ODA(政府開発援助)

平成30年12月25日

評価年月日:平成30年10月18日
評価責任者:国別開発協力第二課長 門脇 仁一

1 案件概要

(1)供与国名

インド

(2)案件名

チェンナイ地下鉄建設計画(フェーズ2)(第一期)

(3)目的・事業内容

 インド南部タミル・ナド州のチェンナイ都市圏において,大量高速輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって都市のモビリティ向上,道路交通混雑の緩和と大気汚染,騒音等の交通公害対策を支援し,地域経済の発展及び都市環境の改善を通じて,産業競争力の強化に寄与するもの。
 今次は,本計画の第一期として2022年3月までの資金需要に対応するもの。

  • ア 主要事業内容
    • (ア)土木工事
    • (イ)電気・機械工事
    • (ウ)エレベーター・エスカレーター工事
    • (エ)車両保守基地工事
    • (オ)レール工事
    • (カ)軌道工事
    • (キ)電力設備工事
    • (ク)信号工事
    • (ケ)自動料金収受システム調達
    • (コ)プラットホームスクリーンドア調達
    • (サ)車両調達
    • (シ)コンサルティング・サービス(基本/詳細設計・入札補助・施工監理,環境社会配慮支援等)
    • (ス)駅舎内・駅前開発,交通結節点整備等
  • 円借款対象部分は,上記のうち,(ア)の一部及び(イ)から(シ)である。
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    755.19億円 0.2% 40(12)年 タイド

    (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価)
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに該当する。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は,インド国内法上作成が義務付けられていないものの,実施機関であるチェンナイ交通公社によって2017年11月に作成済みである。
用地取得及び住民移転
 本計画では,10世帯の住民移転,163ヘクタールの用地取得及び153世帯の経済的移転を伴い,住民移転及び用地取得はインド新土地法,タミル・ナド州政府の住民移転手続き及びJICAガイドラインに沿って作成された住民移転計画に基づき手続きが進められる。事業実施に対し住民から特段の反対意見は確認されていない。
外部要因リスク:特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 インドでは近年急速な都市化が進み,自動車及び二輪車の登録台数が急激に増加する一方で,公共交通インフラの整備が進んでいない。特に,チェンナイ市を含む大都市では道路交通需要の拡大に伴う交通渋滞が重大な問題となっており,経済損失並びに大気汚染・騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化している。インド政府はこれらの課題に対応するため,近年の経済成長に伴う輸送需要に対応することに加え,安全性・エネルギー効率・社会環境保全の観点から,公共交通システムの整備を重視している。
 タミル・ナド州チェンナイ都市圏は,インド第4位の人口を有する南インド最大の都市圏であり,世界有数の人口過密都市である。市内主要道路における車両の平均時速は時速約17キロメートルと,交通渋滞が深刻化している一方,既存の公共交通(バス,鉄道)の輸送能力の向上及び道路網の改善には限界もあることから,交通渋滞緩和及び自動車公害対策のために,大量高速輸送システムを整備することがタミル・ナド州政府の都市交通政策・都市環境問題対策の大きな柱となっている。
 以上から,インドの開発政策とも高い整合性を有している。
我が国の基本政策との関係
 インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること,電力,運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。
 本計画は,インド南部タミル・ナド州のチェンナイ都市圏において,大量高速輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって都市のモビリティ向上,道路交通混雑の緩和と大気汚染,騒音等の交通公害対策を支援し,地域経済の発展及び都市環境の改善を通じて,産業競争力の強化に寄与することから,上記(イ)に合致する。
 また,2017年9月の安倍総理大臣のインド訪問時には「両国のパートナーシップを新たな次元に引き上げるべく協力することを決定」するとともに,日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト政策」の連携に向けた取組の強化を誓うなど両国の関係強化が着実に進んでいる中,円借款を始めとするODAを通じて,経済・社会開発を進めるインドの取組を支援することは,こうした日印二国間関係の更なる強化につながる。

(2)効率性

 公共交通機関が競合するのではなく,体系的な都市交通を構成するよう互いに補完し,公共交通機関全体として効率よく運営されること,また,収益性が確保されることが重要であることから,実施機関であるチェンナイ交通公社がより収益を増やすために支線バス(フィーダーバス)の計画を作成し,チェンナイでの公共バスを管轄するチェンナイ都市圏交通公社に提出,チェンナイ都市圏交通公社が同計画に基づいた運行を実施している。
 また,実施機関は運賃収入を補い,収益性を向上させるために,民間事業者との間で,駅における自動販売機,キオスク,現金自動預け払い機の設置,駅前の駐車場管理等に係る契約を締結しており,本計画でも同様の取組を進める予定である。

(3)有効性

 整備区間はチェンナイ地下鉄の3号線の一部及び5号線の一部となる。運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2029年)の見込み)として,整備区間のうち3号線のマドハヴァラム・ミルク・コロニー駅からショリンガナルール駅間(約36キロメートル)の運行数は188本/日・1方向,乗客輸送量は860万人・キロメートル/日が設定され,1日あたりの乗降者数は約33万人,所要時間は,自動車では約2時間14分(基準値(2017年))のところ約1時間8分となる見込みである。また,整備区間のうち5号線のマドハヴァラム・ミルク・コロニー駅からチェンナイ・モフシル・バス・テルミヌス駅間(約16キロメートル)の運行数は220本/日・1方向,乗客輸送量は270万人・キロメートル/日が設定され,1日あたりの乗降者数は約76万人,所要時間は,自動車では約46分(基準値(2017年))のところ約30分となる見込みである。
 また,定性的効果として,騒音レベルの緩和,大気汚染の抑制,移動の定時性確保による生活利便性の向上,チェンナイ都市圏の経済発展,沿線価値の上昇に寄与する。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,インド国別評価報告書(2017年度)国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,その他国際協力機構から提出された資料。
 案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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