ODA(政府開発援助)

令和5年11月30日

評価年月日:令和5年4月14日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 キルギス共和国(以下「キルギス」という。)

1-2 案件名

 灌漑用水路の運用及び維持のための機材整備計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、キルギス全土において、灌漑用水路の運用及び維持のための機材を整備することにより、灌漑用水路の水供給及び排水の機能改善を図り、もって同国の農業生産性の向上及び水資源の効率的利用を通じた、地域間格差の是正を図るための農村開発支援に寄与することを目的とする。
供与限度額は、10.87億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)キルギス(一人当たり国民総所得(GNI)1,180ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
  • (2)キルギスは、アジアと欧州、ロシアと中東を結ぶ地政学的に重要な地域に位置しており、同国の発展は、中央アジア地域の安定にとって重要である。また、同国は、極めて親日的であり、国際社会での日本との協力にも前向きである。さらに、国際社会がアフガニスタンの自立と安定に向けて取り組む上でも、同国を含む中央アジア地域の安定と協力は不可欠である。
  • (3)キルギスにおいて農業は、就労人口の約19%が従事し、GDPの12%(世銀、2020年)を占める重要な産業である。同国の農業を支えているのは、全国の農地(103.7万ヘクタール)のうち102万ヘクタール以上をカバーしている灌漑システムである。しかし、既存の灌漑用水路の大半は旧ソ連時代に整備されたもので経年劣化が進んでおり、流水能力は建設当初の7割程度まで低下し、維持管理が重大な課題となっている。この灌漑用水路のうち、農業省傘下の水資源局が幹線水路5,700キロメートル、水利組合が支線水路23,200キロメートルを管理しているが、水資源局が保有する維持管理用機械の約半数は30年以上前の旧ソ連時代に導入されたものであり、老朽化が著しい。同国政府は、耐用年数を大幅に越えた機械は更新、修理を繰り返し、スペアパーツも自ら製造するなどの自助努力を続けてきたが、老朽化した機械の維持管理には多大なコストや時間を要するとともに、機械の性能低下により工事の効率性が著しく低下している。
  • (4)キルギスの「国家発展戦略2018~2040」において、農業分野における優先課題として、食の安全保障、有機農業、輸出先の拡大が挙げられており、これらを達成するための農業基盤の形成において、灌漑施設の維持管理が最優先課題とされている。また、同戦略の中期計画(「2018~2022年キルギス発展プログラム『統一、信頼、創設』」)では、「既存の灌漑および排水システムの運用を改善する」とされており、さらに現在策定中の2025年までの農業開発に係る政策「2025年までのキルギスの農業開発構想」では、幹線水路の経年劣化に対して補修工事の距離数を数値目標として掲げることが検討されている。
  • (5)本計画は、キルギス全土において、灌漑用水路の運用及び維持のための機材を整備することにより、灌漑用水路の水供給及び排水の機能改善を図るものであり、キルギス農業が抱える最優先課題に応えるものである。
  • (6)我が国は、対キルギス国別援助方針において、「運輸インフラ維持管理と地域間格差の是正」及び「社会インフラの再構築」を重点分野と定めており、本計画は重点分野「運輸インフラ維持管理と地域間格差の是正」の下の開発課題「都市と地方間の格差是正を図るため、農村開発を中心とした支援を行う。」に合致する。また、本計画は2022年12月に実施された「中央アジア+日本」対話・第9回外相会合の共同声明で打ち出された「成長の質」(気候変動)に合致するとともに、SDGsゴール2(持続可能な農業促進)にも貢献するものであり、高い外交的重要性を有する。
  • (7)また、我が国は、対中央アジア外交の基本方針として、中央アジア諸国の、開かれ、安定し、自立した発展を後押しするとの方針を表明しており(「中央アジア+日本」対話外相会合等)、本計画は、キルギスの灌漑水路の維持管理能力の向上を通じて同国の農業発展を後押しするものであることから、この方針にも合致する。

2-2 効率性

  • (1)キルギス政府の要請を踏まえつつ、現地調査において支援内容の絞り込みを行い、供与する機材の台数は、我が国が想定する事業規模を勘案し、各州の灌漑水路延長や面積などに応じたものとし、適正かつ過大な規模とならない内容とした。
  • (2)供与する機材の種類は、農業水資源地域開発省との協議を踏まえ、最も必要性の高いエクスカベータを優先し、その他機材については、必要最低限の台数とした。

 本計画の実施に際しては、これらの取組を通じて効率的な実施を図る。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2021年実績値に対し、事業完成3年後の2028年には、以下のような成果が期待される。

定量的効果
  • (1)農業水資源地域開発省水資源局州事務所の保有機材による灌漑用水路の浚渫(補修)距離(キロメートル/年)が、211.5キロメートルから499キロメートルに延伸する。
  • (2)農業水資源地域開発省水資源局土地改良部の保有機材による灌漑排水路の浚渫(補修)距離(キロメートル/年)が、29.8キロメートルから67.3キロメートルに延伸する。
定性的効果
  • (1)農業生産性が向上する。
  • (2)災害(土石流など)被害を受けた灌漑水路の復旧対応が迅速になる。
  • (3)干ばつによる農作物への影響が減少する。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)キルギス政府からの要請書
  • (2)JICAの調査報告書
  • (3)キルギス国別評価報告書(2012年度・第三者評価)
ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
政策評価法に基づく事前・事後評価へ戻る