ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年2月27日
評価年月日:令和6年2月19日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
チェンナイ周辺環状道路建設計画(フェーズ2)
(3)目的・事業内容
インド南部タミル・ナド州チェンナイ都市圏において、周辺環状道路区間5を新設し、区間2~5においてITS(高度道路交通システム)を導入することにより、急増する道路交通需要への対応や交通渋滞の緩和及び州南部への接続強化を図り、もって同都市圏の経済発展に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)道路建設工事(周辺環状道路(区間5)約26.3キロメートル:新設区間約25.5キロメートル、既存道路改修約0.8キロメートル、本線道路往復6車線、サービス道路往復4車線、橋梁及びアンダーパス等)
- (イ)ITS施設工事・維持管理(区間2~5における料金収受システム(5か所)及び交通管制システム(ITS運営のコントラクター調達を含む))
- (ウ)コンサルティング・サービス(詳細設計レビュー(道路建設)、基本設計レビュー(ITS)、入札補助、施工監理、ITS運営維持管理に係る技術移転、環境社会配慮実施等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 498.47億円 1.80% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.20%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月公布)に掲げる道路セクターに該当し影響を及ぼしやすい特性を伴うため、カテゴリAに該当する。本計画を含むチェンナイ周辺環状道路全区間にかかる環境影響評価(EIA)報告書は、2018年8月にタミル・ナド州高速道路・港湾局(HMPD)により作成・承認済みである。本計画の対象である区間5のEIA及び社会影響評価(SIA)は2023年3月にHMPDに承認された。事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域またはその周辺に該当せず、自然環境への望ましくない影響は最小限であると想定される。約3,400本の樹木への影響が予想されるが、移植、伐採に対する代替植林等を行う計画である。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画は、167ヘクタールの用地取得(うち民有地120ヘクタール、公用地47ヘクタール)、75世帯の住民移転を伴い、同国国内法及びJICA環境社会配慮ガイドラインに基づき作成された住民移転計画に沿って用地取得・住民移転が進められている。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドにおいて、道路は旅客輸送及び貨物輸送の大部分を担っているが、人口増加や経済成長に伴う輸送量の増加により大都市圏では交通渋滞が深刻化している。チェンナイ都市圏でも同様に交通渋滞が深刻化しており、州政府は「Vision Tamil Nadu 2023」(2012年制定)において高水準の経済成長の目標を掲げ、そのための道路インフラ整備を通じた物流促進を重視している。
インド南部に位置するチェンナイ都市圏は、国内外の交通・物流の要所の一つとして機能しており、製造業に力を入れているため、自動車産業をはじめ約600社の日本企業が進出している(2022年時点)。市中心部にあるチェンナイ港の処理能力不足が問題となる中、市北部エンノール港へのアクセス改善が近年課題であったことを受け、タミル・ナド州政府は我が国の円借款「チェンナイ周辺環状道路建設計画(フェーズ1)」(2019年3月EN署名)も活用しつつ、エンノール港への連結性改善に取り組んでおり、本計画はこの一環に位置付けられる。
本計画により整備するチェンナイ都市圏南部の区間についても、日本企業専用の工業団地である「ワンハブ・チェンナイ」や「マヒンドラ工業団地」等の製造業が多数集積する工業団地がある。北部エンノール港へのアクセスや交通需要を改善することはこれらの工業団地に入居する日本企業(日立オートモーティブシステムズ、味の素、東洋水産、高砂香料工業、ヤマハ、フジテック、SMC、坂崎彫刻、NTN等)に裨益する。なお、チェンナイ周辺環状道路の整備については、インド日本商工会の建議書(2017年7月)に早期実施が望まれる案件として掲載済みである。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力、運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。
本計画は、インド南部タミル・ナド州チェンナイ都市圏において、周辺環状道路区間5を新設し、区間2~5においてITSを導入することにより、急増する道路交通需要への対応や交通渋滞の緩和及び州南部への接続強化を図り、もって同都市圏の経済発展に寄与することから上記重点目標のうち、連結性の強化、産業競争力の強化に合致する。
また、本計画は、インドの開発課題・開発政策並びに我が国及びJICAの協力方針・分析に合致することに加え、SDGsのゴール3(健康な生活の確保、万人の福祉の促進(道路交通事故による死傷者を半減))、SDGゴール8(持続的、包摂的で持続可能な経済成長と、万人の生産的な雇用と働き甲斐のある仕事の促進)及びゴール9(強靭なインフラの構築、包摂的で持続可能工業化の促進とイノベーションの育成)にも資するものである。
さらに、2023年3月の岸田総理の訪印時に両首脳は、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係を更に発展させることで一致するなど、両国の関係強化は着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める世界最大の民主主義国であるインドの発展を支援することは、こうした二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
本計画では用地取得・住民移転計画に基づく、適切かつタイムリーな補償や支援の実施を促進する体制として、実施機関内に用地取得・住民移転専任チームを配置する予定。また、同チームは用地取得・住民移転に関わる関係機関と定期的な協議の場を設けて、密なコミュニケーションをとり、事業全体のスケジュールに影響が出ないよう進捗状況を念入りにフォローする予定。
以上を通じて、本計画の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、道路供用開始年より2年後(2031年)には、以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)年平均交通量は52,894PCU/日、45,241台/日となる。
- (イ)旅客数は87,003千人/年、貨物量は18,405千トン/年となる。
- (ウ)所要時間は57分(2022年実績値)から43分に短縮される。
- イ
- 定性的効果
新設された道路周辺地域を含むチェンナイ都市圏の経済発展の促進、渋滞緩和による交通事故削減
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本案件に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。