ODA(政府開発援助)

平成28年6月30日

評価年月日:平成28年6月27日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治

1 案件概要

(1)供与国名

バングラデシュ人民共和国

(2)案件名

マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(II)

(3)目的・事業内容

 バングラデシュ南東部チッタゴン管区マタバリ地区に定格出力1,200MW(600MW×2基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所を建設するもの。これにより,同国における電力需要の急増に対処するとともに,温室効果ガスの排出抑制を図り,同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和を通じて,もって中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するものである。

  • ア 主要事業内容
    • 超々臨界圧石炭火力発電所(600MW×2基),石炭搬入用港湾
    • 送電線(400kV送電線約92km,鉄塔等),アクセス道路
    • コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    378.21億円 0.01% 40(10)年 一般アンタイド

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

ア EIA(環境影響評価)
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる火力発電セクターに該当するため,カテゴリAに該当する。発電所及び港湾の建設・整備に係るEIAは2013年10月に,送電線及びアクセス道路の建設・整備に係るEIAは2013年11月に,バングラデシュ国環境森林省環境局(DOE: Department of Environment)により承認済み。その後,変更された送電線ルートについては,「ダッカーチッタゴン基幹送電線強化計画」の中にて一括でEIA報告書が作成され,DOEにより承認される見込み。今次審査で事業スコープに加わったアクセス道路建設の新規追加分(新設約6.5km)については新たにEIA報告書が作成されており,2016年1月にDOEより承認済み。周辺地域電化事業(送配電網の建設)に係るEIAは2015年10月にDOEに承認されている。港湾事業については,航路計画の変更に伴い浚渫規模が増加しているが,同国法上はEIA報告書の改訂や追加作成は必要とされていない。
イ 汚染対策
 本計画の発電所から排出される排ガス中の硫黄酸化物(SOx),窒素酸化物(NOx)のいずれも,海水式排煙脱硫装置及び低NOx燃焼方式を採用することで,同国及び国際基準(IFC EHSガイドライン)の基準値を満たす見込み。また,同様に大気中の濃度も同国及びEHSガイドラインの基準値を満たす見込み。煤塵(PM)に関して,EHSガイドライン基準値は満たすものの,PM10(年間値)濃度推定結果(42.4~62.4µg/m3)の上限値は唯一同国の基準値を超過することが予想されているが,本計画による影響は僅か0.4µg/m3と推定されており,事業実施前の濃度(42~62µg/m3)の影響によるものと考えられる。PMに関して,高煙突(275m),電気集塵機を採用することで影響を最小限に抑える。本計画は海水を冷却水として使用するが,排水時は取水時の温度から7℃以内の上昇に抑え,同国の工業排水の基準値(40℃未満)を遵守することにより,生態系への影響は想定されない。騒音は工事中・供用後共に同国及びEHSガイドラインの基準値を満たす見込み。航路計画の変更に伴い浚渫土砂の増加が見込まれるが,一部の土砂はセメント系処理後に盛土として利用され,その他の土砂は指定された土捨場で適切に処理される。
ウ 自然環境面
 事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当しない。事業対象地から南方に約15kmの地点に同国政府がEcologically Critical Areaと指定するソナディア島があるが,汚染対策に記載の緩和策が講じられる大気汚染,水質汚濁等の影響は限定的であることから,ソナディア島への影響は予見されない。ただし海中の生物は移動・回遊を行うことが多いため,希少種が目視された場合には,建設工事に伴う海面及びその周辺に灯火される光源の明るさの調整や,騒音・振動の軽減などの対策をとる。また,労働者による希少種やその卵等の採取,捕獲,狩猟行為を禁止する。
エ 社会環境面
 発電所・港湾に係る用地取得規模は約475haであり,当該地域は,乾季は塩田,雨季はエビの養殖場として利用されている。発電所・港湾に係り移転が必要な20世帯(うち16世帯は不法居住)に加え,2,031人が用地取得対象となり,また,1,102人が生計等に影響を受ける事が確認されている(被影響者数は1期目審査時から変更なし)。アクセス道路の新設及び補修/改修に係る用地取得は35.71ha(うち既存道路の拡幅のため1期目審査時から23.86haの追加用地取得が発生。)であり,非正規居住者約20人の移転を伴う。送電線建設及び周辺地域電化については実施機関所有地又は政府所有地を活用するため,用地取得は発生しない(1期目審査時には変電所建設に伴い0.13haの用地取得を予定していたが,当該変電所建設は本計画の対象外となったため用地取得は不要となった。)。なお,本送電線は「ダッカ-チッタゴン基幹送電線強化計画」で建設される変電所に接続されることとなった。用地取得・住民移転・損失資産および生計への補償は,JICA環境社会配慮ガイドライン,同国国内手続き及び住民移転計画(RAP)に従い発電所・港湾コンポーネントにおいて用地取得手続きが進んでいる。2期目において用地取得・住民移転が追加となるアクセス道路については,詳細設計段階(2016年初旬)に改定版RAPが作成される。また,それぞれの事業コンポーネントに対し,EIA報告書及びRAP作成時(1期目審査時)に現地ステークホルダー協議を実施したところ,参加者から本事業に対する反対意見はなかったが,適切な環境管理や周辺インフラ開発への要望が出された。意見・要望に関して実施機関から適切に対応する旨回答し,参加者からの理解を得た。アクセス道路については,改定版RAP作成時に改めて現地ステークホルダー協議が開催される予定。
オ その他・モニタリング
 住民移転については,実施機関による内部モニタリングと第三者機関による外部モニタリングが実施される予定である。環境面では,工事中は実施機関及びコントラクターが,供用後は実施機関が大気,水質,騒音等をモニタリングする予定である。
カ 外部要因リスク
 特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

