ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成29年3月31日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治
1 案件概要
(1)供与国名
インド
(2)案件名
ムンバイ湾横断道路建設計画(第一期)
(3)目的・事業内容
マハラシュトラ州ムンバイ都市圏において,半島側のムンバイ中心部からムンバイ湾を挟んだ東郊のナビムンバイを接続する総延長約22キロメートルの海上道路等を建設することにより,都市開発が計画されているナビムンバイ等への連結性向上を図り,もって経済成長の促進に寄与するものである。
- ア 主要事業内容
- 海上道路(本線道路片側3車線,総延長約22キロメートル,上部工(PC箱桁及び一部鋼床版箱桁約4キロメートルを含む),下部工(コンクリート橋),基礎工(パイルベント及び場所打ち杭),陸上アプローチ道路,他主要幹線道路への接続部建設,付帯施設(料金所,管理施設等),交通安全施設及びITS(ETC:電子料金収容システム)等)(国際競争入札)
- コンサルティング・サービス(ショートリスト方式)
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 1,447.95億円 円LIBOR+10bp 30(10)年 一般アンタイド (注)コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価)
本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる道路・橋梁セクター及び影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに該当する。環境影響評価(EIA)報告書の作成・承認は,同国国内法上不要の見込みであるが,ムンバイ都市圏開発庁(Mumbai Metropolitan Region Development Authority: MMRDA)により作成され,2015年11月に承認済み。また,沿岸規制区域(Coastal Regulation Zone: CRZ)クリアランスについては,2016年1月に取得済み。 - イ
- 用地取得及び住民移転
本計画は,282世帯1,272人の住民移転を伴うため,同国国内法及びマハラシュトラ州政府の住民移転政策に準拠し,JICAガイドラインを満たすよう実施機関によって作成・承認された住民移転計画に沿って移転が進められる。また,96ヘクタールの用地取得を伴うが,69ヘクタールはマハラシュトラ州都市産業開発公社(CIDCO)の所有地が,MMRDAに移管される予定であり,残り27ヘクタールの用地取得がCIDCOによって進められている。土地に対しては,土地所有者との間の合意のもと,再取得価格に相当する金額で補償が行われる。住民協議では,移転地の場所や距離に関する意見が住民から提出されたが,MMRDAから移転地の提供につき説明するなどを通じて,住民から基本的な合意が得られており,本計画に対する特段の反対意見は表明されていない。更に,本計画の実施に伴い,ムンバイ湾の一部漁民の生計に対する影響が想定されるが,MMRDAが漁業方針を策定し,適切な補償が行われる。 - ウ
- 外部要因リスク:特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
インドでは,近年急速な都市化が進む一方で,公共交通インフラ整備が十分に進んでおらず,大都市圏では交通渋滞が深刻な問題となっており,右に伴う経済損失が経済開発への大きな障害となっている。道路セクターが輸送シェアの約57%を担うインドでは,上記課題に対応すべく,第12次5か年計画(2012年4月―2017年3月)において,道路等の包括的なインフラ整備が経済成長にとって重要とされており,同セクターの開発に重点を置いている。
ムンバイ都市圏は,2011年時点で1,841万人の人口を有するインド最大規模の都市圏であり,その中心であるムンバイ市は世界トップクラスの人口過密都市(人口密度は20,694人/平方キロメートル)である。また,同市においては,近年急速な都市化に伴い,自動車登録台数が107万台(2002年)から203万台(2012年)に急増している。マハラシュトラ州政府は,ムンバイ都市圏の広域的な経済発展のために対岸に位置するナビムンバイにおいて,経済特区開発,ジャワハルラル・ネルー港の拡張,ナビムンバイ新空港の計画を進めてきているものの,ムンバイ市とナビムンバイ間の交通手段は,湾を周回する道路,鉄道の各々1本のみであり,これら地域間の連結性の低さが新たな課題となっている。
また、2008年には,ムンバイ都市圏における運輸交通政策のとりまとめとして,ムンバイ都市圏総合運輸交通計画が策定され,ムンバイ都市圏の都市内及び近郊の鉄道網拡張を推奨するとともに,道路網拡張が提案されている。同計画において,ムンバイ湾横断道路建設計画は早期に実施すべき事業であり,ムンバイ都市圏の経済成長の促進に不可欠な事業として位置付けられている。
本計画を実施することは,マハラシュトラ州ムンバイ都市圏において,半島側のムンバイ中心部からムンバイ湾を挟んだ東郊のナビムンバイを接続する総延長約22キロメートルの海上道路を建設することにより,都市開発が計画されているナビムンバイ等への連結性向上を図り,もって経済成長の促進に寄与するものであり,インドの開発政策との高い整合性を有している。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
2006年5月に策定された「対インド国別援助計画」においては,対インドODAの重点目標として,(ア)経済成長の促進,(イ)貧困・環境問題の改善及び(ウ)人材育成・交流拡大を掲げている。
今回の供与案件である「ムンバイ湾横断道路建設計画(第一期)」は,マハラシュトラ州ムンバイ都市圏において,半島側のムンバイ中心部からムンバイ湾を挟んだ東郊のナビムンバイを接続する総延長約22キロメートルの海上道路を建設することにより,都市開発が計画されているナビムンバイ等への連結性向上を図る案件であることから,上記(ア)に合致する。
また,2016年3月に策定された「対インド国別援助方針」においては,今後の対インドODAの重点目標として,(ア)連結性の強化,(イ)産業競争力の強化及び(ウ)持続的で包摂的な成長への支援を掲げている。本計画は,連結性向上に資する案件であることから,上記(ア)に合致する。
(2)効率性
本計画において,関係し得る道路及びその他の開発計画等について包括的に十分調査し,本事業の最大限の開発効果発現のため,本事業対象地域の広域的な交通ネットワーク構築のための提言を行う予定である。
(3)有効性
本計画の実施により,マハラシュトラ州ムンバイ都市圏において,半島側のムンバイ中心部からムンバイ湾を挟んだ東郊のナビムンバイを接続する総延長約22キロメートルの海上道路等を建設することにより,都市開発が計画されているナビムンバイ等への連結性向上を図り,もって経済成長の促進に寄与することが期待される。運用・効果指標(いずれも事業完成2年後(2024年)見込み)として,年平均日交通量(42,650PCU/日),所要時間(Sewri-Chirle区間)(16分,2015年実績値は61分)等を設定している。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,インド国別評価報告書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構から提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。