ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和5年3月20日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
チョットグラム-コックスバザール幹線道路整備計画(第一期)
(3)目的・事業内容
バングラデシュにおける国道1号線のチョットグラム‐コックスバザール区間のうち主要な混雑区間においてフライオーバー及びバイパス道路を建設することにより、同区間の交通の円滑化とマタバリ港へのアクセス向上を図り、もって沿線地域の経済発展及び同国の物流促進に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り1期目として2026年12月までの資金需要に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 道路改良(フライオーバー(1か所)及びバイパス道路(4か所)の建設(計23キロメートル)
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 557.29億円 1.20% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定) (以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる影響を及ぼしやすい特性に当たるため、カテゴリAに該当する。
本計画に係るEIA報告書は、2022年11月にバングラデシュ環境森林省環境局により承認済み。 - イ
- 汚染対策
工事中は、大気質、水質、廃棄物、騒音、振動等について、同国国内の排 出基準及び環境基準を満たすよう、散水、建設重機のメンテナンス、浸出水処理及び残土の再利用、夜間工事の制限、低騒音・低振動機材の活用等の対策を講じる予定。また、供用時は、騒音対策として、沿道の影響を受けやすい施設や住宅周辺での遮音壁の導入を検討する予定。 - ウ
- 自然環境面
本計画の改良区間の一部は、ファシアカリ野生動物保護区及びカララ保護林に隣接し、また、チュナティ野生動物保護区から約4キロメートル離れた場所を通過する。これらの保護区又は保護林にはアジアゾウ他希少種の生息が確認されている。ただし、本計画における改良区間は保護区外であり、事業実施に伴い森林局が定める保護計画を遵守し、自然環境への望ましくない影響を最小化することで、生物多様性及び生態系の機能に重大な負の影響は生じない見込み。さらに、本事業に伴い56,737本の伐採が生じ、植林計画に基づき代替植樹がなされる予定。 - エ
- 社会環境面
本計画では、約80ヘクタールの用地取得を伴い、2,035世帯、9,119人の被影響住民が発生し、1,071世帯、5,340人の住民移転が発生するが、バングラデシュ国内手続及びJICAガイドラインに基づき作成された住民移転計画に沿って用地取得が進められる予定である。住民協議では、非正規住民を含む十分な補償、事前の情報公開等を求める声が確認されたため、被影響住民の要望を反映した補償及び住民移転手続が行われる予定である。なお、被影響住民から事業に係る特段の反対意見は出ていない。 - オ
- その他・モニタリング
本計画では、工事中の大気質、水質、騒音・振動、廃棄物、樹木伐採等に ついて、実施機関の監督の下でコントラクターがモニタリングを実施する。また、供用時の大気質、水質、騒音、植栽等は、実施機関がモニタリングを実施する。さらに、用地取得・住民移転・生計回復支援は、実施機関の責任の下、実施機関の委託を受けたNGO等がモニタリングを実施する。 - カ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュでは、過去10年以上にわたる年率6%強のGDP成長等に伴い交通需要が拡大する中、全交通モードにおける旅客輸送の7割、貨物輸送の6割を占める道路セクターは同国の経済成長において重要な役割を果たしている。首都ダッカからチョットグラムを経てコックスバザールに至る国道1号線は、同国の道路マスタープラン(2009年)において、国内の主要都市を結ぶ最も重要な幹線道路として位置付けられており、また、現在我が国の円借款にて建設を支援中のマタバリ港への主要輸送ルートとして、同港と商工業の中心地であるダッカやチョットグラムを繋ぐ貨物輸送の基幹路線となることが見込まれている。しかし、現在、国道1号線のチョットグラム以南の区間は片側1車線道路であり、かつ十分な幅員が確保されておらず、特に市街地区間では、一般の市内交通(リキシャ、自動三輪車、二輪車・乗用車・バス・普通トラック等)と都市間交通・物流との交通分離がなされていないため、市街地の前後の区間では慢性的な交通渋滞が発生しており、交通安全上の問題も生じている。こうした中、マタバリ港完成後の国道1号線は、大型貨物車に代表される交通量の増加が予測されており、これら問題の解決は喫緊の課題となっている。
