ODA(政府開発援助)

令和6年2月29日

評価年月日:令和5年11月7日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志

1 案件名

1-1 供与国名

 チュニジア共和国(以下、「チュニジア」という。)

1-2 案件名

 ガベスにおける高度下水処理場建設計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、チュニジア南部ガベスにおいて、既存の下水処理施設に新たに高度下水処理場を併設し、効率的な運営・維持管理を実施することにより、再生水の産業用水としての安定的な活用を図り、もって水資源の保全や地域住民に対する安全な飲料水の確保を通じ、同国における地域間格差の是正に向けた生活環境の改善に寄与するもの。
 供与限度額は32.08億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は最小限と判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)チュニジア(一人当たり国民総所得(GNI)3,840ドル(世銀(2022年)))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
  • (2)チュニジアは、一人当たりの最大利用可能水資源量が、国際的に認められた最低基準1,700立方メートル/年に対し、410.1立方メートル/年(FAO)と絶対的な水不足にある。
  • (3)チュニジア政府は「国家開発5か年計画(2016年~2020年)」において下水処理水の50%以上を再生利用する目標を掲げ、下水セクター開発計画「Water Reuse 2050」にて、下水処理水の利用促進を優先課題に挙げている。現在、チュニジア下水整備公社(ONAS)が管轄する人口3,000人以上の行政区・地域において、122か所の下水処理場が整備されているが、フィルター濾過・紫外線処理等の三次処理施設を備えた施設は約2割(25か所)に限られ、更に三次処理施設を備えていない下水処理施設では二次処理水の水質が悪く、農業・灌漑用水等に再生利用される下水処理水は約2割にとどまる(世界銀行、2018年)。
  • (4)チュニジア南部に位置するガベス県は、同国の主要輸出品の一つであるリン酸製品等を製造する化学産業の集積地であり、低塩分濃度の高品質な産業用水の需要が高い。一方、同県では水資源の地下水への依存度が約93%と極めて高く、水資源の持続的利用が課題である。上記の背景から、人口増加及び産業発展に伴う水資源の増加に対応する新たな水資源確保のため、現在、利用率の低い下水処理水の産業用水への利用促進が喫緊の課題となっている。
  • (5)本計画は、世界的な経済発展と人口増加に伴い唯一増加すると考えられている水資源のうち、下水を産業用水として再生利用することにより、飲料・農業用水等のベーシック・ヒューマン・ニーズをみたすために用いられる水資源の確保を図ることから、ア 「人道上のニーズ」(人間の安全保障の観点から、個人の尊厳、生命、生活に対する脅威への対応)に寄与するものであり、イ 「地球規模の課題への対応」(気候変動による水資源枯渇への適応策の実施)に直結し、さらには同様に絶対的な水不足の状況にある周辺国へのショーケースとして役割を果たすことが期待される(「広域性」)。
  • (6)チュニジア政府からは、同国において知見等が不足している産業用水向けの下水の再生利用に関して、日本政府からの無償資金協力を得つつ、本邦企業の技術を活用し、運営・維持管理を含めて本邦企業の参画を得たいとの強い要望があったところ、事業・運営権対応型無償資金協力の目的・趣旨に沿うものであり、本邦企業の裨益につながる。Equity Back Finance(EBF)円借款(注)の活用により本邦企業が特別目的会社(SPC)に参画する方法もあるが、上述のとおり、同国では産業用水のための下水の再生利用の実績がほとんどないため、同国政府は本事業を実施するためSPCへの出資を検討しておらず、したがってEBF円借款の活用は想定されない。よって、本事業は、上記の観点を満たすものであり、無償資金協力の供与が適当である。
  • (7)チュニジアは、伝統的に我が国と友好関係にあり、我が国の国連安保理常任理事国入りを含め国際社会の多くの場面で我が国の立場を支持するなど極めて協力的である。また、同国は、アフリカ各国とも良好な関係を有していることに加え、欧州に近接する北アフリカに位置することから、アフリカや欧州へのゲートウェイとしても重要性を有する。
  • (8)我が国は、対チュニジア国別開発協力方針において、「地域間格差の是正に向けた生活環境の改善、地方産業振興」を掲げ、「地方部に対し上水・下水等の社会インフラの整備を行う」と定めており、水資源の保全や地域住民に対する安全な飲料水の確保に資する本計画は、本指針に合致するとともに、SDGsゴール6で推進されている「安全な水・衛生」にも貢献すると考えられることから、事業の実施を支援する必要性は高い。

(注)日本企業と途上国政府が共同出資によりSPCを設立し、同SPCを通じてインフラ整備を行う場合に、途上国政府が支払う出資金の原資をJICAが融資(バックファイナンス)する制度。

2-2 効率性

 高度な設計・製造技術を必要としない処理設備の躯体部分に関し、現地または第三国製品を調達する。また、常駐監理者、機械電気技術者、機械据付技術者、配管敷設工事監理者等以外については可能な限り現地傭人を活用する。さらに、軽量鉄骨プレハブ工法の採用、配管・配線類を納める共同溝建設等により工費の最小化を図る。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2021年の実績値を基準値とし、計画完了3年後の2030年の目標値と比較すると、主に以下のような効果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア ガベス下水処理場からの二次処理水放流量が、20,000立方メートル/日から10,000立方メートル/日に減少する。
    • イ 高度下水処理水の産業用水としての再生利用量が、0立方メートル/日から6,000立方メートル/日に増加する。
  • (2)定性的効果
     ガベスにおける代替水資源の開発に伴う安定的な給水及び地下水の保全、下水処理水の再利用に係る技術の向上・普及。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)チュニジア政府からの要請書
  • (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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