ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和8年9月8日
評価年月日:令和8年7月7日
評価責任者:国別開発協力第二課長 廣瀬 愛子
1 案件名
1-1 供与国名
パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)
1-2 案件名
シンド州におけるインダス川洪水防御及び堤防改善計画
1-3 目的・事業内容
シンド州ラルカナ県のインダス川下流域において、堤防の増強を行うことにより、対象区間の決壊リスクを低減し、ラルカナ県及び周辺地域における災害時の経済損失リスクの削減及び災害に負けない強靭な社会の構築を図り、もってパキスタンにおける人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。
供与限度額は25.85億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、「国際協力機構 環境社会配慮ガイドライン」におけるカテゴリBであり、環境への望ましくない影響が重大でないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- パキスタン(一人当たり国民総所得(GNI)1,430ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- パキスタンは、洪水、土砂災害、地震等の自然災害多発国である。特に、中央部を流れるインダス川及びその支川ではモンスーン期の豪雨による洪水の発生頻度が高く、パキスタン社会に多大な経済損失を与えている(2010年洪水:被災者2,000万人以上、損害額100億米ドル、2022年洪水:被災者3,300万人以上、損害額152億米ドル)。インダス川本川では、英国統治時代(1940年代以前)に長い堤防(連続堤防)が整備されていたが、洪水発生時にこれが機能するのか不明なところがあったところ、実際に破堤するリスクを持つ箇所が存在し、本計画の実施地であるシンド州ラルカナ県のインダス川堤防にも同様のリスクがあることが判明した。特に、この地域には人口が密集し幹線道路もあるため、堤防の破堤が大規模な被害に繋がる可能性が高く、当該地域の連続堤防の機能を担保・向上することは急務である。
- 同国政府は、これら現状を踏まえ、連邦洪水委員会(Federal Flood Commission。以下「FFC」という。)を中心に、2015/16年度から2024/25年度を計画期間とする第四期国家洪水計画(National Flood Protection Plan- IV。以下「NFPP-IV」という。)において、優先的な対応として河川構造物の改修・補強を行うとしている。また、2022年の洪水後に同国政府が実施した災害後ニーズ確認調査(Post Disaster Need Assessment)及び2023年1月に発表された復興支援計画(Pakistan Floods 2022: Resilient Recovery, Rehabilitation, and Reconstruction Framework(4RF))でも堤防安全性の確保は必要性が高い事業として位置付けている。これらの計画に基づき、同国政府は、NFPP-IVで掲げる優先事業を実施し、インダス本川や支川を含む主要河川の堤防の嵩上げや護岸工事、補修を一部実施している。しかし、堤防強化は張石工などの護岸工事に限定され、技術面と資金面の制約から改修や補修は殆どが応急復旧程度にとどまっている。
- 我が国は、対パキスタン国別開発方針(2023年9月)において、「人的資本への投資と社会サービスの拡充を通じた人間の安全保障の確保と社会の強靭化」を重点分野(中目標)の一つとして定めており、本計画は、パキスタンの開発課題・政策及び我が国の開発協力方針に合致する。また、第三回世界防災会議(2015年)で採択された「仙台防災枠組」は災害リスクの大幅削減を目指しており、堤防の破堤リスクを低減する本計画はこれに貢献し得る。2022年9月の日本・パキスタン首脳会談、同年11月の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)、また、翌年1月に開催されたパキスタン洪水復興支援国会合において迅速な災害復興支援の展開が求められたことにも対応し得る。さらに、本計画は、治水関連機関の能力強化を通じ、災害に負けない強靭な社会の構築に資するものであり、SDGsのゴール11(包摂的、安全、強靭な都市及び人間居住の構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)にも貢献する。
2-2 効率性
インダス川堤防増強が必要となる区間をFFCと検討した他、災害対応技術協力「2022年洪水を踏まえた効果的な堤防管理のための能力向上プロジェクト」(2023~2025年)により、インダス川の堤防の現況診断に係る技術協力を通じFFCの能力強化を行い、従来型堤防で防御が困難な区間に対する強化型堤防の標準断面の検討も実施済みである。本計画は、上記の成果を踏まえて堤防増強が必要となる区間に強化型堤防の整備を行うものである。
2-3 有効性
本計画の実施により、2010年の洪水を基準値として、事業完成3年後の2032年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- 定量的効果
- 本事業区間の破堤により浸水被害を受ける被災者数(人):790,000から0
- 本事業区間の破堤による浸水面積(平方キロメートル):3,500から0
- 堤防破堤時の被害額(百万パキスタン・ルピー):350,000から0
- 定性的効果
- 周辺住民の生活環境及び生活の質が保護される。
- 本計画の計画、設計、施工、維持管理の各段階で用いる知見や手法の共有により、連邦洪水委員会、シンド州灌漑局の能力が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- パキスタン政府からの要請書
- JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
