ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成30年6月14日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国
(2)案件名
マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(IV)
(3)目的・事業内容
バングラデシュ南東部チッタゴン管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所を建設するもの。これにより,同国における電力需要の急増に対処するとともに,温室効果ガスの排出抑制を図り,同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和を通じて,もって中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- 超々臨界圧石炭火力発電所(600メガワット×2基),石炭搬入用港湾
- 送電線(400キロボルト送電線約92キロメートル,鉄塔等),アクセス道路,周辺地域電化
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 673.11億円 1.0% 30(10)年 一般アンタイド (4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる火力発電セクターに該当するため,カテゴリAに該当する。発電所及び港湾の建設・整備に係るEIAは2013年10月に,送電線及びアクセス道路の建設・整備に係るEIAは2013年11月に,バングラデシュ国環境森林省環境局(Department of Environment。以下「DOE」という。)により承認済み。その後,変更された送電線ルートについては,「ダッカーチッタゴン基幹送電線強化事業」の中にて一括でEIA報告書が作成され,2016年6月にDOEにより承認済み。周辺地域電化事業(送配電網の建設)に係るEIAは2015年10月にDOEより承認されている。改訂されたアクセス道路建設分(橋梁約675メートル,新規道路建設約7.4キロメートル,既存道路補修約5キロメートル部分)については,DOE承認済みのEIA報告書が,2018年内に提出される予定。 - イ
- 汚染対策
本計画の発電所から排出される排ガス中の硫黄酸化物(SOx),窒素酸化物(NOx)の何れも,海水式排煙脱硫装置,低NOx燃焼方式を採用することで同国及び国際基準(IFC EHSガイドライン)の基準値を満たす見込み。また,同様に大気中の濃度も同国及びEHSガイドラインの基準値を満たす見込み。煤塵(PM)に関して,EHSガイドライン基準値は満たすものの,PM10(年間値)濃度推定結果(42.4~62.4マイクログラム毎立方メートル)の上限値は唯一同国の基準値を超過する結果が出ているが,これは事業実施前の濃度(42~62マイクログラム毎立方メートル)の影響によるものと考えられ,本計画の寄与は僅か0.4マイクログラム毎立方メートルと推定されている。PMに関して,高煙突(275メートル),電気集塵機を採用することで影響を最小限に抑える。本計画は海水を冷却水として使用するが,排水時は取水時の温度から7℃以内の上昇に抑え,同国の工業排水の基準値(40℃未満)を遵守することにより,生態系への影響は想定されない。騒音は工事中・供用後共に同国及びEHSガイドラインの基準値を満たす見込み。 - ウ
- 自然環境面
事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当しない。事業対象地から南方に約15キロメートルの地点に当国政府がEcologically Critical Areaと指定するソナディア島があるが,汚染対策に記載の緩和策が講じられる。大気汚染,水質汚濁等の影響は限定的であることから,ソナディア島への影響は予見されない。ウミガメ類の繁殖への悪影響を避けるため,産卵期には,建設工事に伴う海面及びその周辺に灯火される光源の明るさの削減,及び騒音・振動の軽減等の対策をとる。また,労働者によるヘラシギ等の希少種やその卵等の採取,捕獲,狩猟行為を禁止する。 - エ
- 社会環境面
発電所・港湾に係る用地取得面積は約572ヘクタールであり,当該地域は,乾季は塩田,雨季はエビの養殖場として利用されている。発電所・港湾の建設・整備により,20世帯(うち16世帯は不法居住)の移転が必要となる。また,被影響住民数は,2,156名である。アクセス道路の新設及び補修/改修(橋梁約675メートル,新規道路建設約7.4キロメートル,既存道路補修5キロメートル部分)に係る用地取得面積は約41ヘクタールであり,93世帯545人の住民移転を伴う(非正規居住者は0名)。バングラデシュ国内手続きとJICA環境社会配慮ガイドラインに沿って作成された住民移転計画(RAP)に従い,用地取得および住民移転の手続きが進められる。送電線建設及び周辺地域電化については実施機関所有地又は政府所有地を活用するため,用地取得は発生しない。なお,現地ステークホルダー協議を実施したところ,参加者から本事業に対する反対意見は確認されなかったが,適切な環境管理や周辺インフラ開発への要望が出された。要望に関して実施機関から適切に対応する旨回答し,参加者からの理解を得た。 - オ
- その他・モニタリング
住民移転,生計回復状況については,実施機関による内部モニタリングと第三者機関による外部モニタリングが実施される。環境面では,工事中は実施機関及びコントラクターが,供用後は実施機関が大気質,水質,騒音・振動等をモニタリングする。 - カ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュでは,近年の高い経済成長や工業化の進展に伴う電力需要の増加に電力供給が追いついておらず,2015年において,潜在需要に対応するために必要な電力9,000メガワットに対し最大出力の実績は8,177メガワット(バングラデシュ電力開発庁(BPDB))と,必要な発電容量の約9割の供給能力に留まっている。また,2016年から10年間にわたり,年率約9.3%の電力需要の増加が見込まれる一方,現在総発電設備容量の約6割を占めるガス火力発電所がエネルギー源として依存する国内産天然ガスは,2016年をピークに産出量が減少することから,電力供給の増強及びエネルギー源の多様化を行うことが喫緊の課題となっている。国家開発戦略の最上位に位置付けられる「第7次五か年計画」(2016/17~2020/21年度)において,電力セクターは2021年までに中所得国化を目指す開発計画の最優先セクターの一つと位置付けられている。また,改訂「電力エネルギー・マスタープラン(Power System Master Plan 2016)」においては,国内天然ガスに代わる新たなエネルギー源を輸入石炭,LNG及び原子力により賄うとされている。本計画は,同国において急増する電力需要に対処し,またエネルギー源の多様化に対応するインフラとして重要視されており,ハシナ首相直轄の優先インフラ事業の一つに位置付けられている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
バングラデシュの人口の約3割が依然として貧困状態にあり,電力,運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえ2018年2月に策定された「国別開発協力方針」においては,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(a)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進,発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等),(b)社会脆弱性の克服(貧困削減,初等教育,母子保健,安全な飲料水の供給などSDGsの達成に貢献,防災・気候変動対策等)を掲げている。本計画は電力・エネルギー需給の安定という観点から(a)に合致し,同国における電力需要の急増に対処し,省エネルギー機材の導入促進によってエネルギー利用効率の向上を図るとともに温室効果ガスの排出の抑制を図るものであることから,(b)に含まれる防災・気候変動対策にも資する。
(2)効率性
対ケニア円借款「モンバサ・ディーゼル発電プラント建設計画」の事後評価等から,メーカー側からの適切なサポートは,発電事業の持続性を高めるとの教訓が得られている。本計画ではコンサルタントの技術移転及びメーカーによる長期保守契約(Long Term Service Agreement)の実施により,維持管理体制の構築と定着を図るほか,本計画において別途雇用する組織強化コンサルタントにより実施機関の管理体制強化を行う。長期保守契約分の入札評価上の取り扱い,契約条件については,入札書類において明確化されている。
(3)有効性
本計画によって,2024年を目途に建設予定の同発電所により,ダッカ首都圏の電力ニーズの30%に相当する年間7,865ギガワット時の発電量が生み出され,電力の安定供給,バングラデシュ経済の更なる成長に貢献する他,温室効果ガスの排出抑制を図り,同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和を通じて,中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府の要請書,バングラデシュ国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン
,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。