ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年3月31日
評価年月日:令和5年3月22日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ラジャスタン州水資源セクター生計向上計画(第二期)
(3)目的・事業内容
ラジャスタン州において、農業に従事する女性の参画推進を含め、老朽化した灌漑施設の改修と市場需要に基づく営農支援等を行うことにより、灌漑効率の向上及び農業生産性の向上を図り、もって事業対象地域の農家の生計の向上及び女性の社会経済活動への参画推進等に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り二期目として事業完了までの資金需要に対応するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)参加型灌漑施設研修
- (イ)水利組合能力強化
- (ウ)営農支援(栽培作物多様化・マーケティング等)
- (エ)農業・灌漑セクターにおけるジェンダー主流化(水利組合の女性部会結成、自助グループ支援、栄養改善等)
- (オ)実施体制強化
- (カ)コンサルティング・サービス(施工監理、調達支援、技術指導等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 188.94億円 1.05% 15(5)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため、カテゴリBに分類される。本計画に係るEIA報告書は、同国国内法上作成が義務づけられておらず、その他環境関連の許認可も不要である。 - イ
- 用地取得及び住民移転
特になし。 - ウ
- 外部要因リスク
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が生じうる可能性があることから、その対策として、実施機関が案件形成時及び案件実施時に取り組むべき全36項目の対策リストに合意済みである。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドにおいて農業及びその関連セクターはGDPの約17%を占め、かつ雇用の約5割を担う重要産業である。インド行政委員会は農業分野における戦略文書「Doubling Farmer’s Income (2017)」を策定し、2022年度の農家所得を2015年度から倍増させることを目指している。しかし、季節的変動に左右される不安定な水資源、施設の老朽化等による漏水など、水利用に改善が必要な状況にある。さらに、灌漑用水の62%を地下水に依存しているため、地下水位の低下や枯渇といった問題も深刻化しており、安定した農産物の生産性確保のために水資源を効率的に活用した灌漑農業の普及が求められている。また、農村に居住する女性の8割が農業セクターに従事し重要な役割を果たしている一方、農業組合や水利組合などの活動に参加できないなど、女性のニーズが反映されないという課題もある。
インド北西部に位置するラジャスタン州は、国内最大の面積及び全国で7番目に多い6,855万人の人口を有している。農業人口は州全体の労働人口の66%を占めており、GDPの26%が農業及びその関連産業となっている。一方で、同州西部には州総面積の6割を占めるタール砂漠が広がっており、年間降雨量もインド全国平均1,083ミリメートルの約半分の584ミリメートル(特に西部の乾燥地帯では322ミリメートル)と少ない。農業生産性の向上には水資源の有効活用が必要だが、現状としては、同州内の多くの地域で、過剰揚水による地下水位低下、灌漑施設の老朽化や不適切な維持管理による破損・漏水といった問題が生じている。
また、ラジャスタン州の農村部においては、農業生産活動や水路の維持管理作業は男性と女性の両方が担っているが、適切な水管理や営農技術、灌漑施設の維持管理技術を得るための研修や、水利組合で行われる営農計画や水管理計画策定等の意思決定プロセスについては、女性の参加機会が極めて制限されている。持続的な灌漑施設の運営・維持管理及び公正かつ効率的な水利用に基づく農業生産性の向上を図るためには、研修や組合活動等に対して、男女が平等に参画できる機会を提供することが重要である。
このような現況に対し、ラジャスタン州は農業生産の拡大を通じ、食料と栄養の安全保障、農業分野の経済力強化を目指し、農業分野の実質GDP成長率4%を確保するという目標のもと、「州農業政策2013(State Agriculture Policy 2013)」を策定している。その中で節水灌漑普及や灌漑施設の整備、作物多様化と高付加価値化による農家の収入向上等を戦略として掲げている。また、同州は、「州水政策(State Water Policy 2010)」において、既存灌漑施設の維持管理や、灌漑効率の向上及び適正な水配分に重点を置いていることから、本計画の実施は同国の開発政策とも高い整合性を有している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力及び運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえ、2016年3月に策定された我が国の対インド国別援助方針においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。このうち農業分野は「持続的で包摂的な成長への支援」に位置付けられており、本計画は同方針に合致するものである。
また、本計画は、SDGsのゴール1(貧困)、ゴール2(持続可能な農業)、ゴール5(ジェンダー平等)及びゴール13(気候変動対策)にも資するものである。
さらに、2022年3月の岸田総理大臣のインド訪問時には「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を更に前進させることで一致するなど、両国の関係強化が着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進めるアジア最大の民主主義国であるインドの取組を支援することは、こうした日印二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。
(2)効率性
事業の持続性を確保することを目的とし、各サブプロジェクトの土木工事の進捗と水利組合能力強化及び営農支援活動を連動させる。加えて、五つの県レベルの事業実施ユニットを州内に設置し、これらの活動を三つのステージに分けて実施・モニタリングする予定である。
以上を通じて、本事業の効率的な実施を図る。
(3)有効性
本計画の実施により、事業完成2年後(2030年)には、2017年比で以下のような成果が期待される。
- ア
- 定量的効果
- (ア)47万ヘクタールの農地において幹線から支線まで改修され、効率的な水利用が可能となる。
- (イ)戸当たりの年間農業粗収入額が、約72,000ルピーから約140,000ルピーに倍増する。
- (ウ)水利組合役員会に占める女性の割合が0%から25%へと増加する。
- イ
- 定性的効果
水利組合・農家グループの組織化・育成、水利組合における女性の発言権や会合への参加度向上、灌漑農業の導入に伴う地域農業の多角化、栄養改善(女性と子供)、ジェンダー・営農知識の向上、気候変動への適応等
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)
JICAガイドライン、その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。