ODA(政府開発援助)

令和5年10月6日

評価年月日:令和5年4月14日
評価責任者:国別開発協力第二課長 時田 裕士

1 案件名

1-1 供与国名

 ネパール

1-2 案件名

 ドゥリケル病院外傷・救急センター整備計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、ネパールの第三次医療施設の一つであるドゥリケル病院において、外傷・救急センターの建設及び関連機材を整備することにより、外傷・救急患者に対する医療サービスの強化を通じた保健医療サービスの質の向上を図り、もって同国の経済成長及び貧困削減に寄与するもの。
 供与限度額は32.96億円

1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

 本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため、カテゴリBに該当する。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)ネパール(一人あたり国民総所得(GNI)1,230ドル(2021年))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類される。
  • (2)同国は、インドと中国の間に位置しており、同国における民主主義の定着、安定と繁栄は、我が国にとって、政治的・経済的に重要な南西アジア地域全体の安定を確保する上で重要である。かかる観点から我が国は、長年主要ドナーとして継続的に同国を支援している。
  • (3)同国は、2026年までに後発開発途上国卒業、2030年までに中所得国入りという目標を掲げ、経済成長を促進し、国民全体にその恩恵を行き渡らせることにより社会を安定化させるという課題に取り組んでいる。しかし、同国は南西アジア地域で最も所得水準の低い後発開発途上国であり、人間開発指数は191か国中143位(UNDP、2021年)に留まっており、社会経済インフラ不足等の多くの開発課題を抱えている。その中でも特に同国の医療保健体制は極めて脆弱である。
  • (4)ドゥリケル病院は、広域医療の拠点であり、対象21郡から患者を受入れている重要な第三次医療施設である。2015年のネパール大地震では、地震発生直後から患者を受け入れ、災害医療の拠点として機能した。また、インドとの国境地域であるタライ平野に続くシンズリ道路とカトマンズに接続するアラニコ道路の交差点という交通の要衝にあることから、交通事故の負傷者を含め救急の外傷患者が多く、年間の救急外傷患者受入数は2016年に16,292人、2021年には21,665人と増加している。(ドゥリケル病院、2021年)。さらに、脳卒中や心臓病の救急患者の受入れの増大もあり、病床及び医療機材が不足している。このように、外傷・救急患者が増加傾向にある中で、同病院の病床数増加と機材整備を含めた対応能力の強化が急務である。
  • (5)同国では国家医療政策(2019年)において、「すべての国民に対して、基礎保健から高次医療まで、質の高い医療サービスを提供する」ことを中長期的な政策目標として掲げ、その詳細を定めた「保健セクター戦略(2015/16年度~2020/21年度)」(Nepal Health Sector Strategy:NHSS)の実施を通じて目標達成に向け取組を進めている。NHSSの重点戦略の1つに、救急医療を含む公衆衛生上の緊急事態と災害への備えの強化が挙げられており、本件支援はその趣旨に合致するものである。また、我が国は、対ネパール国別開発協力方針(2021年9月)において、「経済成長及び貧困削減」を重点分野の1つに掲げており、救急医療整備に関する本計画は、同方針にも合致するものである。
  • (6)本計画は、ネパールの生活改善に直結する社会・経済基盤整備であり、開発協力の観点から意義があり、また、同国政府が重視する保健医療分野の課題解決に貢献するため、同国政府の期待に応えることで二国間関係の更なる強化につながり、外交的意義も大きい。さらに、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)や人間の安全保障の推進への貢献及びG7議長国としての国際保健協力推進に対するコミットメントのフォローアップの観点からも実施の必要性は高い。

2-2 効率性

  • (1)協力対象となる構造物について、現地調査等で検討を行った結果、要請のあった構造物及び機材全てを対象とするのではなく、先方政府にて対処・負担可能な部分は先方政府負担と整理し、支援の効率化を図っている。
  • (2)また、無償資金協力「トリブバン大学教育病院医療機材整備計画」(2016年12月28日E/N署名)により、カトマンズ盆地におけるレファラル病院としてトリブバン大学教育病院の診断・治療機能を強化しており、ドゥリケル病院との適切な医療分担を図ることで、同国の患者集中化の緩和や地域の総体的な医療サービスの強化などの相乗効果が期待される。
  • (3)さらに、無償資金協力「公立高次病院医療機材整備計画」(2021年4月26日E/N署名)により、カトマンズ盆地内の公立高次病院を対象に、非感染性疾患対策のための医療機材を整備しており、特に非感染性疾患対策について救急から慢性期まで全体の医療サービスを改善するという点で、本計画との相乗効果が期待される。
  • これらの無償資金協力案件による相乗効果を通じて本計画の効率的な実施を図る。

2-3 有効性

 本計画の実施により、外傷・救急医療専用の施設、医療機材が整備されることで、2021年の実績値を基準値として、事業完成から3年後の2029年の目標値と比較すると、以下のような成果が期待される。

  • (1)外傷・救急外来患者数を21,655人/年から31,000人/年に増やすことができる。
  • (2)外傷・救急入院患者数を2,847人/年から4,000人/年に増やすことができる。
  • (3)CT検査数を6,987件/年から10,000件/年に増やすことができる。
  • (4)外傷・救急医療専用の施設、医療機材が整備されることにより、質の高い外傷・救急医療サービスが提供されるほか、医学部生や医療従事者に対し、質の高い外傷・救急医療の研修が実施できる。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)ネパール政府からの要請書
  • (2)ネパール国別評価報告書(2012年度・第三者評価)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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