ODA(政府開発援助)

令和7年3月25日

評価年月日:令和6年12月13日
評価責任者:国別開発協力第一課長 榎下 健司

1 案件概要

(1)供与国名

 フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)

(2)案件名

 ダバオ市バイパス建設計画(第三期)

(3)目的・事業内容

 本計画は、ミンダナオ島南ダバオ州ダバオ市において、同市の南端部と中央部にかけてバイパス道路を建設することにより、増加する交通量への対応及び市内の交通渋滞の改善並びに同市を核とするミンダナオ島最大の経済圏内の物流改善を図り、もってミンダナオ島の経済発展に寄与するもの。なお、本計画は2015年に第一期を開始したものであり、今次借款は今般の為替変動、世界的な物価高騰や新型コロナウィルスの感染拡大による影響等により追加的に発生した資金需要に対応するもの。

主要事業内容
  • (ア)土木工事:29.6キロメートル(片側2車線、トンネル(NATMトンネル:2.3キロメートル×2本(上下線)、開削トンネル:2箇所(合計445メートル))、橋梁(16箇所)を含む。)
  • (イ)コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
463.38億円 0.65% 40(10)年 日本タイド
  • (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.55%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICA環境ガイドライン」という。)に掲げる道路セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係る環境許認可(ECC)は、2023年8月に取得済み。
用地取得及び住民移転:本計画は、154.94ヘクタールの用地取得及び612世帯(1,597名)の非自発的住民移転を伴う。本計画の用地取得・住民移転はフィリピン国内法及びJICA環境ガイドラインに沿って作成された住民移転計画に従って手続き等が進められ、約3.8%の用地取得が完了している。なお、本計画に係る住民協議においては、本計画の実施に対する特段の反対意見は出ていない。
工事中の大気質、水質への影響は散水や、沈殿池やシルトフェンスの設置等の緩和策が取られる。騒音・振動は、夜間工事の禁止や防音壁の設置により緩和する。掘削土等の廃棄物については、一部は本計画の道路敷設の際に再利用され、残りは指定された土捨て場に適切に廃棄される。残土の飛散や流出による影響もモニタリングし適切に管理される。なお、工事中は公共事業道路省(DPWH)及び施工業者が、大気質、騒音・振動、水質等についてモニタリングを行う。本計画による用地取得・住民移転、生計回復支援については、手続の進捗等のモニタリングをフィリピン公共事業道路省が行う。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 ダバオ市(人口約177万人:2020年)は、ミンダナオ島最大の都市で、マニラ、セブに続く国内第3位の人口規模を有し、2045年までに300万人に達すると見込まれている。ダバオ地域の実質GDP成長率は、6.0%(2021年)、8.1%(2022年)と、フィリピン全体の実質GDP成長率(5.7%(2021年)、7.6%(2022年))よりも高い経済成長を遂げている。また、ダバオ市港湾部からは、ミンダナオ島の主要輸出品目である農産物や周辺の日系企業が生産する工業製品等が輸出されており、ダバオ市は同島経済の中心であるとともに、島外へのゲートウェイの機能も有し、同島の経済成長の牽引役として、今後重要性が一層増すことが見込まれている。
 一方、経済成長に伴い、ダバオ地域の車両登録台数は急増しており、2023年には2017年から約52%増加した(約74万台)。また、市内幹線道路沿線に経済活動・宅地開発が集中しているほか、市街地を通過する必要がない通過交通も流入していることから、交通渋滞が発生し、同市の経済活動や物流に支障を来している。今後、同市が更に発展していく中で、交通渋滞の一層の深刻化が懸念される。
 そのため、市街地を迂回して港湾部と同市南端を結ぶバイパス道路を整備することにより、道路交通容量の拡充、都市内交通と通過交通の分離を行い、物流の改善と市内の交通渋滞の緩和を促進する必要がある。
 フィリピンの中期開発計画である「フィリピン開発計画(2023~2028年)」では「インフラ網の拡大・質的向上」が重要課題とされ、「シームレスで包摂性のある連結性の実現」が交通インフラ分野の戦略の一つとして掲げられている。また、本計画は、フィリピン政府として優先度の高い戦略的インフラ整備推進のため策定した旗艦プロジェクトに含まれており、同政府における最重要事業の一つとして位置づけられている。
我が国の基本政策との関係
 我が国政府は2022年6月にマルコス政権が発足した際、フィリピン国内のインフラ整備に対し、我が国としてODAや官民連携等を通じた支援を行うことで同国の持続可能な経済発展を強力に後押しする方針を伝達している。さらに、2023年2月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した共同声明において、マルコス政権の「ビルド・ベター・モア」政策を踏まえた、同国における質の高い交通インフラの整備に貢献する方針を表明しており、本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
 また、我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2023年9月)においても、「持続的経済成長のための基盤の強化」の重点分野において、大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備に対する支援の実施を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
 さらに、本計画はSDGsゴール8(包摂的かつ持続可能な経済成長)及びゴール11(包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市の実現)の達成にも貢献すると考えられることから、本計画の実施を支援する必要性は高い。

(2)効率性

 本計画では、維持管理を受託する民間事業者は、現地企業へ技術移転が可能な海外トンネル運営維持管理会社が共同又は下請で関与することを想定している。十分な実績のある民間事業者が選定されるよう、円借款のコンサルティング・サービスにより選定プロセスを支援することに加え、当該民間事業者への適切なモニタリングを実施機関が行えるよう、トンネル維持管理に係る実施機関の能力強化を支援する。

(3)有効性

 本計画によって、事業完成2年後(2029年)には、新設されるバイパスを一日当たり約31,357台(乗用車換算台数)が利用する見込みであるほか、既存の道路区間における交通量の増加も約2.4倍(2017年の約12,000台から2029年には約29,000台(乗用車換算台数/日))まで抑制できることが見込まれる。また、ダバオ市南端から主要港への所要時間は約90分から約50分に短縮する見込みであり、同市及び周辺地域の経済活動の活性化、対外投資促進への貢献が期待される。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

  • (1)フィリピン政府からの要請書、フィリピン国別評価報告書(第三者評価・2019年度)、JICA環境ガイドライン、その他JICAから提出された資料。
  • (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
  • (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。
ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
政策評価法に基づく事前・事後評価へ戻る