ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年12月19日
評価年月日:令和4年10月27日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西野 修一
1 案件概要
(1)供与国名
ナイジェリア連邦共和国(以下、「ナイジェリア」という。)
(2)案件名
ラゴス州及びオグン州送電網整備計画
(3)目的・事業内容
ナイジェリア南西部ラゴス州及びオグン州において、送電線新設及び変電所の新設・増強を行うことにより、両州の送電容量の増強及び電力系統の安定化を図り、もって同地域の経済・社会開発に寄与する。
- ア
- 主要事業内容
- 送電線新設(架空新設送電線: 330kV(約110km)、 132kV(約105km))
- 変電所新設(6か所)、改修(3か所)
- コンサルティング・サービス:概略設計、詳細設計、入札補助、施工監理、環境社会配慮支援、運営・維持管理に係る技術支援等
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 261.80億円 1.15% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境社会配慮
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる送変電セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため、カテゴリAに分類される。
本計画に係る環境社会影響評価報告書(ESIA)は、計画地を3区間に分けて作成され、連邦環境省(Federal Ministry of Environment: FME)により、それぞれ2019年2月、5月、7月に承認済み。 - イ
- 汚染対策
工事中は、工事及び建設機械の稼働により排ガスや粉じんの発生が想定されるが、機器の適切なメンテナンス、散水及び資材運搬時のカバー使用等の緩和策が実施され、影響は最小化される見込み。また、湿地帯での仮設アクセス道路建設、鉄塔基礎工事にあたり、工法によってはセメントの流入による水質への影響及びそれに伴う生態系への影響が想定される。セメントの混合は湿地帯外で行い、水資源への排水を避けるほか、仮設アクセス道路建設におけるくい打ち方式の採用検討を含め、緩和策を講じる予定。 - ウ
- 社会配慮
本計画は、約931ヘクタール(内、変電所は約87ヘクタール、送電線は約844ヘクタール)の用地取得、1,989名(526世帯。内非正規84世帯)の非自発的住民移転を伴い、ナイジェリア国内法制度及びJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に従って、用地取得・住民移転の補償手続き等が進められる予定。また、JICAガイドラインに沿って、変電所用地として宗教団体からの9.8haの土地の無償提供がなされる予定。 - エ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
ナイジェリアは、現政権が掲げる国家開発計画(2021-2025年)で、「重要インフラへの投資」を4つの戦略目標の一つと設定し、電力セクターでは送電容量の増強と送電ロスの削減をターゲット目標の一つに掲げている。
同国の電力セクターでは、最大17,700MWと推定される需要に対し、発電設備容量は12,974MWあるものの、主に送電線の容量の制約等のために最大発電電力量は5,520MWに留まっている(ナイジェリア送電公社(Transmission Company of Nigeria: TCN)、2020)。このため、現在、電化率は全国平均55.4%(世界銀行、2020)で、約2億人の国民の約半数が電気を使用しない生活を送ることを余儀なくされており、一人当たりの年間電力消費量は144.525キロ・ワット・アワーに留まっている(TCN、2020)。また、全土で計画停電が恒常化するなど、電力セクターは同国の経済成長の阻害要因とされている。特にTCNが担っている送電分野においては、送電設備容量は7,900MW(TCN、2020)とされており、発電設備容量に比して大幅に不足していることが同国の電力事情改善の最大の障害の一つとなっている。
同国南西部に位置するラゴス州は、同国のGDPの50%近くを占める同国最大の経済・商業活動の中心地であり、拠点を置く日本企業も40社を超える。電力不足は同地域のみならず、同国全体の更なる経済発展や住民の生活の質の向上にとって大きな支障となっている。また、隣接するオグン州においても、ラゴス州の後背地として経済発展を遂げる上で電力不足の改善が課題となっている。
本計画は、特に電力需要の大きいラゴス州及びその郊外に位置するオグン州の送変電設備の増強を通じて電力供給の安定に係る課題解決を図るものであり、TCNがドナーに提案する同国全土の送電系統拡張計画においても、早期の実施が期待される計画として位置づけられている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は、対ナイジェリア国別開発協力方針において、「質の高い経済成長のための基盤づくり」を重点分野とし、経済活動の基礎となる基幹インフラ(特に電力分野)の整備を行うとしており、本計画は同方針に合致している。また、SDGsゴール7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)にも貢献するものである。
また、我が国は2022年8月に開催した第8回アフリカ開発会議(TICAD8)において、成長の基盤となるインフラの整備推進を含む「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」の推進を表明しており、本計画は同表明を具体化するものである。
以上のことから、本計画の実施は外交上の戦略的意義が認められる。
(2)効率性
無償資金協力「ラゴス変電設備緊急復旧・増強計画」(2018年度)を通じてラゴス中心部の変電設備容量が強化されており、本計画ではラゴス州郊外の送変電網の新規整備により、併せてラゴス州の包括的な送電容量の強化に寄与する。
(3)有効性
発電設備容量に対して、送電容量が大幅に不足しているナイジェリアにおいて本計画を実施することで、本計画完了から2年後の2029年には、変電機の設備稼働率が73.9%から68.1%に改善され、送電端電力量が9.97テラ・ワット・アワーから11.50テラ・ワット・アワーに向上するとともに、年間の電力供給制限時間が136.87時間から47.09時間に改善されることが見込まれる。
また、上記の定量的効果に加え、本計画の実施により、同国における国内電力供給安定化、対象地域における本邦企業を含む投資環境改善促進・産業活性化、海外直接投資(FDI)の増加、対象地域の経済・社会開発等が期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
要請書、JICAガイドライン、その他JICAより提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は実施機関であるJICAが行う予定。