ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年2月27日
評価年月日:令和6年2月19日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ラジャスタン州における気候変動対策及び生態系から得られる利益向上計画
(3)目的・事業内容
ラジャスタン州において、森林保全、生物多様性の保全・再生活動、そのために必要な生計向上活動、州森林局の組織体制強化等を通じて、気候変動対策(適応策・緩和策)の推進や生態系サービスの向上を図り、もって同州の持続可能な社会経済発展に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)植林・森林保全(運河周辺への植林、劣化した森林の再生、農地における植林(農家林業)、砂丘の固定化、苗木の育成、水源涵養活動等)
- (イ)生物多様性の保全・再生活動(絶滅危惧種(植物)の保護、生物生息地改善、エコツーリズム等)
- (ウ)生計向上活動(地域住民組織による活動支援等)
- (エ)州森林局の組織体制強化(GIS改良等のDX推進活動、森林官・森林局職員及び地域住民向け能力強化のための研修、研究活動等)
- (オ)コンサルティング・サービス(実施監理、DX推進支援等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 261.33億円 1.60% 30(10)年 優先アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.20%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月公布)(以下、JICA環境社会ガイドライン)上、JICAの融資承諾前にサブプロジェクトが特定できず、且つそのようなサブプロジェクトが環境への影響をもつことが想定されるため、カテゴリFIに分類される。 - イ
- 用地取得及び住民移転
特になし。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドは20世紀初頭には、国土の約40%程度が森林であったが、人口増加により森林への負荷が高まったことで森林の劣化が進行し、1987年には約19%まで低下した。その後、「国家森林政策」に基づくインド政府の取組や、日本の円借款事業を通じて行政と住民が共同で森林管理を行う「共同森林管理(JFM:Joint Forest Management)」の取組が広まったこと等により、森林被覆率は2021年時点で約22%まで回復するも、依然国家目標(33%)や世界平均(30.6%)と比べ低い状況となっている。この状況を受けて、インド政府は、3か年行動アジェンダ(2017年~2019年)において森林資源の適切な保全や利用を推進してきたほか、「国家森林政策2018(草案)」に基づく取組を継続してきている。
ラジャスタン州は、同州においては、森林被覆率20%以上にすることを州独自の目標とした「ラジャスタン州森林政策2023」、「ラジャスタン州気候変動アクションプラン2022」及び2021年より「ラジャスタン女性政策」を掲げており、生物多様性保全、気候変動対策やジェンダー平等を推進している。また、同州はインド国内の中でも年間降水量が比較的少ない地域であり、特に砂漠地帯では土壌流出等の課題に直面しており、近年の気候変動の影響により状況が更に深刻化している。同州の貧困層や特に女性の生計手段が主に自然資源に依存していることから、森林環境の保護、気候変動対策のみならず、同州の社会経済の持続可能な成長という観点からも、効果的な森林及び生物多様性の保全が急務となっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力、運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。本計画は、ラジャスタン州において、森林保全、生物多様性の保全・再生活動、そのために必要な生計向上活動、州森林局の組織体制強化等を通じて、気候変動対策(適応策・緩和策)の推進や生態系サービスの向上を図り、もって同州の持続可能な社会経済発展に寄与することから、上記重点目標のうち、持続的で包摂的な成長への支援に合致する。
また、本計画は、インド政府及びラジャスタン州政府の開発課題・開発政策、並びに我が国及びJICAの協力方針・分析に合致し、森林保全、生物多様性保全、生計向上活動等の推進を通じて貧困撲滅、ジェンダー平等、気候変動対策、生態系の保護・回復・持続可能な使用の促進等に資するものであり、SDGsのゴール1(貧困対策)、5(ジェンダー平等)、13(気候変動対策)、及び15(生態系回復)にも資するものである。
さらに、2023年3月の岸田総理の訪印時には、両首脳は、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係を更に発展させることで一致するなど、両国の関係強化は着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの発展を支援することは、こうした二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
GISシステムの改良の他、UAV(ドローン)を使ったマッピングやモニタリング、森林管理システムの利用、またマイクロプランの電子化、施業計画書作成に必要なデータ収集のための新規モバイルアプリの制作等を検討している。
以上を通じて、本計画の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2036年)には、2023年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)植林面積が本事業により43,436ha拡大することが見込まれる。
- (イ)農地における植林木の生存率は67%から80%に上昇することが見込まれる。
- (ウ)土壌の水分保有率は10%増加することが見込まれる。
- イ
- 定性的効果
気候変動の適応・緩和、生態系サービスの向上、森林研究による育種・育苗方法の改善・開発、貧困層・脆弱層の社会参加、女性の本事業の活動への参画状況。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本案件に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。