ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和6年2月9日
評価年月日:令和5年10月31日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志
1 案件名
1-1 供与国名
ケニア共和国(以下、「ケニア」という。)
1-2 案件名
ケニア中央医学研究所研究機能強化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、ケニア中央医学研究所(以下、「KEMRI」という。)において、感染症研究及び検査・診断の早期対応に係る施設及び機材の整備を行うことにより、新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」という。)を含む各種感染症の研究機能強化を図り、もってケニア及びアフリカ域内(特に、東アフリカ地域)における健康危機対応能力の強化及び同国における保健医療サービスへのアクセス向上に寄与するもの。
供与限度額は、30.56億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ケニア(一人当たり国民総所得(GNI)2,170米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)ケニア国内では、HIV/エイズ、結核、マラリアなど感染症が健康被害の上位6位を占め(Global Burden of Disease 2019)、近年でも公衆衛生対策の整備が不十分なことから、各種感染症の突発的な流行が報告されており、COVID-19の流行下においては、医療体制の逼迫に加え、人々の生活や社会経済にも深刻な影響が生じた。
- (3)KEMRIは、1979年に公衆衛生研究機関として設立され、我が国は約半世紀にわたり実験室等の施設整備や、長崎大学による熱帯感染症研究に係る長年の支援を含め人材育成への技術協力を行ってきた。その結果、KEMRIは東アフリカを代表する感染症対策の研究機関となり、国外研究機関との共同研究や周辺国を対象として我が国が実施する第三国研修の実施を担うまでに発展している。COVID-19対応では、ケニアのPCR検査の中核的役割を担い、ピーク時には約5割の検査を行っていた。また、アフリカ疾病予防管理センターからは、KEMRIの検査水準が評価され、アフリカ域内で使用する検査キットの性能試験を委託されているなど、KEMRIは国境を越えて脅威となる感染症の対策に地域レベルでも貢献している。
- (4)一方、今後も発生しうる新興感染症の流行に対応するためには、現在KEMRIが担う感染症研究及び緊急時の早期検査・診断の両機能をより強化するための施設及び機材整備が必要である。特に、COVID-19のような新興感染症に関する研究やリスクの高い病原体を扱う検査・診断においては、バイオセーフティーレベル3(以下、「BSL3」という。)実験室の活用が不可欠であるが、既存のBSL3実験室は手狭で収容人数が限られるため、一度に複数の実験や検査・診断を行うことができないという制約がある。KEMRIが東アフリカ地域の中核的な医療研究機関としての役割を十分に発揮するためには、BSL3実験室の増設が必要である。また、老朽化した機材の更新や、分野横断的に共用可能な機材を整備することにより、KEMRI全体での機材活用・維持管理の最適化を図る必要性が確認されている。
- (5)我が国の対ケニア国別開発協力方針(2020年9月)においても、重点分野として「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」が掲げられている。また、我が国がTICAD 8で表明した「UHC達成に向けた取組」にも資するものであることから、本計画を実施することは我が国の外交政策上も重要である。さらに、KEMRIの研究施設・機材の拡充を通じCOVID-19を含む新興感染症に対する健康危機対応能力の強化にも資することから、SDGsゴール3(健康な生活の確保、万人の福祉の促進)に貢献すると考えられる。
- (6)なお、上記(4)の状況を踏まえ、KEMRIは東アフリカ地域の拠点として位置づけられており、アフリカ域内における健康危機管理体制強化の観点から、本計画は重要である。また、我が国が重視する人間の安全保障の観点からも、本計画を通じた個人の尊厳及び生命、生活に対する脅威への対応が必要であることから、本計画は無償資金協力による実施が適当である。
2-2 効率性
- (1)ケニア政府の要請を踏まえつつ、現地調査により支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とした。また、過去に実施した類似案件との比較を行い、事業費の妥当性を検討した。
- (2)ケニアに対しては、「ケニア中央医学研究所研究能力強化プロジェクト」(2022年~2025年)により、KEMRIの施設・機材の維持管理能力や研究能力の強化に関する支援を実施中であり、本計画との相乗効果が期待される。
2-3 有効性
本計画の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア BSL3実験室を使用する研究プロジェクト数が、4件/年から10件/年へ増加する。
- イ 「ナノテクノロジーによるナノ医薬品の物性評価」、「病原体を含む組織・細胞の超微細形態学的解析」、「タンパク質の網羅的解析」等、従来は実施できなかった研究手法・手技が、新たに6件導入される。
- (2)定性的効果
- ア BSL3実験室を活用した分子疫学的技術を用いた高度な感染症動向の監視(サーベイランス)が行われる。
- イ 感染症対応能力向上に向けた人材育成や研究交流にバーチャルラボが活用される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ケニア政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)ケニア国別評価報告書(2014年度・第三者評価)