ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和3年11月17日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
ダッカ都市交通整備計画(1号線)(第二期)
(3)目的・事業内容
本計画は、バングラデシュのダッカ県及びナラヤンガンジ県において軌道系大量輸送システムである都市高速鉄道(MRT1号線)を建設することにより、交通渋滞及び環境悪化に直面するダッカ都市圏の輸送需要への対応を図り、もって交通混雑の緩和を通じた経済の発展及び都市環境の改善に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- (ア)車両基地建設(土地整備、車庫建設、引き込み線敷設等)
- (イ)鉄道構造物建設(本線建設約30キロメートル、駅舎建設19駅等)
- (ウ)鉄道システム(軌道、電気、通信、信号等)
- (エ)車両調達(200両)
- (オ)詳細設計・入札補助コンサルティング・サービス(F/Sレビュー、基本設計、詳細設計、入札補助等)
- (カ)施工監理コンサルティング・サービス(施工監理・保守管理支援等)
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 1,150.27億円 0.6% 30(10)年 一般アンタイド - (注)金利は、一般条件(固定・基準)を適用。
コンサルティング・サービス部分に係る金利は、0.01%を適用。
- (注)金利は、一般条件(固定・基準)を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当し、カテゴリAに分類される。本計画に係るEIA報告書は、2018年11月にバングラデシュ環境森林省環境局により承認済み。 - イ
- 用地取得
本計画は、約39ヘクタールの用地取得を伴い、534世帯の住民移転が想定されている。用地取得と住民移転はバングラデシュ国内法とJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に従って手続が進められる。住民協議では、十分な補償、事前の情報公開等を求める声があったため、被影響住民からの要望を反映した補償及び住民移転手続が行われる予定である。なお、被影響住民からの本計画実施に対する特段の反対意見は確認されていない。 - ウ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュの首都ダッカは、1990年から2015年にかけて人口が662万人から1,760万人まで増加しており(注1)、人口増に伴う急激な交通需要の増大が慢性的な交通渋滞を引き起こしている。ダッカにおける車両の混雑時平均移動速度は時速6.4キロと東京都商業地域(時速14.7キロ)(注2)の半分以下にとどまっており、大気汚染はPM10濃度(年間平均)が158マイクログラム/立法メートルと世界保健機構が示す環境基準(20マイクログラム/立法メートル~70マイクログラム/立法メートル)を上回る水準にある。これらの交通渋滞による経済損失は、年間数10億米ドルに上ると推定されている。
このような状況から、バングラデシュ政府は、「第7次五か年計画」(2016/17~2020/21年度)の「交通と通信」政策の中で、ダッカ都市圏における道路交通渋滞を適切な投資により緩和することの重要性を示している。かかる方針を踏まえ、2005年に策定された都市交通マスタープラン「ダッカ都市交通戦略計画」(Strategic Transport Plan: STP)を2016年8月に我が国技術協力の下で改訂し、公共交通網として大量輸送システム(Mass Rapid Transit: MRT)5路線及びバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit: BRT)2路線の整備を計画した。本計画は、改訂STPにおいて、ダッカを東西に繋ぐMRT5号線及び南北に繋ぐMRT6号線とともに優先開発事業として位置づけられている。 - (注1)国連人口部 2018年
(注2)国交省 2015年 - イ
- 我が国の基本政策との関係
バングラデシュでは、人口の約1/4弱が依然として貧困状態にあり、電力、運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足している。こうした開発ニーズを踏まえ2018年2月に策定された「対バングラデシュ国別開発協力方針」においては、今後の対バングラデシュODAの重点目標として、(ア)中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化(「経済成長を通じた貧困削減」を追求するためのインフラの整備等)、(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減、初等教育、母子保健、安全な飲料水の供給などのSDGsの達成への貢献)を掲げている。
本計画は、都市鉄道の整備により交通混雑の緩和を通じた経済発展及び大気汚染による環境上の悪影響を軽減し、都市環境の改善を図るものであることから、(ア)に合致するとともに、(イ)に含まれる気候変動対策に資する側面も有している。
また、本計画は、2014年の日バングラデシュ首脳会談で合意した「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下、経済インフラ整備や地域連結性強化に寄与する重要案件であり、本計画を通じて、経済・社会開発を進めるバングラデシュの取組を支援することは、日バングラデシュ関係の更なる強化につながる。
(2)効率性
本計画では、協力準備調査の段階から用地取得の規模や場所を特定し、特に大規模な用地取得が想定される車両基地候補地にて早期から各ステークホルダーとの協議を実施し、社会的合意を得ている。また、詳細設計の段階で地質調査、地下埋設物調査、埋設支障物調査及び文化財調査を詳細に実施するほか、実施機関であるダッカ都市交通会社が建設ヤード及び土捨て場の確保、地下埋設物の移設や除去及びそれに伴う関係機関との調整等を行うことで、工期の遅延やコストオーバーラン等を予防する予定。
(3)有効性
本計画により、ダッカ都市圏において、ダッカ県中心部と衛星都市間を接続するMRT1号線を建設し、公共交通網のネットワークを形成することで、2029年時点でのカムラプール駅からエアポート駅までの区間の移動に係る所要時間が、現在のバス利用時の139分から24.3分に短縮されるなど、ダッカの輸送需要に対応することが見込まれる。これにより、交通混雑の緩和を通じた経済の発展及び都市環境の改善に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。
本計画に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び計画概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。