ODA(政府開発援助)

令和元年7月2日

評価年月日 令和元年5月24日
評価責任者 国別開発協力第二課長 門脇 仁一

1 案件概要

(1)供与国名

バングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)

(2)案件名

マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(V)

(3)目的・事業内容

 本計画は,バングラデシュ南東部チッタゴン管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所及び石炭輸入用港湾,送電線等の関連設備を建設することにより,同国における電力需要の急増やエネルギー転換ニーズへの対処とともに,温室効果ガスの排出を抑制し,もって同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和を図り,中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するもの。

  • ア 主要事業内容
    • (ア)超々臨界圧石炭火力発電所建設(600メガワット×2基),石炭搬入用港湾建設
    • (イ)送電線建設(送電線約92キロメートル,鉄塔等)
    • (ウ)アクセス道路整備(橋梁約700メートル,新規道路建設約7.4キロメートル,既存道路補修約5キロメートル等)
    • (エ)周辺地域電化(送電線約25キロメートル,変電所,配電設備)
    • (オ)資機材調達(大型車両,計器,防災設備等)
    • (カ)コンサルティング・サービス(詳細設計,入札補助,施工監理,組織強化等)
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    1,431.27億円 0.9% 30(10)年 一般アンタイド

    (注)金利は,一般条件(固定・基準)を適用。
     コンサルティング・サービス部分に係る金利は,0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価)
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下「JICAガイドライン」という。)に掲げる火力発電セクターに該当し,カテゴリAに分類される。発電所及び港湾の建設・整備に係るEIA報告書は2013年10月に,送電線及びアクセス道路の建設・整備に係るEIA報告書は2013年11月に,バングラデシュ環境森林省環境局(DOE)により承認済み。その後,変更された送電線ルートについては,「ダッカ-チッタゴン基幹送電線強化計画」の中にて一括でEIA報告書が作成され,2016年6月にDOEにより承認済み。周辺地域電化事業(送配電網の建設)に係るEIA報告書は2015年10月にDOEにより承認済み。なお,港湾設計変更による本計画のEIA報告書の改定は不要であることを確認済み。同部分における環境影響評価結果及び緩和策については,「マタバリ港開発計画」のEIA報告書として承認済み。
用地取得
 本計画では,発電所・港湾に係る用地取得面積は約572ヘクタールであり,当該地域は,乾季は塩田,雨季はエビの養殖場として利用されている。発電所・港湾の建設・整備により,48世帯の非正規居住者の住民移転が必要であった。また,被影響住民は,2,381人である。さらに,アクセス道路の新設及び補修(橋梁約700メートル,新規道路建設約7.4キロメートル,既存道路補修5キロメートル部分)に係る用地取得面積は約41ヘクタールであり,93世帯545人の住民移転を伴う(非正規居住者は0人)。バングラデシュ国内法とJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に従って用地取得及び住民移転の手続が進められる。送電線建設及び周辺地域電化については,実施機関所有地又は政府所有地を活用するため,用地取得は発生しない。なお,現地ステークホルダー協議を実施したところ,参加者から本計画に対する反対意見は確認されなかったが,適切な環境管理や周辺インフラ開発への要望があり,実施機関から適切に対応する旨回答し,参加者からの理解を得た。
外部要因リスク
特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 バングラデシュでは,近年,急速な経済成長や工業化の進展に伴う電力需要の急増により電力供給が追いついておらず,2020年時点の推計電力需要13,300メガワットに対し,最大発電実績は10,084メガワットと需要の約7割に留まる。2016年から10年間にわたり,年率約9.3%の電力需要の増加が見込まれる一方,発電の6割を依存する国内天然ガスは産出が頭打ちとなる見通しであり,2018年からは液化天然ガス(LNG)の輸入が開始された。このような状況から,エネルギー多様化が,同国のエネルギー安全保障上の重要課題となっている。
 同国政府の「第7次五か年計画」(2016/17~2020/21年度)において,電力セクターは2021年までの中所得国化を目指す開発計画の最優先セクターの一つと位置付けられている。また,改定版「電力・エネルギーマスタープラン」(Power System Master Plan 2016)においても,国内天然ガスに代わる新たなエネルギー源を輸入石炭,LNG及び原子力により賄うとの同国政府の方針が示されており,本計画は,首相直轄の優先インフラ事業の一つに位置付けられている。
我が国の基本政策との関係
 バングラデシュでは,近年,急速な経済成長を遂げているものの,人口の約3割が依然として貧困状態にあり,電力,運輸等の基礎的な経済インフラの不足が深刻な状況である。こうした開発ニーズを踏まえ,我が国は2018年2月に策定した「国別開発協力方針」において,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(ア)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化(「経済成長を通じた貧困削減」を追求するためのインフラの整備等),(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減,初等教育,母子保健,安全な飲料水の供給などのSDGsの達成への貢献)を掲げている。
 本計画は,電力需要の急増やエネルギー転換ニーズに対処し,経済全体の活性化を図るとともに,温室効果ガス排出の抑制を通じて気候変動の緩和を図るものであることから,重点目標の(ア)に合致するとともに(イ)に含まれる気候変動対策に資する側面も有している。また,SDGsゴール7(エネルギー)及びゴール9(イノベーション)にも貢献するものである。
 また,本計画は,2014年の日バングラデシュ首脳会談で合意した「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下,経済インフラ整備や投資環境改善に寄与する重要案件であり,本計画を通じて,経済・社会開発を進める同国の取組を支援することは,日バングラデシュ関係の更なる強化につながる。

(2)効率性

 本計画では,コンサルタントの技術移転及びメーカーによる長期保守契約の締結により,維持管理体制の構築と定着を図るほか,本計画において別途雇用する組織強化コンサルタントにより実施機関の管理体制強化を図る。

(3)有効性

 本計画により,バングラデシュ南東部チッタゴン管区マタバリ地区に定格出力1,200メガワット(600メガワット×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所及び石炭輸入用港湾,送電線等の関連設備を建設することにより,2024年を目途にダッカ首都圏の電力ニーズの30%に相当する年間7,865ギガワットアワーの発電量が生み出される見込みである。これにより,同国における電力需要の急増やエネルギー転換ニーズへの対処とともに,温室効果ガスの排出の抑制を通じ,同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,JICAガイドライン,その他JICAより提出された資料。また,2009年度バングラデシュ国別評価(第三者評価)報告書。
 本計画に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び計画概要,借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
 なお,本計画に関する事後評価は,実施機関であるJICAが行う予定。

ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
政策評価法に基づく事前・事後評価へ戻る