ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和2年4月14日
評価年月日:令和2年3月18日
評価責任者:国別開発協力第二課長 江碕 智三郎
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ムンバイメトロ三号線建設計画(第三期)
(3)目的・事業内容
マハラシュトラ州の州都ムンバイ都市圏において,総延長約34キロメートルの大量交通輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって交通混雑の緩和と交通公害減少を通じて産業競争力の強化に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- (ア)土木・建築工事(全線地下:約33.7キロメートル,地下駅:26駅,地上駅:1駅)
- (イ)車両保守基地設備調達
- (ウ)軌道工事
- (エ)電気・機械工事
- (オ)信号・通信工事
- (カ)自動料金収受システム調達
- (キ)地下区間換気設備設置工事
- (ク)自動昇降設備設置
- (ケ)車両調達(248両:31編成,1編成8両)
- (コ)その他(車両保守基地工事,駅保安設備調達)
- (サ)コンサルティング・サービス(入札補助,施工監理等)
円借款対象部分は,上記のうち,(コ)以外の全て(車両調達は210両が円借款対象)。
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 399.28億円 1.15% 30(10)年 一般アンタイド (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下,「JICAガイドライン」という。)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに該当する。なお,本計画に係るEIA報告書は,インド国内法上作成が義務づけられていないものの,2012年9月に作成済みである。また,沿岸地域開発許可(Coastal Regulation Zone Clearance)及び樹木伐採許可(森林クリアランス)は取得済みである。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画では,約76.00ヘクタールの用地を必要とするが,そのうち約2.86ヘクタールが民有地であるため,被影響世帯が2,888世帯(7,273人)となり,そのうち1,837世帯(5,119人)の移転が必要となる。ムンバイ都市鉄道公社(MMRCL)は,用地取得・住民移転対象者との協議を開催し,JICAガイドラインの要件を満たし,また,インド新土地取得法及びマハラシュトラ州政府の住民移転政策等に沿って手続きを進め,2020年6月までに用地取得・住民移転の手続きを完了する予定である。さらに,非合法居住者に対しては,ムンバイ郊外に用意される公設住宅の1区画の所有権や移転費用等が提供される。 - ウ
- 外部要因リスク:
2017年2月にカフ・パレード駅,2017年10月にアーリーコロニー車両基地の建設予定地において,住民が樹木伐採に反対する住民訴訟を高等裁判所に起こしたものの,カフ・パレード駅は最高裁判所により棄却(2017年5月)。アーリーコロニー地区は,2018年10月にムンバイ高等裁判所がこれを棄却し,現在最高裁判所に上告され判決未了のため,引き続き状況を注視する必要がある。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドでは近年急速な都市化が進み,自動車登録台数急増に伴う道路交通需要が拡大する一方で,公共交通インフラの整備が進んでいない。特に,デリー,ムンバイ,アーメダバード等の大都市では,交通渋滞が重大な問題となっており,経済損失並びに大気汚染・騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化している。同国政府はこれらの課題に対応するため,近年の経済成長に伴う輸送需要に対応することに加え,安全性・エネルギー効率・社会環境保全の観点から,公共交通システムの整備を重視している。
マハラシュトラ州政府は,ムンバイ都市圏における従来の公共交通システムの混雑緩和,交通事情の改善,大気汚染の緩和を目指し,大量高速輸送システムの整備を柱とする都市鉄道整備を計画し,同州政府策定の「ムンバイメトロマスタープラン」の中では,本計画の早期実施が,ムンバイ都市圏の経済成長の促進に不可欠な事業として位置付けられている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること,電力,運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された我が国の「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げており,本計画は同方針に合致するものである。
また,直近では,2018年10月のモディ首相訪日時に両国首脳が「日印の共通のビジョンに基づき,自由で開かれたインド太平洋に向けて協働していくという揺るぎない決意」を改めて述べるなど,両国の関係強化が着実に進んでいる中,円借款を始めとするODAを通じて,経済・社会開発を進める同国の取組を支援することは,こうした二国間関係の更なる強化にもつながる。
(2)効率性
公共交通機関が競合するのではなく,体系的な都市交通を構成するよう互いに協力し,また,財務的に自立した事業実施体制の確立が重要であることから,ムンバイ都市鉄道公社において,ムンバイ市バス公社によって運営されているバス路線や,ムンバイ都市開発庁により実施されているムンバイメトロ1号線,2号線,モノレールとの接続を調整する。また,同公社は,商業・不動産開発の関連事業を計画しており,財務体質の強化を図る。
(3)有効性
本計画の実施により,事業完成2年後(2023年)には以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果(1日当たりの数値)
- (ア)新規に建設されるムンバイメトロ3号線における列車運行数:676本
- (イ)新規に建設されるムンバイメトロ3号線における乗客輸送量:13,800,000人・キロメートル
- イ 定性的効果
- ムンバイ都市圏における交通事情の改善(車両台数の減少),公害の緩和,温室効果ガスの排出削減,移動の定時性確保による利便性の向上が図られ,ムンバイ都市圏の経済発展に寄与する。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,インド国別評価報告書(第三者評価/2017年度),JICAガイドライン,その他JICAから提出された資料。
本計画に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本計画に関する事後評価は,実施機関であるJICAが行う予定。