ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和5年9月28日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(VII)
(3)目的・事業内容
本計画は、バングラデシュ南東部チョットグラム管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(約600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所、石炭輸入用港湾、送電線、アクセス道路等の関連設備を建設することにより、同国における電力供給の拡大やエネルギー源の多様化を図り、もって同国における経済全体の活性化に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り7期目として2024年10月までの資金需要に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)超々臨界圧石炭火力発電所建設(約600メガワット×2基)、石炭搬入用港湾建設
- (イ)送電線建設(送電線約94キロメートル、鉄塔等)
- (ウ)アクセス道路整備(橋梁約900メートル、新規道路建設約7.4キロメートル、既存道路補修約5.2キロメートル等)
- (エ)周辺地域電化(送電線約25キロメートル、変電所、配電設備)
- (オ)コンサルティング・サービス(基本設計/詳細設計、入札補助、施工監理、組織強化等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 2,175.56億円 1.6% 30(10)年 一般アンタイド - (注)金利は、一般条件(固定・基準)を適用。
コンサルティング・サービス部分に係る金利は、0.1%を適用。
- (注)金利は、一般条件(固定・基準)を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる火力発電セクターに該当し、カテゴリAに分類される。発電所及び港湾の建設・整備に係るEIAは2013年10月に、送電線及びアクセス道路の建設・整備に係るEIAは2013年11月に、バングラデシュ環境森林省環境局(DOE)により承認済み。その後、変更された送電線ルートについては、「ダッカ-チッタゴン基幹送電線強化計画」の一部としてEIA報告書が作成され、2016年9月にDOEにより承認済み。周辺地域電化事業(送配電網の建設)に係るEIAは2015年10月にDOEにより承認済み。なお、港湾設計変更による本計画のEIA報告書の改訂は不要であることを確認済み。同部分における環境影響評価結果及び緩和策については、「マタバリ港開発計画」のEIAとして2018年11月に承認済み。 - イ
- 用地取得
本計画では、発電所・港湾に係る用地取得面積は約709ヘクタールであり、当該地域の一部は、乾季は塩田、雨季はエビの養殖場として利用されていた。発電所・港湾の建設・整備により、44世帯の非正規居住者の住民移転が必要であった。また、被影響住民は約2,500名である。さらに、アクセス道路の新設及び補修(橋梁約900メートル、新規道路建設約7.4キロメートル、既存道路補修約5.2キロメートル部分)に係る用地取得面積は約11ヘクタールであり、102世帯580人の住民移転を伴う。バングラデシュ国内手続きとJICAガイドランに沿って作成された住民移転計画(RAP)に従い、用地取得及び補償や支援の手続が進められている。送電線建設及び周辺地域電化については、実施機関所有地又は政府所有地を活用するため、用地取得は発生しない。なお、現地ステークホルダー協議で寄せられた要望に関し、実施機関が適切に対応し、参加者から理解を得ている。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュでは、近年の経済成長や工業化の進展等により電力需要が急増しており、2021年から2041年にかけて9.3%の増加が見込まれる一方、発電の約6割を依存する国内産天然ガスは産出が頭打ちとなる見通しであり、2018年からは液化天然ガス(LNG)の輸入が開始された。特定のエネルギー源への過度な依存はエネルギー安全保障上の問題を発生させる可能性があり、エネルギー供給構造の多様化が重要な課題となっている。かかる状況下、将来にわたって十分な予備力の確保及び安定的な電力供給のため信頼性の高いベースロード電源の開発を続ける必要性は高く、本計画が果たす役割は大きい。また、エネルギー源の多様化を実現する手段として、同国政府は、輸入LNGに比べ経済性に優れる発電手段の確立を模索しており、バングラデシュ展望計画2021-2041においても、超々臨界圧石炭火力発電の活用を計画している。
同国の「第8次五か年計画」(2020/21~2024/25年度)において、2041年までの先進国入りを目指すためには、低価格な電力の供給を増加させることが不可欠と位置付けられている。また、電力マスタープランにおいても、国内産天然ガスでは賄いきれない電力需要増加に対応するエネルギー源として、輸入LNG、輸入石炭及び原子力を活用する方針が示されている。なお、本計画は同国政府にて首相直轄の最重要計画の一つであり、同国電力セクターにおける重要計画に位置付けられている。2023年4月の日バングラデシュ首脳会談でも本計画対象地域が含まれる南部チョットグラム地域の開発事業の進捗が歓迎され、開発に引き続き協力することが確認されている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
バングラデシュはインドとASEANをつなぐ要衝に位置し、民主主義の定着に努める穏健なイスラムの民主主義国として近年高い経済成長を遂げている一方で、人口の約2割が貧困状態にある後発開発途上国(LDC)であり、インフラの未整備や社会開発の遅れといった課題を抱えている。同国の社会・経済の発展及び安定のために円借款による支援を実施することは、(ア)日バングラデシュ外交関係の一層の強化、(イ)二国間の経済関係強化、(ウ)「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現、(エ)国際社会における協力関係の基盤形成、(オ)SDGs達成への貢献等による国際社会からの共感・信頼醸成に資するものであり、国際社会の安定及び繁栄、ひいては日本の平和及び安全の維持並びに繁栄の実現という開発協力大綱の理念に沿うものであることから、我が国外交政策上の必要性が高い。
バングラデシュでは、上述のとおり電力、運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足している。こうした開発ニーズを踏まえ2018年2月に策定された「対バングラデシュ国別開発協力方針」においては、今後の対バングラデシュODAの重点目標として、(a)中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化(「経済成長を通じた貧困削減」を追求するためのインフラの整備等)、(b)社会脆弱性の克服(貧困削減、初等教育、母子保健、安全な飲料水の供給などのSDGsの達成への貢献)を掲げている。
今回の供与案件は、バングラデシュにおいて急増する電力需要に対処すると同時に、エネルギー源の多様化を図るものであることから、(a)に合致する。
なお、日本政府は「インフラシステム海外展開戦略2025(令和5年6月追補版)」(2022年6月)において、「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を2022年末までに終了する」としていることとの関係については、本計画は既に実施中の案件であることから、支援終了の対象外と整理されている。
(2)効率性
発電所及び石炭搬入用港湾について、発電所・港湾建設のコントラクター及びコンサルタントがバングラデシュ石炭火力発電会社(CPGCBL)に対し、関連の技術移転(組織強化支援と石炭調達支援を含む)を行うこととなっているほか、今後長期保守契約(LTSA)に係る契約を締結予定。CPGCBLは発電所及び石炭搬入用港湾の運営・維持管理に必要な要件を満たす人員の雇用計画を策定済であり、必要な体制・人員が運転開始に向けて順次確保される見込み。
チッタゴン港湾庁(CPA)が運営・維持管理する航路・泊地・防波堤、バングラデシュ送電会社(PGCB)が運営・維持管理する送電線並びに道路交通橋梁省道路・国道部(RHD)及び水資源開発庁(BWDB)が運営・維持管理するアクセス道路については、各機関とも類似事業において十分な経験と能力を有する。
(3)有効性
バングラデシュ南東部チョットグラム管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(約600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所、石炭搬入用港湾、送電線、アクセス道路等の関連設備を建設することにより、2026年を目処に年間7,865ギガワットアワーの発電量が生み出される見込みである。これにより、同国における電力供給の拡大やエネルギー源の多様化が図られ、もって同国における経済全体の活性化に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。