同国政府は、「第8次五か年計画」(2020/21~2024/25年度)、「道路マスタープラン」(2009年)等の各種政策で国道1号線の改修・拡幅を優先課題としている。また、マタバリ港開発は、同国の長期開発課題が定められた「ビジョン2041」の中で、同国経済の国際競争力を向上させ国内需要を支えるための重要事業の一つに位置づけられている。
本計画は、マタバリ港の開港を念頭に、主要輸送ルートである国道1号線のチョットグラム‐コックスバザール間の主要混雑区間において、フライオーバー及びバイパス道路を建設し、円滑かつ安全性の高い旅客・貨物輸送に貢献するものであり、同国政府の政策と高い整合性を有している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は、2018年2月に策定した「対バングラデシュ国別開発協力方針」において、今後の対バングラデシュODAの重点目標として、(a)中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進、発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等)、(b)社会脆弱性の克服(貧困削減、初等教育、母子保健、安全な飲料水の供給などSDGsの達成に貢献、防災・気候変動対策等)を掲げている。
本計画は、同国における国道1号線のチョットグラム‐コックスバザール区間のうち主要な混雑区間においてフライオーバー及びバイパス道路を建設することにより、同区間の交通の円滑化とマタバリ港へのアクセス向上を図るものであることから、上記重点目標の(a)に合致する。また、地域連結性の向上推進を通じて、経済活動の加速化に資するものでもあることから、SDGsゴール8(経済成長と雇用)及びゴール9(強靭なインフラ整備)にも貢献すると考えられる。
さらに、2014年の日・バングラデシュ首脳会談において両首脳は経済インフラの開発、投資環境の改善、連結性の向上を柱とする「ベンガル湾産業成長地帯」(BIG-B)構想を推進することで合意しており、本計画は同構想の下、経済インフラ整備や連結性の向上の改善に寄与する案件であり、首脳会談のフォローアップの観点から、外交的重要性が高い。
(2)効率性
モロッコ向け円借款「カサブランカ市南部バイパス建設事業」(評価年度2007年)の事後評価等から、バイパス道路を建設する場合、地域分断の観点から、最新の現場情報を反映した設計図面に基づく社会配慮面に係るアクションプランを作成し、地域住民への情報開示、事前協議を十分に行い、協議結果に基づく必要な数の横断構造物を計画・設計に取り入れることが重要との教訓を得ている。本計画のE/S借款では、地域住民に対して事前に事業説明を行い、詳細設計における構造物の計画・設計に協議結果を反映する予定。
また、フィリピン共和国向け円借款「第二マグサイサイ橋・バイパス道路建設事業」(評価年度 2012年)の事後評価等では、橋梁アプローチ部分の軟弱地盤による地盤沈下、橋梁上のポットホール発生等、設計・施工管理上の問題と思われる事象が発生していることが指摘され、適切な設計・施工管理が重要であるとの教訓を得ている。本計画では、協力準備調査による地質調査の結果、事業対象地に軟弱層が含まれていることが確認されたため、建設段階、維持管理段階での挙動を考慮した軟弱地盤対策工を採用予定である。盛土施工時は施工監理により実際の地盤挙動を把握し、必要に応じて適宜設計や施工方法の見直しを行う予定。
(3)有効性
本計画の実施により、2019年の実績値を基準値として、事業完成2年後の2030年には、国道1号線の特定基準地点(ドハザリ)の平均交通量を13,800台/日から48,700台/日に引き上げるとともに、旅客数及び貨物量もそれぞれ88,000人/日から232,000人/日、10,700トン/日から35,455トン/日に増加見込みであり、さらに、国道1号線のチョットグラム及びチャカリア間の平均所要時間を142分から89分に短縮する見込みである。これにより、国道1号線の交通の円滑化とマタバリ港へのアクセス向上を図り、もって沿線地域の経済発展及び同国の物流促進に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。