ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和5年3月24日
評価責任者:国別開発協力第一課長 石丸 淳
1 案件概要
(1)供与国名
フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)
(2)案件名
首都圏鉄道三号線改修計画(第二期)
(3)目的・事業内容
本計画は、運行中断等のトラブルが相次ぐマニラ首都圏鉄道三号線(以下、「MRT3号線」)を改修することにより、鉄道の安全性、快適性を向上させ、同線の利用促進を図り、もってマニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和に資するとともに、大気汚染や気候変動の緩和に寄与するもの。我が国は本件事業に対し、2018年11月に381.10億円の円借款を供与しており、今次借款は新型コロナウイルス感染拡大による事業遅延等により追加的に発生した経費に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)車両(営業中及び故障中)、鉄道システム(軌道、信号、電気設備等)、駅施設(エレベーター等)並びに維持管理用機器の改修等
- (イ)コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 173.999億円 年0.1% 40(10)年 日本タイド - (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(以下「JICAガイドライン」という。)」(2010年4月制定)に掲げる鉄道セクターのうち大規模なものに該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断され、かつ、同ガイドラインに掲げる影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当しないためカテゴリBに分類される。既存鉄道は1997年の建設時に、環境天然資源省(DENR)からEIA法の適用を免除するCertificate of Exemptionが発行されており、EIA及び初期環境調査(IEE)の作成が免除されている。また、今次事業によるコモンステーションへの延伸部分については、2008年に環境許認可(ECC)が発行済み。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画は、既存鉄道の改修であり、既存鉄道の敷地内で実施されるため、用地取得及び住民移転は発生しない。
- ウ
- 事業実施に当たっては、感染症対策を含め、関係者間で緊密に情報共有を行い、必要な安全対策を講じる。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
マニラ首都圏内の高架鉄道三路線のうちの一つであるMRT3号線(全長約17キロメートル、総駅数13駅)は、市内で最も交通量が多い道路の一つである環状4号線(EDSA通り)上を通る幹線路線である。2000年の開業後12年間は、日本企業により維持管理業務が実施され安定した運行がなされていたが、他国企業が維持管理を担った2012年以降は予算不足等もあり、適切な維持管理業務が実施されず、線路や車両が劣化し、運行トラブルが頻発する事態となっていた。
このため、フィリピン政府からの要望を受け、我が国は2018年11月、日本の技術を活用してMRT3号線を質の高いインフラとし、鉄道の安全性及び快適性を向上させ、同線の利用促進を図るべく円借款を供与した。2019年5月から日本企業が改修業務を開始し、2020年3月以降は、安定した運行がなされている。
こうした中、フィリピン政府は、フィリピン中期開発計画「2017-2022年」において、マニラにおける大量輸送交通ネットワークの改修と拡大を主要施策の一つとして掲げ、MRT3号線の改修を含むマニラ首都圏の鉄道網強化を最優先課題の一つとした。その後、2022年6月に就任したマルコス政権の要人は、インフラ整備に係る我が国による協力に対する期待を伝えてきており、マルコス大統領自ら、同年7月の一般教書演説において、本計画に言及しつつインフラ整備を継続・拡大する方針を示した。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国政府は、2017年10月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した「今後5年間の二国間協力に関する日・フィリピン共同声明」において、フィリピン国内のインフラ整備に対し日本の資金及び技術力を最大限に活用した質の高いインフラ支援を行うことで、同国の持続可能な経済発展を強力に後押しする方針を明示した。2022年6月に発足したマルコス政権に対しても、同様の方針を伝達しており、本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
また、我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)は、「持続的経済成長のための基盤の強化」を重点分野として、大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備に対する支援の実施を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
さらに、本計画はSDGsゴール9(強靭なインフラの構築)、ゴール11(包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)及びゴール13(気候変動対策)にも貢献すると考えられ、本計画を実施する必要性は高い。
(2)効率性
我が国はフィリピンに対し、これまでに本件事業に加え、「LRT1号線増強計画(I)(II)」、「メトロマニラ大都市圏交通緩和事業(I)(II)」、「マニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張計画」、「南北通勤鉄道計画(マロロス-ツツバン)」、「南北通勤鉄道延伸計画」及び「首都圏鉄道三号線改修計画」等の支援を行っており、同国の旅客輸送・システム整備における最も重要なパートナーとなっている。
同国政府は、鉄道人材育成のためにフィリピン鉄道訓練センター(以下「PRI」という。)を設立し、我が国としても、円借款附帯プロジェクト及び無償資金協力により支援中である。本事業の運営・維持管理主体もPRIで訓練を受けることが想定されており、PRIにおける日本の鉄道運営ノウハウを活用した人材育成との連携により、本計画での効率性を確保する。
(3)有効性
本計画の実施により、MRT3号線の安全性が向上されるほか、これまで設備の劣化により時速40キロメートルにまで引き下げられていた速度が60キロメートルにまで引き上げられる。また、ピークアワーの車両投入数が平均10両から約20両に増加するなど、良好な運営パフォーマンスを維持することが可能となり、以下のような効果が期待される。なお、第一期では、事業完成2年後として2022年を見込んでいたが、新型コロナウイルス感染拡大により事業が遅延したため、第一期から事業完成時期の見直しを行っている。
- ア
- MRT3号線における乗客輸送量が、812,882,534人・キロ(2017年実績値)から1,443,531,817人・キロ(2027年:事業完成2年後)に拡大される。
- イ
- MRT3号線における年平均一日当たりの列車運行数が、142本/日(2017年実績値)から283本/日(2027年:事業完成2年後)に拡大される。
また、本計画の実施により、フィリピン首都圏の運輸・交通網の整備が進展することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
- (1)フィリピン政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。フィリピン国別評価報告書(2019年度・第三者評価)。
- (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
- (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。