ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年12月18日
評価年月日:令和5年10月30日
評価責任者:国別開発協力第一課長 鴨志田 尚昭
1 案件名
1-1 供与国名
ベトナム社会主義共和国(以下、「ベトナム」という。)
1-2 案件名
国立がん病院における医療機材整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、ハノイ市にある、がん予防・治療ネットワークの拠点病院の国立がん病院において医療機材整備を行うことにより、診断体制の強化及びアクセスの改善を図り、もって同病院及び北部・中部地域における医療サービスの質向上を通じた、ベトナムの保健医療における脆弱性への対応に寄与するもの。
供与額18.30億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ベトナム(一人当たり国民総所得(GNI)4,010米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類されている。
- (2)ベトナムでは、経済成長に伴うライフスタイルの変化に伴い、死因上位を占める疾病が感染症から非感染症へと変化してきており、2020年の全死因のうち、非感染性疾患による死亡割合は約80%(保健省統計)を占め、年々増加している。過去30年間に同国のがん罹患率は3倍増加し、2020年の新規がん罹患件数は18万件を超え増加傾向にある。
- (3)かかる状況下、ベトナムは、「国民の健康保護・治療強化のための国家戦略(2011-2020年、 2030年の目標)」(首相決定)において、非感染性疾患の予防と管理、高度専門医療の整備を目標に掲げており、「非感染性疾患の予防管理戦略」(首相決定)では、2025年までに「がん、心血管疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患による早期死亡の20%減少」及び「一般的がん疾患の早期診断率の40%増加」(いずれも対2015年比)を目標としている。
- (4)国立がん病院は、2,100床を有するベトナム最大のがん専門病院であり、教育・研究機能も備え、国立がん病院のサテライト病院として登録している70の医療機関に対してテレカンファレンスを実施し、対応が難しい症例等の指導を定期的に行っている。また、がん診断・治療のトップリファラル病院として北・中部地域の60の提携病院からの紹介患者及びハノイ市内の患者を中心に、年間約8万人の入院患者と30万人以上の外来患者を受け入れ、約2.5万件の外科手術を実施するなど、がん分野において同国内医療施設の支援数、紹介患者数は国内最大である。がん疾患は、体の様々な部位に発生し、種類も多く、転移や再発もあるため、スクリーニング・早期発見、適切な治療、緩和ケア等、包括的なサービスが不可欠であるが、医療機材不足や施設老朽化に伴い、患者のニーズに十分に対応できていない。同病院は、政府資金によって老朽化した全3施設のうちの第一施設を建て替え中で、2023年末までに稼働し始める計画である。第一施設は、ハノイ中心部に立地し患者にも便がよく、高度で先進的なサービスを提供する施設として期待されているが、新しい施設に必要な機材を充分に整備することができていない状況にある。
- (5)我が国の対ベトナム国別開発協力方針において、(1)成長と競争力強化、(2)脆弱性への対応、(3)ガバナンス強化を重点分野としており、本事業は重点分野(2)の下の高齢化や非感染症疾患などの新たな課題への取組も含めた、保健医療、社会保障・社会的弱者支援等の分野における体制整備等の支援に合致する。
- (6)また、本事業は、非感染性疾患の増加という疾病負荷の変容に伴う保健医療ニーズの変化に対応するものであり、我が国の「グローバルヘルス戦略」の基本的考え方(持続可能性)及び自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の第2の柱「インド太平洋流の課題対処」の「国際保健」に合致するものであり外交的意義が高い。さらに、本事業は、ベトナムで増加するがんに対する診断・治療の拠点病院機能の向上を通じ、同国の強靭な保健システム構築に資するものであり、SDGsゴール3(保健)にも貢献することから、本事業の実施を支援する必要性は高い。
- (7)なお、ベトナムの医療分野への支援やがん及び生活習慣病を含む非伝染性疾病の予防と管理について両国協力の重要性が認識されていること、また、これまで我が国がベトナムにおいて実施してきた拠点病院に対する実績に加え、本計画を実施することにより得られた教訓を活かし、域内への展開の取組をがんの診断、予防、治療にも広げることはグローバスヘルス戦略に合致し、我が国が主導するUHCの達成にも寄与することから、本計画は無償資金協力による実施が適当である。
2-2 効率性
ベトナム政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。また、ソフトコンポーネントは、調達対象機材の大半で既に操作経験を有していること、頻繁にメーカー代理店からの技術的指導を受けられることから、本事業においては実施しないことに合意し、コスト削減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2018年実績値を基準値として、事業完成3年後の2028年の目標値を比べて、以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 総検査数が、343,113件/年から487,763件/年に増加する。
- イ PET/CT検査数が、0件/年から3,400件/年に増加する。
- ウ MRI検査数が、2,768件/年から5,768件/年に増加する。
- (2)定性的効果
患者及び医療従事者の満足度の向上、医療サービスの質向上が期待できる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ベトナム政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)ベトナム国別評価報告書(2015年度・第三者評価)