ODA(政府開発援助)

平成30年11月22日

評価年月日:平成30年11月14日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子

1 案件概要

(1)供与国名

フィリピン共和国

(2)案件名

パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズIV)

(3)目的・事業内容

 本計画は,マニラ首都圏において,パッシグ・マリキナ川の河川改修及び可動堰等の建設,並びに洪水に対するハザード・マップ作成等の非構造物対策を実施することにより,マニラ首都圏中心部の洪水被害の軽減を図り,もって同地域の脆弱性の克服及び生活・生産基盤の安定に寄与するもの。

  • ア 主要事業内容
    • (ア)マリキナ川下流からマリキナ橋までの護岸建設・改修及び浚渫・拡幅
    • (イ)可動堰1基建設
    • (ウ)マンガハン放水路内の逆流防止水門及び橋の架け替え
    • (エ)コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    379.05億円 年0.1% 40(12)年 日本タイド

    (注)金利は,本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)に掲げる影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに分類される。
 環境許認可:本事業に係る環境影響評価報告書(EIS)は,1998年6月に環境天然資源省によって承認済みであり,また,補足版EISが公共事業道路省(DPWH)によって作成済みである。
用地取得及び住民移転
 本計画では,直接的事業対象地域であるマリキナ川沿いの非正規住民(71世帯)の移転に加え,本計画で建設する可動堰(マリキナ堰)の稼働開始までに,流量の増加により影響を受けるマンガハン放水路内の非正規住民(13,525世帯)も含め,大規模な住民移転が必要となる。これらの住民移転は本計画の実施の有無に関わらず,非正規住民の生命・財産を保護するために必要なことであるが,本計画のためにJICA環境社会配慮ガイドラインに沿って作成された住民移転計画について,非正規住民の理解を得られるよう,住民説明会等が開催されている。移転実施段階においては住民移転計画に基づいて着実に移転が行われるよう,進捗状況のモニタリングを行う。
外部要因リスク
 特になし

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 マニラ首都圏は約1,287万人が居住するフィリピンの政治,経済,文化の中心地であるが,沿岸低地地域のため台風の影響を受けやすく,同地域の経済・社会活動は洪水により深刻な影響を受けてきた。フィリピン政府は洪水及び排水対策の計画策定や同計画に基づく事業実施など,過去50年以上に亘り継続的にこの課題に取り組んできているが,いまだ計画の実施途中段階にあり,且つ,近年は雨の降り方が激甚化しており,マニラ首都圏は十分な洪水対応能力を備えていない。例えば,2009年の熱帯暴風雨オンドイでは,180年に一度といわれる降雨がマニラ首都圏の中心部を貫流するパッシグ・マリキナ川流域を含むマニラ首都圏全体に大規模な洪水・内水氾濫をもたらし,甚大な経済的・人的被害(全国被災者数490万人,死者数464人,マニラ首都圏における直接被害額・損失額約1,049億円)をもたらした。この経験を踏まえ,同流域の洪水対策は,従前にも増してフィリピン政府の重要かつ喫緊の課題となっている。
 フィリピン政府は,フィリピン開発計画(2017~2022年)において,自然災害に係るリスクに対する脆弱性の低減や,自然災害に対して安全かつ安心な地域社会の構築を主要施策の一つとして掲げている。パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズIV)はかかる施策に合致した優先事業の一つとして政府の公共投資プログラム(2017~2022年)に位置づけられている。
 また,我が国支援による下流部での「パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズIII)」は2018年3月に完工しており,フェーズIIIまでの河川改修事業に加え,本計画による上流部での河川改修とマリキナ堰の建設によって,洪水分派量の調整がより適切に行えるようになることで,経済・人口の密集度が高いマニラ中心部の洪水被害軽減が見込まれている。さらに,本計画対象区間よりも上流部の河川改修はフィリピン側が自己負担で実施中であるところ,本計画をもって両河川の改修事業が完了することへの期待は高い。
我が国の基本政策との関係
 2018年4月に策定した対フィリピン国別開発協力方針では,(ア)持続的な経済成長のための基盤の強化,(イ)包摂的な成長のための人間の安全保障の確保,(ウ)ミンダナオにおける平和と開発を重点分野としている。本計画は,マニラ首都圏において,パッシグ・マリキナ川の河川改修及び可動堰等の建設,並びに洪水に対する非構造物対策を実施することにより,マニラ首都圏中心部の洪水被害の軽減を図り,同地域における脆弱性の克服及び生活基盤の安定・強化に資するものであるため,同方針(ア)及び(イ)に合致する。
 2017年1月,日フィリピン首脳会談において,安倍総理大臣は,今後5年間でフィリピンに対する1兆円規模の官民支援を表明しており,本計画はその着実な実施に寄与するものである。また,「今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明」(2017年10月)において,日本政府は,自然災害に対するフィリピンの強靱性の強化に協力していく方針を示しており,特にパッシグ・マリキナ川河川改修計画の案件形成を加速する方針を明示している。本計画はこの方針を具体化するものであり,我が国とフィリピンとの二国間関係の強化に資することが期待される。
 さらに,本計画は,SDGsゴール11(持続可能な都市),ゴール13(気候変動への対処)の達成に貢献すると考えられる。

(2)効率性

 これまでフェーズIからフェーズIIIにわたり実施した「パッシグ・マリキナ川河川改修計画」における知見をいかして,上流部において本計画を実施する。2002年実施のフェーズIにおいてフェーズIIからIVまでの詳細設計を作成しており,本計画実施によって当初計画が完了する。

(3)有効性

 本計画の実施により,マニラ首都圏の洪水に対する防災環境が改善される。また,民間投資拡大とそれに伴う経済成長・雇用促進等が期待される。洪水に伴う年最大被害額は,2018年に比べて2027年(事業完成2年後)には以下のとおり低減することが見込まれる。

5年確率の洪水規模で約465億円から約200億円に低減する。
30年確率の洪水規模で約1,050億円から約257億円に低減する。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構より提出された資料。2010年度フィリピン国別評価(外務省ODA第三者評価)。2015年度フィリピン防災分野における日本のODA評価(被援助国政府機関による評価)。
 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース,事業事前評価表を参照。
 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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