ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成30年8月28日
評価年月日:平成30年2月9日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀
1 案件名
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
沿岸及び内陸水域における救助能力強化計画
(3)目的・事業内容
本計画は,バングラデシュ沿岸警備隊(BCG)に救助艇を整備することにより,船舶事故や自然災害発生時の迅速な救助・救援体制の強化を図り,もってバングラデシュにおける船舶事故及び自然災害による被害の軽減に寄与するもの。供与限度額は27億2,900万円。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
特になし。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
- ア バングラデシュは,約9割が標高10メートル以下の低平地である世界最大規模のデルタ地帯に位置し,国土の約7%(9,770平方キロメートル)が水に覆われており,内陸河川部における水上交通が多く利用されている。特に南部(ダッカ-クルナ間)は,内陸水上交通が北部(ダッカ-シレット間)の3倍以上と集中し(世界銀行(2007年)),過積載や荒天等によって衝突,沈没や油の流出など重大な船舶事故が多発しており,その数は世界でも最多の水準となっている。また,同国は,毎年サイクロンが来襲し,沿岸部で遭難事故が多発しており,これら事故発生時の救助・救援体制の強化が課題となっている。
- イ 沿岸部及び内陸水域における人命救助は,内務省傘下のバングラデシュ沿岸警備隊(BCG)が担っており,船舶事故や自然災害による救援活動を行っている。しかし,現在BCGに配備されている救助艇は,30年近く使用され性能が低下している等の事情を背景に,事故現場への到着に時間を要し,救助活動が遅れるケースが多発している。内陸水域における船舶交通の輻輳化による後を絶たない船舶事故の増加や気候変動により増えつつある自然災害による被害に十分に対応するためには,救助艇の増強等が喫緊の課題となっている。
- ウ 我が国による対バングラデシュ人民共和国国別援助方針(2012年6月)では,社会脆弱性の克服が重点分野の一つに位置づけられ,防災・気候変動対策を支援するとされている。また,対バングラデシュ人民共和国JICA国別分析ペーパー(2013年4月)においては,海運や内陸水運に係る支援や防災・気候変動対策が重点課題であると分析しており,本計画はこれら方針・分析に合致する。
- エ バングラデシュは,近年,年間7%を超える経済成長を遂げており,同国の持続的かつ安定的な成長は,我が国を含むアジアの持続的成長にとり重要である。同国は2021年までの中所得国入りを目標に掲げ,インフラ強化,ガバナンス強化,貧困削減等の課題に取り組んでおり,我が国は同国にとり最大の二国間援助供与国として同国の取組を後押ししている。また,近年,同国の経済発展に伴い,日本企業の進出は増加傾向にあり(240社(ジェトロ,2016年2月)),我が国との経済関係は年々深化している。交通や物流などの経済活動において内陸河川が重要な位置を占めるバングラデシュに対し,本計画を通じて救助艇を供与し,救助・救援体制を強化することは,同国の投資環境の改善にも繋がり,我が国との経済関係の深化にも寄与し得ることから,外交上意義が高い。
(2)効率性
バングラデシュ国内には,米国の「人道支援事業」(2015年)により,災害時の住民支援用施設「沿岸地域災害管理センター」が30か所設置されている。本計画で供与する救助艇は,同センターへの被災者の迅速な移送に活用される予定であり,他のドナーとの連携により,支援の効率化を図ることとする。
(3)有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 2017年に比べて,事業完成後3年後の2023年に,
- (ア)救助艇の総収容可能人数が230人から520人に増加する,
- (イ)10海里先の事故・災害現場までの平均到着所要時間が,1時間から,10メートル艇については40分,20メートル艇については24分に短縮する,
- (ウ)堪航性が向上し,航行可能な条件が風浪階級2以下から,10メートル艇については風浪階級3以下,20メートル艇については風浪階級4以下に上がる,
- (エ)救助艇1隻あたりの1時間における油水回収能力が,0立方メートルから約9立方メートルに向上する。
- イ 海域・水域に流出する油の迅速な拡散防止,回収による海洋・河川域の自然環境及び資源の保護,河川交通の安全性向上が図られる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)バングラデシュ政府からの要請書
- (2)バングラデシュ国別評価報告書(2009年度)
- (3)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)