ODA(政府開発援助)

令和7年3月25日

評価年月日:令和6年12月13日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下 健司

1 案件概要

(1)供与国名

 フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)

(2)案件名

 パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズIV)(第二期)

(3)目的・事業内容

 本計画は、マニラ首都圏において、パッシグ・マリキナ川の河川改修及び可動堰等の建設、並びに洪水に対するハザード・マップ作成等の非構造物対策を実施することにより、マニラ首都圏中心部の洪水被害の軽減を図り、もって同地域の脆弱性の克服及び生活・生産基盤の安定に寄与するもの。なお、本計画は2018年に第一期を開始したものであり、今次借款は第二期目として2025年以降の資金需要に対応するもの。

主要事業内容
  • (ア)マリキナ川下流からマリキナ橋までの護岸建設・改修及び浚渫・拡幅
  • (イ)可動堰1基建設
  • (ウ)マンガハン放水路内の逆流防止水門及び橋の架け替え
  • (エ)コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
457.59億円 0.65% 40(10)年 日本タイド
  • (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.55%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICA環境ガイドライン」という。)に掲げる影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係る環境影響評価(EIS)報告書は、1998年6月に環境天然資源省によって承認済みであり、また、補足版EISが公共事業道路省(DPWH)によって作成済みである。
用地取得及び住民移転:本計画では、約38.79ヘクタールの用地取得及び7か所の事業者等の施設の移転、並びに13,838世帯の非正規住民の住民移転を伴う(内、約289世帯の移転が完了)。本計画の用地取得・住民移転は、同国国内手続及びJICA環境ガイドラインに沿って作成された住民移転計画に基づき手続きが進められている。パッケージ2及び3の区間は約9割、パッケージ1の区間は約5割の用地取得が完了した。本計画に係る住民協議では、事業概要、補償及び支援の概要等について説明がなされた。住民協議を通じ、土捨て場と主要道路との間の排水路を周辺の住宅地の洪水被害が大きくならないように埋めないでほしいという要望が出されたため、現排水路は埋めずに事業を進めている。
工事中の大気質、騒音・振動等は、散水や粉じん対策の覆いの徹底、機材の定期的なメンテナンスや仮囲いの設置等により影響を緩和する他、浚渫に伴う濁水、浚渫土、浚渫土の保管・処分に伴う排水等についても影響を緩和する対策を行う。用地取得・住民移転については、施工前・施工中に開始された内部モニタリング及び外部モニタリングを継続する。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 マニラ首都圏は、約1,348万人が居住するフィリピンの政治、経済、文化の中心地であるが、沿岸低地地域のため台風の影響を受けやすく、同地域の経済・社会活動は洪水により深刻な影響を受けてきた。フィリピン政府は、洪水及び排水対策の計画策定や同計画に基づく事業実施など、過去50年以上にわたり継続的にこの課題に取り組んできているが、いまだ100年に一度の確率で発生する洪水への対策については実現に向けた過程にあり、かつ、近年は気候変動の影響により豪雨が激甚化しているため、マニラ首都圏における洪水対策は引き続き必要な状況となっている。
 フィリピン政府は、フィリピン開発計画(2023-2028年)において、自然災害に対する脆弱性の低減や、自然災害に対して安全かつ安心な地域社会の構築を主要施策の一つとして掲げている。本計画は、優先度の高いインフラの戦略的整備推進に向けてフィリピン政府が策定した旗艦プロジェクトに含まれており、同政府における最重要事業の一つとして位置づけられている。
 また、我が国支援による下流部での「パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズIII)」は2018年3月に完工しており、フェーズIIIまでの河川改修事業に加え、本計画による上流部での河川改修とマリキナ堰の建設によって、洪水分派量の調整がより適切に行えるようになることで、経済・人口の密集度が高いマニラ中心部の洪水被害軽減が見込まれている。さらに、本計画対象区間よりも上流部の河川改修はフィリピン側が自己負担で実施中であり、本計画をもって両河川の改修事業が完了することへの期待は高い。
我が国の基本政策との関係
 我が国政府は2022年6月にマルコス政権が発足した際、フィリピン国内のインフラ整備に対し、我が国としてODAや官民連携等を通じた支援を行うことで同国の持続可能な経済発展を強力に後押しする方針を伝達している。さらに、2023年2月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した共同声明において、マルコス政権の「ビルド・ベター・モア」政策を踏まえた、フィリピンにおける質の高いインフラの整備に貢献する方針を表明しており、本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
 また、我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2023年9月)においても、「持続的経済成長のための基盤の強化」の重点分野において、自然災害を含む社会課題解決等に対する協力を実施し、脆弱性の克服及び生活基盤の安定・強化を図る支援を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
 さらに、本計画はSDGsゴール11(包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)に貢献すると考えられる。

(2)効率性

 これまでフェーズIからフェーズIIIにわたり実施した「パッシグ・マリキナ川河川改修計画」における知見を活かして、上流部において本計画を実施する。2002年実施のフェーズIにおいてフェーズIIからIVまでの詳細設計を作成しており、本計画実施によって当初計画が完了する。

(3)有効性

 本計画の実施により、マニラ首都圏の洪水に対する防災環境が改善される。また、民間投資拡大とそれに伴う経済成長・雇用促進等が期待される。洪水に伴う年最大被害額は、2018年に比べて2033年(事業完成2年後)には以下のとおり低減することが見込まれる。

5年確率の洪水規模で約465億円から約406億円に低減する。
30年確率の洪水規模で約1,050億円から約672億円に低減する。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

  • (1)フィリピン政府からの要請書、フィリピン国別評価報告書(第三者評価・2019年度)、JICA環境ガイドライン、その他JICAから提出された資料。
  • (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
  • (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。
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