ODA(政府開発援助)

令和6年3月27日

評価年月日:令和6年1月24日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭

1 案件概要

(1)供与国名

 フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)

(2)案件名

 マニラ首都圏地下鉄計画(フェーズ1)(第三期)

(3)目的・事業内容

 本計画は、マニラ首都圏において地下鉄を整備することにより、増加する輸送需要への対応を図り、もってマニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和と大気汚染及び気候変動緩和に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り三期目として2025年2月から2026年2月までの資金需要に対応するもの。

主要事業内容
  • (ア)駅間・駅部分の土木・建築工事
  • (イ)車両基地・フィリピン鉄道訓練センター整備
  • (ウ)鉄道システム整備
  • (エ)車両調達
  • (オ)コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
1,500億円 年0.3% 40(10)年 日本タイド
  • (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.2%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性(大規模非自発的住民移転)に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係る環境許認可(ECC)は、2017年10月に取得済み。また、線形変更等の修正に伴い環境影響評価報告書(EIS)の修正を行っており、2019年12月に修正版ECCを取得済み。
用地取得及び住民移転:本計画全体で約2,100人の非自発的住民移転が発生する予定である。住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続及びJICAガイドラインを満たす住民移転計画に沿って手続が進められている。
汚染対策:工事中は大気質、水質、廃棄物、土壌汚染、騒音・振動の影響が想定されるが、散水、シルトスクリーン、排水路、腐敗槽の設置、重金属濃度の定期的な測定や再利用、燃料やオイルの適切な保管、シールド工法の採用等の緩和策が取られる。供用時の振動について、地表面の振動レベルは東京都夜間規制基準を下回る見込み。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
  • (ア)マニラ首都圏は620平方キロメートルと比較的小さな都市地域であるにもかかわらず、人口が年間1.8%の割合で増加しており、2000年の993万人から2020年には約1.4倍の約1,348万人に達した(フィリピン統計局、2023年)。人口の過密化にもかかわらず、首都圏内の高架鉄道三路線(うち、二路線は軽量(Light rail transit、LRT))の総延長は50キロメートルにとどまるなど、大量輸送手段としての軌道系公共交通の整備状況は遅れており、交通渋滞が深刻化している。渋滞等による移動時間コストに係る経済的損失は、1日当たり38億ペソ(約90億円)と試算され(「メトロマニラ総合交通管理計画策定プロジェクト」、2022年)、円滑な物流や移動のボトルネックとなり、フィリピンの国際競争力を低下させる要因となっている。
  • (イ)フィリピンの中期開発計画である「フィリピン開発計画(2023~2028年)」では「インフラ網の拡大・質的向上」が重要課題とされ、「シームレスで包摂性のある連結性の実現」が交通インフラ分野の戦略の一つとして掲げられている。また、本計画は、フィリピン政府が進める大規模インフラ整備計画「ビルド・ベター・モア」において旗艦プロジェクトに位置付けられており、フィリピン政府の開発政策において優先度が高い。
我が国の基本政策との関係
  • (ア)我が国政府は、2023年2月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した共同声明において、「ビルド・ベター・モア」政策を踏まえた、フィリピンにおける質の高いインフラの整備に貢献する方針を表明していることから、本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
  • (イ)我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)は、「持続的経済成長のための基盤の強化」を重点分野として、大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備等に対する協力を実施するとしており、本計画は同方針に合致するものである。
  • (ウ)本計画はSDGsゴール9(強靭なインフラの構築)、ゴール11(包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)及びゴール13(気候変動対策)にも貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。

(2)効率性

我が国はこれまでフィリピンの鉄道セクターに対して、マニラ首都圏の軌道系交通網整備のため、開発調査、有償資金協力、技術協力等を通じた支援を行っている。開発調査では、「マニラ首都圏の持続的発展に向けた運輸交通ロードマップ作成支援調査にかかる補足調査」等を通じて、交通実態調査等を支援している。
有償資金協力では、「首都圏鉄道3号線改修計画(第一期及び第二期)」、「南北通勤鉄道計画(マロロス-ツツバン)(第一期及び第二期)」、「南北通勤鉄道延伸計画(第一期及び第二期)」等の支援を行ってきており、我が国はフィリピンの旅客輸送・システム整備における最も重要なパートナーとなっている。
本計画では、地下トンネル掘削、狭隘な部分での施工、安全性・信頼性の高い信号システム及び軽量で省エネルギー効果の高い車両等に係る本邦技術を活用している。
技術協力では、「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」により本計画及び他鉄道路線に携わる鉄道職員の鉄道運行に関する知見・技術力向上を目的とした研修などを実施しており、これらの連携により、本計画での効率性を確保する。

(3)有効性

 本計画の実施により、フィリピン首都圏の運輸・交通網の整備が進展することが期待される。現計画の最北端駅から最南端駅(イーストバレンズエラ駅からニノイ・アキノ国際空港駅)までの所要時間は、現在、自動車では約2時間であるが、2031年には、本地下鉄により約40分に短縮される見込みである。また、定性的効果として、地下鉄沿線における公共交通指向型(TOD)開発、マニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和、大気汚染及び気候変動の緩和に貢献する見込みである。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

  • (1)JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料、フィリピン国別評価報告書(第三者評価・2019年度)。
  • (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
  • (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。
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