ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和4年6月28日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
ダッカ都市交通整備計画(5号線北路線)(第二期)
(3)目的・事業内容
急速な都市化と交通量の増加による交通渋滞と環境の悪化等に直面する首都ダッカにおいて、東西に接続する都市鉄道(MRT5号線北路線)を整備し、公共交通ネットワークを形成することにより、ダッカ都市圏の輸送需要への対応を図り、もって経済の発展及び都市環境の改善に寄与し、全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 鉄道構造物建設(本線建設(約20キロメートル)、駅舎建設14駅、軌道敷設等)、車両基地建設、車両調達、電気・通信・信号システム敷設
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 1,333.99億円 0.70% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクターに該当するためカテゴリAに該当する。
本計画に係るEIA報告書は、2017年11月にバングラデシュ環境森林省環境局により承認済み。なお、同国では毎年環境許認可の更新が必要であり、2022年11月末までの更新手続きが完了している。 - イ
- 汚染対策
工事中の大気質、騒音・振動については、定期的な散水、仮囲いの設置、建設機材に対する消音対策等により影響を最小化する。供用時の騒音については、ロングレールや遮音壁の設置等により日本の在来鉄道騒音基準を満たす見込みであり、水質については、駅・車両基地からの排水処理の設備の導入により悪化は回避される見込み。
また、本計画では地下トンネル掘削による建設残土(約150万m3)が発生するが、かかる建設残土についてはダッカ首都圏開発公社及び民間企業による埋立・盛り土用として再利用される予定。詳細設計において同国政府内で調整され、具体的な使用用途、保管方法、処理方法等が決定される。 - ウ
- 自然環境面
事業対象地域は、国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当せず、自然環境への望ましくない影響は最小限であると想定される。 - エ
- 社会環境面
本計画は、施設建設の大半が既設道路幅上及びその地下を利用するが、約42ヘクタール(うち車両基地約40ヘクタール、地上・高架区間約2ヘクタール)の用地取得を伴う見込み。本計画による被影響住民(補完調査結果含む)1,107世帯4,660名のうち、29世帯135人の住民移転が発生する予定である。同国国内手続きとJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に従ってこれらの用地取得及び住民移転の手続きが進められる。本計画に係る住民協議では、本計画実施に対する特段の反対は確認されていない。 - オ
- その他・モニタリング
本計画では、工事中の大気質、騒音・振動、水質、廃棄物等については施工業者及び実施機関が、供用時の騒音・振動、水質等については実施機関がモニタリングする。用地取得・住民移転手続きや生計回復支援等の進捗状況については実施機関がモニタリングする。 - カ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
首都ダッカは、1990年から2018年にかけて人口が662万人から1,980万人まで増加しており(国際連合人口部、2018年)、人口増や経済成長等に伴う急激な交通需要の増大が慢性的な交通渋滞、大気汚染等を引き起こしている。交通渋滞により年間数十億米ドルに上る経済損失(世界銀行、2018年)が発生するなど、経済社会発展の大きなボトルネックとなっているとともに、深刻な交通渋滞に伴い長時間にわたり排出される排気ガスによる住民への健康被害も懸念されている。
こうした中、同国政府は、これらの課題解決に向けて、「第8次5か年計画」(2020/21~2024/25年度)において、交通渋滞抑制等の重要性を掲げ、都市交通マスタープランである「改定版ダッカ都市交通戦略計画」(2016年8月)において、公共交通網として大量高速輸送システム(MRT)5路線及びバス高速輸送システム(BRT)2路線の整備を計画している。本計画は、同マスタープランにおいて、MRT1号線及び同6号線とともに優先開発事業として位置づけられている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
バングラデシュでは、人口の約2割が依然として貧困状態にあり、電力、運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえ、我が国は2018年2月に策定した「対バングラデシュ国別開発協力方針」において、今後の対バングラデシュODAの重点目標として、(ア)中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進、発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等)、(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減、初等教育、母子保健、安全な飲料水の供給などSDGsの達成に貢献、防災・気候変動対策等)を掲げている。
本計画は運輸交通網の整備という観点から上記(ア)に合致するとともに、公共輸送の促進を図り、温室効果ガス排出削減に寄与することから、上記(イ)に含まれる防災・気候変動対策にも資するものである。また、2014年の日・バングラデシュ首脳会談において両首脳は、経済インフラの開発、投資環境の改善、連結性の向上を柱とする「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の推進に合意しており、本計画は同構想の下、経済インフラ開発及び連結性の向上に貢献する案件であるとともに、「自由で開かれたインド太平洋」にも寄与する案件として外交的重要性が高い。
(2)効率性
対インド円借款「カルカッタ地下鉄建設事業」の事後評価等から、用地取得や施設移転が生じる事業では、計画・実施段階において積極的に住民・関係者の意見を取り入れることが重要との教訓が得られている。また、上下水道等の地下埋設物の移転の遅れが工期遅延及びコストオーバーランの要因になり得るとの教訓が得られている。加えて、対インド円借款「デリー高速輸送システム建設事業(I)~(IV)」の事後評価等において、水道公社ではなく実施機関(デリーメトロ公社)が地下埋設物の移設を行うことで、工期の遅れを防いだと指摘されている。
さらに、タイ王国向け円借款「バンコク大量輸送網整備事業(パープルライン)(I)(II)」の事後評価等においては、MRT駅と住宅エリアを結ぶ支線整備が十分な乗客数確保に必要であることが報告されている。
本計画では、上記の教訓を踏まえ、環境社会配慮支援に係るコンサルティング・サービス等を通じて、詳細設計の段階から用地取得の規模及び移転先を特定し、早期から各ステークホルダーとの協議を開始している。また、詳細設計の段階で地質調査、地下埋設物調査、埋設支障物調査及び文化財調査を実施するほか、本計画の実施機関であるダッカ都市交通公社が地下埋設物の移設、地下埋設物除去及びそれらに伴う関係機関との調整等を行うことで、当該事由による工期の延伸やコストオーバーラン等を予防する計画とする予定。
(3)有効性
事業完成2年後の2030年には、1日あたり1000万人・キロメートルを超える乗客輸送量が見込まれ、現在、バスで2時間以上かかっているヘマ ヤプール~バタラ間(約20キロメートル)の所要時間が約30分に短縮される見込みである。本計画は、ダッカ都市圏の輸送需要に対応し、もって交通混雑の緩和を通じた経済の発展及び都市環境の改善を図るもの。本計画を通じて、全国民が受益可能な経済成長の加速化及び社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。