ODA(政府開発援助)

令和5年2月22日

評価年月日:令和4年12月13日
評価責任者:国別開発協力第一課長 石丸 淳

1 案件概要

(1)供与国名

 フィリピン共和国(以下、「フィリピン」という。)

(2)案件名

 南北通勤鉄道延伸計画(第二期)

(3)目的・事業内容

 本計画は、マニラ首都圏の南北軸の近郊と首都圏を結ぶ南北通勤鉄道(マロロスーツツバン)を南方はラグナ州カランバまで、北方はパンパンガ州クラーク国際空港までそれぞれ延伸することにより、マニラ首都圏及び近郊における都市交通の連結性強化と交通渋滞の緩和を図り、もってマニラ首都圏の経済圏の拡大、投資環境の改善、大気汚染や気候変動の緩和に寄与するもの。我が国は本件事業に対し、2018年11月に輪切り第一期として1,671.99億円を限度とする円借款を供与しており、今次借款は輪切り第二期として2028年4月までの資金需要及びコンサルティング・サービスの増額分に対応するもの。アジア開発銀行(ADB)との協調融資で支援。

主要事業内容
  • (ア)鉄道システム・軌道工事
  • (イ)車両調達
  • (ウ)コンサルティング・サービス
供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
2,700億円 年0.1% 40(10)年 日本タイド
  • (注)金利は、本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価(EIA):本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン(以下「JICAガイドライン」という。)」(2010年4月制定)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。本計画に係る環境許認可(ECC)は、2018年8月に取得済み。また、「マニラ首都圏地下鉄事業(フェーズ1)」乗入れ区間(セナト駅南端~FTI駅~ビクタン駅間)の同事業からの移管区間に関しては、2019年11月にECCを取得済み。さらに、フィリピン国内法に基づき、当該区間の移管に伴い、追加的なECCの取得が必要ないことを確認済み。
用地取得及び住民移転:本計画は、約4,758,698平方メートルの用地取得と、19,671世帯(75,444人)と605の事業主への影響が想定され、住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続及びJICAガイドラインの要件を満たす住民移転計画に沿って実施される。
事業実施に当たっては、感染症対策を含め、関係者間で緊密に情報共有を行い、必要な安全対策を講じる。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 マニラ首都圏は、620平方キロメートルと比較的小さな都市地域であるにも関わらず、人口が年間1.6%の割合で増加しており、2000年の約993万人から2020年には約1.4倍の1,348万人に達した。また、首都圏近郊地域においても、2000年からの20年間で人口が1,790 万人から2,825 万人に増加しており、首都圏への流入交通量が増加していることから、マニラ首都圏の混雑を解消し、持続的な郊外開発を促進することが首都圏及び近郊の質の高い成長において喫緊の課題となっている。
 こうした状況の中、フィリピン政府は、2017年に大規模インフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」を発表し、本計画を同インフラ整備計画の優先事業に位置づけた。その後、2022年6月に発足したマルコス政権の政府要人よりインフラ整備に係る我が国による協力に対する期待が寄せられており、マルコス大統領自ら、同年7月の一般教書演説において、本計画に言及しつつインフラ整備を継続・拡大する方針を示した。
我が国の基本政策との関係
 我が国政府は、2017年10月の日・フィリピン首脳会談の際に発表した「今後5年間の二国間協力に関する日・フィリピン共同声明」において、マニラ首都圏の交通渋滞の抜本的な解決のために、本計画の整備及び実施に協力する方針を明示した。その後、2022年6月に発足したマルコス政権に対しても、フィリピン国内のインフラ整備に対し日本の資金及び技術力を最大限に活用した質の高いインフラ支援を行うことで同国の持続可能な経済発展を強力に後押しする方針を伝達していることから本計画を実施することは二国間関係を更に強化する観点から重要性が高い。
 また、我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)においても、「持続的経済成長のための基盤の強化」を重点分野として、大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備に対する支援の実施を掲げており、本計画は同方針に合致するものである。
 さらに、本計画はSDGsゴール9(強靭なインフラの構築)、ゴール11(包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間住居の構築)及びゴール13(気候変動対策)にも貢献すると考えられ、本計画を実施する必要性は高い。

(2)効率性

 我が国はフィリピンに対し、これまでに本件事業に加え、「LRT1号線増強計画(I)(II)」、「メトロマニラ大都市圏交通緩和事業(I)(II)」、「マニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張計画」、「南北通勤鉄道計画(マロロス-ツツバン)」及び「首都圏鉄道三号線改修計画」等の支援を行っており、同国の旅客輸送・システム整備における最も重要なパートナーとなっている。
 同国政府は、鉄道人材育成のためにフィリピン鉄道訓練センター(以下「PRI」という。)を設立し、我が国としても、円借款附帯プロジェクト及び無償資金協力により支援中である。本事業の運営・維持管理主体もPRIで訓練を受けることが想定されており、PRIにおける日本の鉄道運営ノウハウを活用した人材育成との連携により、本計画での効率性を確保する。
 なお、本計画では、マロロス-ツツバン区間を含め、鉄道システム及び車両の統一した運用が予定されており、効率化が図られている。

(3)有効性

 本計画の実施により、フィリピン首都圏の運輸・交通網の整備が進展することが期待される。また、本邦技術活用により、我が国と同国の二国間関係の緊密化等に貢献することが期待される。さらに、沿線における公共交通指向型(TOD)開発、マニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和、大気汚染及び気候変動の緩和に貢献する見込みである。
 加えて、本計画で南北通勤鉄道を延伸することにより、カランバからクラーク国際空港までの所要時間が、現在の約240分から事業完成2年後の2030年には約120分に半減される見込みである。

3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用

  • (1)フィリピン政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。フィリピン国別評価報告書(2019年度・第三者評価)。
  • (2)本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース、事業事前評価表を参照。
  • (3)なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。
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