ODA(政府開発援助)

令和5年3月31日

評価年月日:令和5年3月22日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件概要

(1)供与国名

 インド

(2)案件名

 パトナ・メトロ建設計画(第一期)

(3)目的・事業内容

 ビハール州の州都パトナ市において、市内中心部を運行するメトロ1号線・2号線を建設することにより、増加する輸送需要への対応を図り、もって公共交通を中心とした都市開発を通じた同地域の都市環境の改善及び地域経済の発展、気候変動の緩和等に寄与するもの。なお、今次借款は輪切り一期目として2027年までの資金需要に対応するもの。

事業の対象区間
(ア)1号線(新設):
ダナプール駅~ケムニチャック駅間(地下約11キロメートル、高架/地上約7キロメートル、地下6駅、高架/地下8駅、合計約18キロメートル、14駅)
(イ)2号線(新設):
パトナ駅~New ISBT駅間(地下約8キロメートル、高架/地上約7キロメートル、地下7駅、高架/地下5駅、合計約15キロメートル、12駅)
主要事業内容
  • (ア)土木・建設工事
  • (イ)車両調達(約100両)
  • (ウ)軌道等の資機材調達及び敷設工事
  • (エ)電気・機械工事
  • (オ)通信・信号システム工事
  • (カ)変電・配電設備工事
  • (キ)車両基地工事
  • (ク)自動改札システム
  • (ケ)コンサルティング・サービス(入札図書作成支援、入札図書レビュー、入札・調達業務補助、施工監理、環境社会配慮関連業務の支援、運営・維持管理支援(人材育成・組織能力強化含む)、財務基盤・非運賃収益強化、地域開発支援、交通計画策定支援、啓発活動等)
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
986.12億円 1.70% 30(10)年 一般アンタイド
  • (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA)
 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター、影響を及ぼしやすい特性及び影響を受けやすい地域に該当し、カテゴリAに分類される。本計画に係るEIA報告書は、実施機関であるパトナメトロ公社(Patna Metro Rail Corporation Limited。以下「PMRCL」という。)により2020年7月に作成・承認済みである。
用地取得及び住民移転
 本計画は、46世帯227人の非自発的住民移転を伴うため、同国国内法及びJICAガイドラインを満たすよう実施機関によって作成された住民移転計画に沿って用地取得が進められている。
外部要因リスク
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響が生じうる可能性があることから、その対策として、実施機関が案件形成時及び案件実施時に取り組むべき全36項目の対策リストに合意済みである。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 インドでは近年急速な都市化が進み、自動車登録台数急増に伴う道路交通需要が拡大する一方で、公共交通インフラの整備が進んでいない。特に、デリー、ムンバイ、アーメダバード等の大都市では、交通渋滞が重大な問題となっており、経済損失並びに大気汚染・騒音等の自動車公害による都市環境の悪化や健康被害が深刻化している。同国政府はこれらの課題に対応するため、近年の経済成長に伴う輸送需要への対応・交通渋滞緩和に加え、安全性・エネルギー効率等の観点から、公共交通システムの整備を推進する方針を掲げており、デリー等の大都市(Tier-1都市)に加え、100~400万人の人口を抱える地方中核都市(Tier-2都市)のメトロ整備を重点事業として掲げている。
 ビハール州はインドにおいて近年著しい経済成長を遂げる一方で、大気汚染については2018年にPM2.5のWHO基準の約10倍に当たる数値を記録し、デリーを超える世界第5位の大気汚染レベルとなるなど、急速な人口増加・都市化に伴う大気汚染等の都市問題が深刻化している。こうした中、同州政府は「パトナマスタープラン2031」(2016年)及び「都市交通計画」(2018年)において、メトロ整備を都市開発の中核事業に掲げている。パトナメトロ1号線及び2号線の整備は、増加する輸送需要への対応と公共交通を中心とした都市開発の促進を図るものであり、重要事業と位置づけられていることから、同国の開発政策とも高い整合性を有している。
我が国の基本政策との関係
 インドにおいて、依然として多くの貧困層を抱え、電力及び運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえ、2016年3月に策定された我が国の対インド国別援助方針においては、今後の対インドODAの重点目標として、連結性の強化、産業競争力の強化及び持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。このうち鉄道分野は「連結性強化」に位置付けられており、本計画は同方針に合致するものである。
 また、本計画は、SDGsのゴール8(雇用・経済成長)、ゴール9(強靱なインフラ整備)、ゴール11(持続可能な都市づくり)及びゴール13(気候変動対策)にも資するものである。
 さらに、2022年3月の岸田総理大臣のインド訪問時には「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を更に前進させることで一致するなど、両国の関係強化が着実に進んでいる中、円借款を始めとするODAを通じて、経済・社会開発を進めるアジア最大の民主主義国であるインドの取組を支援することは、こうした日印二国間関係の更なる強化につながり、外交政策上の意義も高い。

(2)効率性

 コンサルティング・サービスにおいて、PMRCLの財務基盤強化策等を実施及び利用客の駅へのアクセスのし易さ(アクセシビリティ)を向上させる取組を支援する予定。また、PMRCLが既に締結しているデリーメトロ公社との協力覚書による内部人材の強化に加え、PMRCL職員に対し案件監理等に関する技術移転を本事業のコンサルティング・サービスを通じて実施する。
 以上を通じて、本事業の効率的な実施を図る。

(3)有効性

 本計画の実施により、事業完成2年後(2030年)には、以下のような成果が期待される。

定量的効果
  • (ア)メトロ1号線・2号線において新たに1日当たり約166本の列車を運行することが可能となる。
  • (イ)メトロ1号線において新たに1日当たり約53.4万人、2号線において新たに1日当たり約26.7万人の乗客を輸送することが可能となる。
  • (ウ)メトロ1号線・2号線の合計で1日当たり約2,630万ルピーの旅客収入を得ることが可能となる。
定性的効果
 パトナ市における交通渋滞・大気汚染・気候変動負荷の緩和、移動の安全性・定時性の確保による経済効率性の向上、計画的な都市開発の推進、経済発展の推進等

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

 要請書、インド国別評価報告書(2017年度・第三者評価)
  JICAガイドライン別ウィンドウで開く、その他国際協力機構から提出された資料。
 案件に関する情報は、交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお、本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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