ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成30年6月1日
評価年月日:平成29年9月4日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件名
1-1 供与国名
ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という)
1-2 案件名
ホーチミン市非開削下水道管路更生計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,ホーチミン市において,非開削工法による既設老朽管路の更生を行うことにより,市中心部での排水・下水道管路網の機能向上及び道路陥没事故のリスク軽減を図り,もって同地域の脆弱性への対応に寄与するもの。供与限度額は18.82億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
特になし。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ベトナム最大の都市であるホーチミン市の下水処理率(全家庭排水量に対する既存の下水処理場での処理量の割合)は19%(2011年)と低く,雨季の幹線道路の冠水や河川・湖沼・運河・地下水の水質汚濁が深刻な問題となっている。特に,同市にはフランス統治時代に整備された排水・下水道管路網が多数埋設されているが,老朽化による漏水によって未処理下水の地下浸透を引き起こしており,公衆衛生への脅威となる地下水の水質汚濁を増大させている。加えて,市中心部の多くの老朽管は排水能力が低下し,浸水被害を拡大させる可能性が高いとともに,外圧に対する耐力が低下し,道路陥没事故を引き起こす可能性が高まっている。実際,同市では,老朽管に起因する道路陥没事故が大規模なものだけでも年平均15件程度発生しており,交通障害や死亡事故を引き起こす等,市民の安全や社会活動にとって大きな支障となっている。
- (2)ホーチミン市人民委員会は,市中心部の既設下水道管路のうち,総計51,225メートルを更生の必要性が特に高い箇所と選定している。しかしながら,老朽管の多くは市の中心部に埋設されていることから,開削による既設下水道管路の更生は,交通や周辺住民・商業施設の活動に及ぼす影響が大きく困難であり,老朽化した下水道管路の更新が進んでいない。
- (3)本計画は,市中心部の既設下水道管路のうち,ア 「浸水被害の拡大のリスク」が特に高い,イ 「道路陥没事故発生のリスク」が特に高い,ウ 開削工法を適用することが特に困難である,といった箇所において,非開削工法を活用して老朽化した既設下水道管路(約2.8キロメートル)の更正を行うものであり,ア 及びイ のリスク軽減を図るとともに,同市中心部において老朽化した既設下水道管路の本格的な更新事業が未着手である状況の改善に寄与するので,その意義は高い。
- (4)なお,「2025年までの都市域及び工業団地の下水道整備方針及び2050年に向けてのビジョン」に係る首相決定(2009年11月)で,2025年までに都市部の下水道普及率を70~80%とするとの方針が示されている。本計画は同方針の一部に位置付けられている。また,対ベトナム国別開発協力方針の援助重点分野「脆弱性への対応」の中で,急速な都市化・工業化に伴い顕在化している環境問題への対応を支援することとしており,本計画はこの方針に合致する。
- (5)2017年1月の安倍総理とフック首相との会談において環境・防災対策の重要性が確認され,同年6月に両首脳から発表された「広範な戦略的パートナーシップの深化に関する共同声明」でも環境分野での協力が確認されていることから,本計画は両国関係の更なる強化の観点からも重要である。
2-2 効率性
本計画は,ホーチミン市における汚水処理能力の向上及び浸水被害の軽減を目的として,下水処理場や新規の排水・下水道管路等を整備している円借款事業「第2期ホーチミン市水環境改善事業」との連携が期待できる。この円借款事業で整備される施設は,本計画で更正される既設下水道管を含むホーチミン市中心部の既設排水・下水道管網とともに,ホーチミン市の下水道・排水システムを構成するものである。
2-3 有効性
本計画の実施により以下の成果が期待できる。
- (1)定量的効果(2016年(実績値)から2022年(事業完成2年後))
- ア 事業対象区間の排水能力:1.35倍
- イ 事業対象区間における道路陥没箇所数(箇所/年平均):27→0
- (2)定性的効果
下水・排水管路からの漏水の削減に伴う,地下水及び周辺河川の水質汚濁の軽減によって,事業対象地域の公衆衛生が改善される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ベトナムからの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)ベトナム国別評価(2015年度)