ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年3月28日
評価年月日:令和6年3月25日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ムンバイメトロ三号線建設計画(第四期)
(3)目的・事業内容
マハーラーシュトラ州の州都ムンバイ都市圏において、総延長約34キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより、増加する輸送需要への対応を図り、もって交通渋滞の緩和と自動車公害減少を通じて、地域経済の発展及び都市環境の改善ひいては気候変動の緩和に寄与するもの。今次借款は輪切り四期目として、2023年度から2024年度までの資金需要に対応する。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)土木・建築工事(地下区間:約34キロメートル、地下駅26駅、地上駅1駅)
- (イ)車両保守基地設備調達
- (ウ)軌道工事
- (エ)電気・機械工事
- (オ)信号・通信工事
- (カ)自動料金収受システム調達
- (キ)地下区間換気設備設置工事
- (ク)自動昇降設備設置
- (ケ)車両調達(248両)
- (コ)その他(車両保守基地工事、駅保安設備調達)
- (サ)コンサルティング・サービス(入札補助・施工監理等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 589.43億円 1.80% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.20%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクターに該当し、影響を及ぼしやすい特性を伴うため、カテゴリAに分類される。本計画に係るEIA報告書は、インド国内法上作成が義務づけられていないものの、2012年9月に作成され、2017年11月と2020年2月に改訂完了済みである。樹木伐採許可、森林クリアランス及び沿岸地域開発許可(Coastal Regulation Zone Clearance)はいずれも2019年9月までに取得済みである。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では、約76.70ヘクタールの用地を必要とするが、そのうち約2.51ヘクタールが民有地である。被影響世帯2,858世帯(8,508人)、うち、2,017世帯(6,781人)の移転が発生している。ムンバイ都市鉄道公社(MMRCL)は用地取得・住民移転対象者との協議を開催しており、JICAガイドラインの要件を満たすよう策定された住民移転計画(新土地取得法及びマハーラーシュトラ州政府の住民移転政策等に基づく)に沿って手続きを進め、用地取得は既に完了している。住民移転については、仮住居への移転は完了している。現在、新住居を建設中であり、恒久的な住居への移転は2025年8月に完了予定。また、非合法居住者については、ムンバイ郊外に用意される公設住宅の1区画の所有権や移転費用等が提供された。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドでは近年急速な都市化が進み、自動車登録台数急増に伴う道路交通需要が拡大する一方で、公共交通インフラの整備が進んでいない。特に、デリー、ムンバイ、アーメダバード等の大都市では、交通渋滞が重大な問題となっており、経済損失及び大気汚染・騒音等の自動車公害による都市環境の悪化や健康被害が深刻化している。インド政府はこれらの課題に対応するため、近年の経済成長に伴う輸送需要への対応・交通渋滞緩和に加え、安全性・エネルギー効率等の観点から、公共交通システムの整備を推進する方針を掲げており、大都市においては、特にメトロの建設を推奨している。
マハーラーシュトラ州政府は、ムンバイ都市圏における道路交通事情の改善、従来の公共交通システムの渋滞緩和、大気汚染の緩和を目指し、「ムンバイメトロマスタープラン」を策定し、大量高速輸送システムである都市鉄道整備を柱とする計画を推進してきた。その中で、本計画は、ムンバイ都市圏の交通渋滞の緩和、経済成長の促進に不可欠な事業として位置付けられ、早期実施が求められている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドでは依然として多くの貧困層を抱え、電力、運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。本計画はマハーラーシュトラ州の州都ムンバイ都市圏において、総延長約34キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより、増加する輸送需要への対応を図り、交通渋滞の緩和と交通公害減少を通じた地域経済の発展及び都市環境の改善ひいては気候変動の緩和に寄与することから、上記重点目標に合致する。
また、本計画はインドの開発課題・開発政策並びに我が国及びJICAの協力方針・分析と合致することに加え、SDGsゴール8「包括的、包摂的で持続可能な経済成長と、万人の生産的な雇用と働きがいのある仕事の促進」、ゴール9「強靭なインフラの構築、包摂的で持続可能な工業化の促進とイノベーションの育成」、ゴール11「包括的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築」、及びゴール13「気候変動とその影響への緊急の対処」に貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。
さらに、2023年3月の岸田総理大臣の訪印時に両首脳は、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係を更に発展させることで一致するなど、両国の関係強化は着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの発展を支援することは、こうした二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
施工監理コンサルタントがアドバイザーとして、事業実施期間であるムンバイ都市鉄道公社(MMRCL)に対する事業完成後の運営/維持管理(O&M)計画策定支援等を行っているほか、O&Mのマネジメント部署(60名程度の職員を配置)の設置に向け、能力強化を行っている。財務面においても、運賃収入に加えて商業・不動産開発事業(駅構内及び車内での広告、駅周辺及び駅内部の店舗、沿線での不動産リース業等)を通じて得られる鉄道外収入も操業・運営費用として活用予定。
以上を通じて、本計画の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2026年)には、以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
新規路線のため、初期値はいずれもなし。- (ア)車両稼働率が87%/年となる。
- (イ)車両運行総距離が113千キロメートル/日となる。
- (ウ)運行数が772本/日となる。
- (エ)乗客輸送量が18百万人・キロメートル/日となる。
- (オ)旅客収入が60.9百万ルピー/日となる。
- イ
- 定性的効果
公害の緩和、気候変動の緩和、移動の定時性確保による利便性の向上、ムンバイ都市圏の経済発展、交通渋滞緩和と都市環境の改善、大気汚染を原因とする健康被害の緩和。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本案件に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。