ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和3年3月30日
評価年月日:令和3年3月23日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
デリー高速輸送システム建設計画(フェーズ4)(第一期)
(3)目的・事業内容
インドのデリー首都圏において、総延長約65キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより、増加する輸送需要への対応を図り、もって交通渋滞の緩和と自動車公害減少を通じて、産業競争力の強化に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- (ア)地下鉄道(約27キロメートル)、高架/地上鉄道(約38キロメートル)、地下駅(18駅)、高架駅(26駅)の土木工事
- (イ)電気・通信・信号システム・駅部設備工事・自動料金収受システム等
- (ウ)車両調達(484両)
- (エ)コンサルティング・サービス(設計レビュー・施工監理等)
円借款対象部分は、上記のうち、(ア)、(イ)、(ウ)の一部及び(エ)。
- イ 供与条件
供与限度額 | 金利 | 償還(うち据置)期間 | 調達条件 |
---|---|---|---|
1,199.78億円 | 1.15% | 30(10)年 | アンタイド |
(注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクターに該当するため、カテゴリAに該当する。なお、本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は、インド国内法上作成が義務付けられていないものの、2018年5月に作成、その後2020年6月に改訂済みである。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では、約0.50ヘクタールの用地取得、8世帯32人の非自発的住民移転を伴うため、デリー準州政府の住民移転政策等インド国内法及びJICAガイドラインに基づき作成された住民移転計画に沿って用地取得・住民移転を実施する予定である。なお、現時点で住民移転協議において住民から本計画実施に対する特段の反対意見がないことを確認している。 - ウ
- 外部要因リスク
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が生じうる可能性があることから、その対策として、実施機関が案件形成時及び案件実施時に取り組むべき全36項目の対策リストに合意済みである。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドでは近年急速な都市化が進み、自動車登録台数急増に伴う道路交通需要が拡大する一方で、公共交通インフラの整備が進んでいない。特に、デリー、ムンバイ、コルカタ及びベンガルール等の大都市では、交通渋滞が深刻であり、経済損失及び大気汚染並びに騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化している。こうした中、同国政府は、近年の経済成長に伴う輸送需要に対応することに加え、これらの課題に対応するため、安全性・エネルギー効率・社会環境保全等の観点から優れている公共交通システムの整備を重視している。
デリー準州政府は、デリー首都圏における混雑緩和、大気汚染の緩和を目指し、大量高速輸送システムの導入を柱とする都市交通整備を計画・推進している。また、デリー準州政府策定の「デリー・マスタープラン2021」では、高速輸送システムがデリー首都圏における輸送システムの中核を担うとされている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること、電力及び運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえ、2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては、今後の対インドODAの重点目標として、(a)連結性の強化、(b)産業競争力の強化及び(c)持続的で包摂的な成長への支援を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
また、両国は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下で関係強化を着実に進めており、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進める同国の取組を支援することは、こうした二国間関係の更なる強化にもつながり、外交上の意義が高い。
(2)効率性
各公共交通機関が競合するのではなく、体系的な都市交通を構成するよう互いに補完し、公共交通機関全体として効率よく運営されること、また、財務的に自立した事業実施体制の確立が重要であることから、乗客数の目標値設定に当たっては、対象地域の交通量や住民の所得水準及び移動手段等を調査した上で、既存線の乗客数実績も考慮した推計をしており、より現実的な目標値を設定した上で、それをもとに事業規模を決定した。
また、同実施機関職員は、これまで先行フェーズにおいて円借款コンサルタントと協働して経験を積んでおり、他のメトロ運営団体に対する研修等の外部事業も請け負うなど、人材の技術強化が図られている。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2028年)には、以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果
- (ア)7号線延伸部分における列車運行数:104本/日・一方向
- (イ)8号線延伸部分における列車運行数:187本/日・一方向
- (ウ)新規に建設される10号線における列車運行数:67本/日・一方向
- (エ)7号線延伸部分における乗客輸送量:2,580,000人・キロメートル/日
- (オ)8号線延伸部分における乗客輸送量:7,300,000人・キロメートル/日
- (カ)新規に建設される10号線における乗客輸送量:3,590,000人・キロメートル/日
- (キ)7号線延伸部分における女性専用車両数:1両(全6両編成中)
- (ク)8号線延伸部分における女性専用車両数:1両(全6両編成中)
- (ケ)新規に建設される10号線における女性専用車両数:1両(全6両編成中)
- イ 定性的効果
デリー首都圏における交通渋滞の緩和、気候変動の緩和、自動車公害の緩和、移動の定時性確保による利便性の向上、デリー首都圏の経済発展及び女性専用車両の整備を通じた女性の社会進出促進に寄与する。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
インド政府からの要請書、インド国別評価報告書(第三者評価/2017年度)、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
本計画に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。