果
本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2030年の目標値と比較すると、主に以下の成果が期待される。- ア 1日あたりの水揚漁船接岸隻数が、20隻から60隻に増加する。
- イ 漁獲物の水揚場滞留時間が、4時間から2時間に短縮される。
- ウ 鮮魚洗浄利用水が河川水(バッカリ川)から深井戸の水に変わることで、鮮魚洗浄利用水100ミリリットルあたりの大腸菌群数が、88から0に減少する。
- (2)定性的効果
- ア 漁船の水揚げ待ち時間の減少、水揚げ・荷捌時間の短縮による施設利用水産業従事者及び零細漁民の労働環境の改善(BFDC水揚場利用漁船全体の約8割が船籍をホストコミュニティが存する郡に置いており、多くのホストコミュニティ住民が漁民や漁業関係者としてBFDC水揚場を利用している)
- イ BFDC水揚場を利用する漁船のチョットグラム等の代替水揚地の利用頻度の減少
- ウ 水産物の品質の向上及び流通水産物の損失減少
- エ コックスバザール県の水産業従事者の生産性向上
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)バングラデシュ政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)