ODA(政府開発援助)

令和6年8月9日

評価年月日:令和5年10月12日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 タジキスタン共和国(以下、「タジキスタン」という。)

1-2 案件名

 ハトロン州ジョミ県における上水道改善計画

1-3 目的・事業内容

 本事業は、タジキスタン南西部に位置するハトロン州ジョミ県において、給水施設の改修及び拡張を行うことにより、安全かつ安定的な給水サービスの確立を図り、もって住民の生活環境及び衛生の向上を通じた、同国の基礎的社会サービス向上に寄与することを目的とする。
 供与限度額は、20.95億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 本事業は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2022年1月制定)におけるカテゴリBであり、一般的に、環境や社会に対する望ましくない影響はサイト自体にしか及ばず、不可逆的影響は少ないため、通常の方策で対応できると考えられる。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)タジキスタン(一人当たり国民総所得(GNI)1,210ドル(2022年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
  • (2)タジキスタンは、東・南アジア、欧州・ロシア、中東のそれぞれを結ぶ地域に位置している。同国の安定は、中央アジアひいてはユーラシア地域全体を安定させるために重要であるほか、隣国アフガニスタンの自立と安定に向けた国際社会の取組を推進する上でも不可欠である。また、同国は日本に対して友好的であり、国際社会における日本との協力にも前向きである。
  • (3)本事業の実施地であるタジキスタン南西部のハトロン州は国内最大の人口(約270万人)を擁し、同州を流れるバクシュ川の両岸には広大な農村地帯が広がっている。また、同国は国土の95%以上が山岳地であることから、ハトロン州の平坦地は同国の開発にとり重要な地域である。一方、ハトロン州は、旧ソ連からの独立後に勃発した内戦(1992~1996年)の主な舞台となったことから、内戦終結後も施設の復旧が遅れているほか、人材の流出などの影響もあり、同国の中で最も基礎インフラの開発が遅れている。特に、同州の安全な飲料水へのアクセス率は47%と同国の全国平均(67.1%)と比較しても格段に低く、住民の多くは不衛生な河川や灌漑用水をそのまま飲料水として利用している。また、同州の国家水質基準の不適合率は69.7%と、全国平均の46.2%を大きく上回り、結果として、水因性感染症の罹患リスクが高い地域となっている。
  • (4)このような状況下、タジキスタン政府(国家投資・国有財産管理委員会)は、国家投資プログラム(2021~2025年)及び住宅・共同体発展プログラム(2021~2024年)の中で、ハトロン州の中でも開発が遅れているジョミ県を優先開発地域に指定している。ジョミ県は、首都ドゥシャンベ市の南約70km、バクシュ川右岸の平坦地に位置している。同県の人口17.3万人の内、上水道サービスにアクセス可能な人口の割合は4.3%に留まっており、ハトロン州内の他県に比べても上水道の普及率は最低レベルとなっている。
  • (5)こうした状況を踏まえ、本事業は、ハトロン州ジョミ県において、給水施設の改修及び拡張、水道メータ設置による従量料金制導入を行うことにより、安全かつ安定的な給水サービスの確立を図り、もって住民の生活環境や衛生の向上に資するものである。
  • (6)我が国の対タジキスタン国別開発協力方針においては、「経済・産業開発基盤の整備」、「基礎的社会サービスの向上」及び「安定化促進」を重点分野と定めており、本計画は「基礎的社会サービスの向上」の下に位置する開発課題「水供給の改善」に合致する。また、我が国は、対中央アジア外交の基本方針として、中央アジア諸国の、開かれ、安定し、持続可能な発展を後押しし、地域協力の触媒としての役割を果たしていく方針を表明しており(「中央アジア+日本」対話外相会合等)、この点においても本事業は地方における持続可能な発展を促進するものと位置づけられる。さらに、本事業は、ベーシックヒューマンニーズにアプローチするものであり、我が国が推進する人間の安全保障の観点から重要な意義を有するとともに、SDGs ゴール6(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)にも貢献するため、実施する必要性は高い。
  • (7)さらに、本事業は、岸田総理大臣が2022年4月開催の第4回アジア・太平洋水サミットで発表した「熊本水イニシアティブ」に合致する。また、2022年6月にタジキスタンで開催された「持続可能な開発のための水」国際行動の10年に関する第2回ハイレベル国際会議及び2023年3月の国連での「国連水の行動10年中間評価会議」において、同国がオランダとともに共同議長を務め、我が国もインタラクティブ対話3「気候、レジリエンス(強靭性)、環境のための水」において共同議長を務めるなど、水分野において両国において協調行動を取ってきている。このように、本事業の実施は、我が国の水分野における国際社会に向けた発信に貢献するものであるとともに、本事業を通じ、タジキスタンにおいて持続的な給水サービスを確立し、同国の持続可能な発展を後押しするものであることから、二国間関係の一層の発展に寄与することにつながる。

2-2 効率性

  • (1)タジキスタン政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施した。その結果、給水範囲は、我が国が想定する事業規模も勘案した上で、ジョミ市を中心とした人口稠密な地域を選定し、適正かつ過大とならない規模に調整した。
  • (2)裨益効果への影響を最小限とすることを念頭に先方政府と協議した結果、ア 対象地区のうち人口成長率が他の地区と比べて低い4つの地区への配水をスコープから外し(配管網177キロメートルから124キロメートルに短縮)、イ 高架水槽を取水能力に見合った容量に縮小(2,100立方メートルから1,800立方メートル)した。

2-3 有効性

 本事業の実施により、2022年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2029年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。

  • (1)定量的効果
    • ア 給水対象地域の給水人口が、7,500人から49,801人に増加する。
    • イ 1日当たりの給水時間が、2時間から24時間に増加する。
  • (2)定性的効果
    • ア 利用可能な水量の増加により、住民の生活環境や公衆衛生が改善する。
    • イ 水汲みによる女性・子どもの労働が削減される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)タジキスタン政府からの要請書
  • (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
  • (3)タジキスタン国別評価報告書(2022年度・第三者評価)
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