ア 開発ニーズ
 バングラデシュでは,近年の高い経済成長や工業化の進展に伴う電力需要の増加に電力供給が追いついておらず,2015年において,潜在需要9,000MWに対し最大供給実績は8,177MW(バングラデシュ電力開発庁(BPDB))と,需要の約9割の供給能力に留まっている。また,今後10年間に亘り,年率約9.3%の電力需要の増加が見込まれる一方,現在総発電設備容量の約6割を占めるガス火力発電所がエネルギー源として依存する国内産天然ガスは,2016年をピークに産出量が減少することから,電力供給の増強及びエネルギー源の多様化を行うことが喫緊の課題となっている。国家開発戦略の最上位に位置付けられる「第7次五か年計画」(2016/17~2020/21年度)において,電力セクターは2021年までに中進国への仲間入りを目指す同国における最重要セクターの一つと位置付けられている。また,「電力系統マスタープラン(Power System Master Plan 2010)」においては,石炭を最も重要な一次エネルギーと位置付けた上で,2030年までに34,000MW近くに上ると想定される電力需要に対するベース電源として輸入炭を活用すべく,発電効率の高い超々臨界圧石炭火力発電所の建設を優先課題に挙げている。本計画は,同国において急増する電力需要に対処し,またエネルギー源の多様化に対応するインフラとして重要視されており,ハシナ首相直轄の優先インフラ事業の一つに位置付けられている。
イ 我が国の基本政策との関係
 バングラデシュの人口の約3割が依然として貧困状態にあり,電力,運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえ2012年6月に策定された「国別援助方針」においては,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(ア)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化(「経済成長を通じた貧困削減」を追及するためのインフラの整備等),(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減,初等教育,母子保健,安全な飲料水の供給などMDGsの達成に貢献)を掲げている。本計画は電力・エネルギー需給の安定という観点から(ア)に合致し,同国における電力需要の急増に対処し,省エネルギー機材の導入促進によってエネルギー利用効率の向上を図るものであることから,(イ)に含まれる防災・気候変動対策に資する側面も有している。

(2)効率性

 対ケニア円借款「モンバサ・ディーゼル発電プラント建設計画」の事後評価等から,メーカー側からの適切なサポートは,発電事業の持続性を高めるとの教訓が得られている。本事業ではコンサルタントの技術移転及びメーカーによる長期保守契約(Long Term Service Agreement)の実施により,維持管理体制の構築と定着を図るほか,本計画において別途雇用する組織強化コンサルタントにより実施機関の管理体制強化を行う。長期保守契約分の入札評価上の取り扱い,契約条件については現在作成中の入札書類において明確化される。

(3)有効性

 本計画によって,事業完了二年後の2026年には,送電端発電量(GWh/年)が7,865に増加する等,同国における電力需要の急増に対処するとともに,温室効果ガスの排出抑制を図り,同国における経済全体の活性化及び気候変動の緩和を通じて,中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 バングラデシュ政府の要請書,バングラデシュ国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,その他国際協力機構から提出された資料。

 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。

 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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