ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成30年6月14日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国
(2)案件名
ダッカ都市交通整備計画(III)
(3)目的・事業内容
ダッカ市内に軌道系大量輸送システムである都市高速鉄道を建設するもの。これにより,ダッカ都市圏の輸送需要に対応するとともに,交通混雑の緩和を図り,もってダッカ都市圏の大気汚染の抑制及びバングラデシュ全体の経済発展を通じて,中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- 鉄道構造物建設,車両基地建設,車両調達,電気・信号システム敷設
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 792.71億円 1.0% 30(10)年 一般アンタイド (4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するためカテゴリAに該当する。
本計画にかかる環境影響評価(Environmental Impact Assessment)報告書は,ダッカ都市交通調整局により作成され,2011年7月11日にバングラデシュ国環境森林省環境局により承認済み。なお,環境許認可署名書(Environment Clearance Certificate)は2017年7月に更新されている。 - イ
- 汚染対策
建設中に発生が予見される粉じんの予防として定期的な散水を行う。建設中の騒音・振動の緩和策として,建設機材に対する消音機の装備,遮音壁の設置を行う予定。また,供用時の駅・車両基地からの廃水は,廃水処理設備によって適切に処理する予定。 - ウ
- 自然環境面
本計画対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当せず,自然環境への望ましくない影響は最小限と想定されている。高架建設に伴う植栽伐採の緩和策として高架下に代替植樹を行う。 - エ
- 社会環境面
本計画では,施設建設の大半が既設道路幅を利用し,用地取得は47.0ヘクタール,被影響住民は1,469名が想定されている(実施機関作成の住民移転計画(RAP)によれば,用地取得は全て公有地からなされる予定であり,全ての被影響住民は当該公有地を占有している非正規居住者である。)。用地取得と住民移転は国内法とJICA環境社会配慮ガイドライン,RAPに沿って手続きが進められる。本計画に係る住民協議では,事業概要,計画路線,自然環境及び社会環境に影響を及ぼすと想定される項目への対応策,RAP案の概要,補償内容の説明がなされたが,特段の反対意見は確認されていない。 - オ
- その他・モニタリング
本計画では,工事中は実施機関による監督の下でコントラクターが,供用時は実施機関が,大気質,騒音・振動,水質,用地取得・住民移転等の進捗状況についてモニタリングする。また,施工監理コンサルタントが雇用する外部モニタリング機関により社会配慮面のモニタリングが行われている。 - カ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュの首都ダッカは,1990年から2014年にかけて人口が662万人から1,698万人まで増加しており(国連人口部,2014年),人口増に伴う急激な交通量増大が慢性的な交通渋滞,大気汚染等を引き起こしている。これにより年間3,868百万米ドルの経済損失(バングラデシュ水資源開発庁他,2013年)が発生する等,経済社会活動が阻害されている。同国政府は,本課題の解決に向けて,同国の国家計画である「第6次五か年計画」(2011/12~2015/16年度)に続き「第7次五か年計画」(2015/16~2019/20年度)において,都市圏における道路の交通渋滞の緩和の重要性を指摘している。具体的には,2005年に同国が承認した都市交通マスタープラン「ダッカ都市交通戦略計画」において大量高速輸送システム(Mass Rapid Transit。以下「MRT」という。)の3路線及びバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit。以下「BRT」という。)の3路線の整備が提言され,「ダッカ都市交通網整備事業準備調査」(2009年~2011年)において交通需要,事業費,環境社会配慮の観点からMRT及びBRT路線の優先順位を評価・分析した結果,MRT6号線が優先事業に位置付けられた。本計画は,これらを踏まえて,ダッカ都市圏内の交通渋滞及び大気汚染の緩和に貢献すべく,ダッカ都市圏北部と市内中心部を接続する約20キロメートルのMRT6号線を整備するものである。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
バングラデシュの人口の約3割が依然として貧困状態にあり,電力,運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえ2018年2月に策定された「国別開発協力方針」においては,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(a)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進,発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等),(b)社会脆弱性の克服(貧困削減,初等教育,母子保健,安全な飲料水の供給などSDGsの達成に貢献,防災・気候変動対策等)を掲げている。
本計画は運輸交通網の整備という観点から上記(a)に合致するとともに,公共輸送の促進を図り,温室効果ガス排出削減に寄与することから,(b)に含まれる防災・気候変動対策にも資する。
(2)効率性
フィリピンの「メトロマニラ大都市圏交通混雑緩和計画」の事後評価等から,都市鉄道事業は初期投資額が大きく料金収入だけでの事業実施が困難であり,政府からの資本投入や補助金の助成が不可欠で,事業実施機関の財務健全性を担保するために,事業形成段階で詳細な財政計画や政府支援の行動計画の立案が必要であるとの教訓を得ている。また,インドの「デリー高速輸送システム建設I~IV」等,過去のインドにおける都市鉄道案件の事後評価からは,収益性確保の前提が十分に確保されているかどうかを確認し,不十分な場合はそれを促す必要があると指摘されている。
本計画においても,初期投資額が大きく財務健全性の確保が必要であることから,上記教訓を踏まえ,適切な料金設定を行うとともに,円借款の一部は転貸ではなく借入国政府出資にする予定。また,組織開発支援コンサルティング・サービスにおいてダッカ都市交通会社の財務計画を策定済みであり,特段の財務上の懸念は確認されない。さらに,運賃収入に加え非鉄道収入を確保するために,公共交通志向型開発による開発収入,駅構内の売店設置によるテナント収入,広告収入等の事業計画の策定と実施を支援する予定。(3)有効性
本計画によって,事業完成二年後の2024年には,現在,バスで約2時間以上かかっているウットラ北・モティジール間(約20キロメートル)の所要時間は約45分程度になる見込みであり,ダッカ都市圏の輸送需要に対応するとともに,交通混雑の緩和を図り,もってダッカ都市圏の大気汚染抑制及びバングラデシュ全体の経済発展を通じて,中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するものである。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府の要請書,バングラデシュ国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン
,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。