ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年3月27日
評価年月日:令和6年1月24日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件概要
(1)供与国名
フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)
(2)案件名
ダルトンパス東代替道路建設計画(第一期)
(3)目的・事業内容
本計画は、ルソン島中・北部において同地域及びマニラ首都圏を直接結ぶ主要幹線道路のうち、ダルトンパス区間において、現道の東側にバイパス道路を整備することにより、走行性の改善を図り、もって同地域の連結性強化及び経済活性化に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)土木工事:4車線(片側2車線)の高規格道路約23キロメートル(トンネル2箇所(北トンネル4.5キロメートル、南トンネル1.6キロメートル)、橋梁10箇所を含む)
- (イ)コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 1,000億円 年0.3% 40(10)年 日本タイド - (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.2%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる道路セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係る環境許認可(ECC)は、2023年8月に取得済み。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画は、約124ヘクタールの用地取得と、約54世帯(218人)への影響が想定され、住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続及びJICAガイドラインの要件を満たす住民移転計画に沿って実施される。
- ウ
- 工事中の大気汚染は、定期的な散水や建設機械の維持管理を実施することで影響を緩和する。工事中の水質汚染は濁水処理等を行った上で排水することで影響は最小化される。工事中の騒音は建設機械の台数や稼働時間の削減、発破作業では防音壁を設置する等で影響を緩和する。供用時の騒音は、ガードレールやフェンスの設置等で影響を最小化する。トンネル建設に伴い掘削土の発生が想定されているが、本計画の道路建設への再利用を予定し、残量はフィリピン政府に指定された土捨て場において適切に廃棄される予定。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
フィリピンにおいて、道路は最大の輸送手段であり、貨物輸送の約5割を担っている。特に、円借款により1979年に完成した同国を縦断する日比友好道路(約2,100キロメートル)のうち、ルソン島中・北部に位置するダルトンパスと呼ばれる区間(約60キロメートル)は、米の生産量が国内第二位であるルソン島北部のカガヤン渓谷とマニラ首都圏を直接結ぶ唯一の幹線道路であり、マニラ首都圏への交通・物流の要である。一方で、ダルトンパスは断層上に位置し急峻な山岳地帯を通ることから、自然災害に脆弱であり、1990年にバギオ地震により約半年間通行止めとなったことを始め、台風等により度々斜面崩壊や通行止めが発生している。さらに、ダルトンパスは急勾配及び急カーブにより車両が十分な走行速度を確保できない状況にある。同国政府内では、ダルトンパスの主要幹線道路としての重要性及び災害に対する脆弱性は認識されており、ルソン島中・北部とマニラ首都圏間のアクセス改善のため、災害に強く走行性に優れた代替道路を建設する必要性が高まっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国政府は2022年6月にマルコス政権が発足した際、フィリピン国内のインフラ整備に対し、我が国としてODAや官民連携等を通じた支援を行うことで同国の持続可能な経済発展を強力に後押しする方針を伝達している。さらに、2023年2月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した共同声明において、マルコス政権の「ビルド・ベター・モア」政策を踏まえた、同国における質の高い交通インフラの整備に貢献する方針を表明しており、本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
また、我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)においても、「投資促進を通じた持続的経済成長」の重点分野において、大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備に対する支援の実施を、また「脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定」の重点分野において、災害・環境問題に対応するためのインフラ整備に対する支援を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
さらに、本計画はSDGsゴール9(強靭なインフラの構築)に貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。
(2)効率性
我が国はこれまで、「日比友好道路整備計画」を始め、「地方道路網整備計画(第一期)(第二期)(第三期)」、「中部ルソン高速道路建設計画」、「道路改良・保全計画」、「中部ルソン接続高速道路建設計画」、「幹線道路バイパス建設計画(第一期)(第二期)(第三期)」、「高規格道路網開発マスタープランプロジェクト(フェーズ1、2)」)等の支援を実施している。これらに加え、本計画を実施することで、マニラ首都圏と地方部の更なるアクセス改善及び連結性向上が期待される。
(3)有効性
本計画の実施により、事業対象区間における2019年の実績値を基準値として、事業完成から2年度の2033年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)1日当たりの交通量が、6,400台/日から10,900台/日に増加する。
- (イ)1日当たりの旅客数が、40,600人/日から101,700人/日に増加する。
- (ウ)平均走行速度が、21.2キロメートル/hから42.2キロメートル/hに上がる。
- イ
- 定性的効果
対象地域の物流改善、気候変動の緩和、経済発展の促進等。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
- (1)フィリピン政府からの要請書、フィリピン国別評価報告書(第三者評価・2019年度)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
- (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事前評価表を参照。
- (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。