ODA(政府開発援助)

平成30年10月30日

評価年月日:平成30年10月18日
評価責任者:国別開発協力第二課長 門脇 仁一

1 案件概要

(1)供与国名

インド

(2)案件名

デリー高速輸送システム建設計画(フェーズ3)(第三期)

(3)目的・事業内容

 インドのデリー首都圏において,総延長約116キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって交通混雑の緩和と交通公害減少を通じて,産業競争力の強化に寄与するもの。
 今次は,2012年に開始された本計画の第三期として2022年12月までの資金需要に対応するもの。

  • ア 主要事業内容
    • (ア)土木工事
    • (イ)電気・通信・信号システム・自動料金回収システム・換気及び空調設備等
    • (ウ)車両調達
    • (エ)車両保守基地工事
    • (オ)コンサルティング・サービス(入札補助・施工監理等)

 円借款対象部分は,上記のうち,(ア)の一部並びに(イ),(ウ)及び(オ)である。

  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    536.75億円 1.5% 30(10)年 一般アンタイド

    (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価)
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに該当する。本計画に係る環境影響評価(EIA)報告書は,インド国内法上作成が義務付けられていないものの,実施機関であるデリーメトロ公社により2011年8月に作成済みであり,2013年11月に改定された。
用地取得及び住民移転
 本計画では,用地取得面積は52.8ヘクタール,435世帯1,101人の移転を伴うが,実施機関は用地取得・住民移転対象者との協議を開催しており,JICAガイドラインの要件を満たすよう策定された住民移転計画及び新用地取得法,デリー準州政府の住民移転政策に沿って手続きを進め,一部区間を除いて用地取得・住民移転・補償の手続きは完了している。一部区間においては,これら手続きは未了であるが,対象者との協議は進展しており,2018年12月までには完了する見込み。
外部要因リスク:特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 インドでは近年急速な都市化が進み,自動車及び二輪車の登録台数が急激に増加する一方で,公共交通インフラの整備が進んでいない。特に,デリー,ムンバイ等の大都市では道路交通需要の拡大に伴う交通渋滞が重大な問題となっており,経済損失並びに大気汚染・騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化している。インド政府はこれらの課題に対応するため,近年の経済成長に伴う輸送需要に対応することに加え,安全性・エネルギー効率・社会環境保全の観点から,公共交通システムの整備を重視している。
 デリー準州政府は,デリー首都圏における従来の公共交通システムの混雑緩和,交通事情の改善,大気汚染の緩和を目指し,大量高速輸送システムの導入を柱とする都市交通整備を計画している。また,インド政府により承認されたデリー準州政府策定の「デリー・マスタープラン2021」の中でも,引き続き高速輸送システムがデリー首都圏における輸送システムの中核を担うことが強調されており,インドの開発政策とも高い整合性を有している。
我が国の基本政策との関係
 インドの人口の約3割が依然として貧困状態にあること,電力,運輸等の経済インフラが絶対的に不足していることなどの開発ニーズを踏まえて2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。
 本計画は,インドのデリー首都圏において,総延長約116キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もって交通混雑の緩和と交通公害減少を通じて,産業競争力の強化に寄与することから,上記(イ)に合致する。
 また,2017年9月の安倍総理大臣のインド訪問時には「両国のパートナーシップを新たな次元に引き上げるべく協力することを決定」するとともに,日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト政策」の連携に向けた取組の強化を誓うなど両国の関係強化が着実に進んでいる中,円借款を始めとするODAを通じて,経済・社会開発を進めるインドの取組を支援することは,こうした日印二国間関係の更なる強化につながる。

(2)効率性

 公共交通機関が競合するのではなく,体系的な都市交通を構成するよう互いに補完し,公共交通機関全体として効率よく運営されること,また,財務的に自立した事業実施体制の確立が重要であることから,乗客数の目標値設定にあたっては,対象地域の交通量や住民の所得水準及び移動手段等を調査した上で,既存線の乗客数実績も考慮した推計をしており,より現実的な目標値を設定した上で,それをもとに事業規模を決定した。
 また,財務面の強化のためには利用率の向上による鉄道料金収入の確保が不可欠であり,実施機関によって運営されている支線バス(フィーダーバス)路線の拡充が行われる。体系的な都市交通の形成のため,地下鉄路線及びフィーダーバス路線が他のバス路線と競合しないようにデリー政府交通局が調整を行っている。

(3)有効性

 運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2022年)の見込み)として,乗客輸送量は4,099万人・キロメートル/日が設定され,デリーメトロ全体における1日あたりの利用者数は約190万人(フェーズ3着工時(2012年))から約270万人となる見込みである。
 また,定性的効果として,デリー首都圏における交通事情の改善,交通公害の緩和,移動の定時性確保による利便性の向上,デリー首都圏の経済発展に寄与し,ひいては温室効果ガス排出削減による気候変動の緩和も期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,インド国別評価報告書(2017年度)国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,その他国際協力機構から提出された資料。
 案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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