ODA(政府開発援助)

平成28年12月6日

評価年月日:平成28年10月17日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一

1 案件概要

(1)供与国名

エジプト・アラブ共和国

(2)案件名

大エジプト博物館建設計画(第二期)

(3)目的・事業内容

 三大ピラミッドが位置するギザ地区(カイロ南西15キロメートル)において,博物館を新規建設することにより,歴史的文化遺産の保存・修復・展示・教育・研究等諸機能強化を図り,もってエジプトの持続的成長と雇用の創出に寄与するもの。

  • ア 主要事業内容
    • 建設工事・機材調達
    • コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    494.09億円 年1.4% 25(7)年 一般アンタイド

    (注)コンサルティング・サービス部分については,金利年0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

EIA(環境影響評価):本計画は,「環境社会配慮のための国際協力銀行ガイドライン」(2002年4月公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず,環境への望ましくない影響は重大でないと判断されるため,カテゴリBに分類される。本事業に係る環境影響評価(EIA)報告書は,2006年2月にエジプト環境省により承認済み。
用地取得及び住民移転:約48万平方メートルの用地を既に取得済みであり,本計画により新たな用地取得及び住民移転は伴わない。
外部要因リスク:特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 エジプトにおいて観光セクターは,経済波及効果・雇用創出効果が大きく,同国の四大外貨獲得源の一つであり,経常収支の黒字化を目指す上での重要産業として位置付けられている。中でも,歴史的文化遺産の有効活用は,同国政府において最も重要な観光セクターの課題の一つであり,これまでルクソール,アレキサンドリア等において博物館等の建設を進めてきた。同国で最も重要な歴史的文化遺産を保存・展示しているカイロ博物館(1902年に開館)は,開館から100年以上が経過し,建物・設備の老朽化が目立っている上に,展示のためのスペースや技術,人材が不足し,近代的な博物館としての機能は低い水準に留まっている。かかる問題の解決のために,その収蔵品の価値に見合った,保存修復・展示・研究・教育を行える機能を備えた新しい博物館の整備が急務であったことから,エジプト政府は国家プロジェクトとしての位置づけの下,日本政府に対して大エジプト博物館の建設に対する円借款供与を要請した。これに対し,日本政府は2006年に「大エジプト博物館建設計画」への円借款(2006年4月E/N締結,34,838百万円)供与を決定した。
 その後,詳細設計に伴う事業費の増加及び2012年以後の治安悪化等による物価・人件費上昇により総事業費が約1,400億円に増大したことを受け,今回追加借款を行うもの。
 エジプトでは,海外からの観光客数が2010年まで順調に伸びていたが,2011年及び2013年の二度の政変による政情不安,治安悪化等に伴い,政変以前に年間1,400万人を超えていた海外観光客数は,2013年には1,000万人以下にまで減少し,2010年に116億ドルあった観光収入は2014年には50億ドル以下に落ち込んだ。2014年6月にエルシーシ大統領が就任してから内政は安定しつつあるものの,治安は引き続き観光産業における大きなリスクになっている。
 そのような中でも,観光セクターは依然同国GDPの11%,雇用総数の12%以上を担う重要産業である。2015年3月に行われたエジプト経済開発会議では,2016年に観光収入を政変前の水準(116億ドル)まで回復させ,2018年には150億ドルを目指すとの観光セクター戦略が示された。本案件は,同戦略を進めるにあたっての重要案件として期待され,エルシーシ大統領の関心も高い。
我が国の基本政策との関係
 エジプトは,中東・アフリカ・欧州をつなぐ地政学的要衝に位置し,中東和平プロセス等,地域の平和と安定に向け重要な役割を果たしている。同国の開発課題への取組を支援し同国の安定化に貢献することは,地域の安定化にも繋がる。
 我が国の対エジプト援助重点分野「持続的経済成長と雇用創出の実現」の中の開発課題「輸出振興・産業育成」の下で,観光セクターについて,2006年4月に交換公文の署名を行った円借款「大エジプト博物館建設計画」を軸として,我が国の知見と技術を活用しつつ,ハード,ソフトの両面からの支援を掲げており,本計画はこの方針に合致する。

(2)効率性

 我が国は2008年から本博物館に展示予定の考古品の修復を行う大エジプト博物館保存・修復センターに対して,予防保存,保存修復,保存科学,遺物データベース構築等の分野に関する技術協力を実施してきている。また,2016年から3年間の予定で,博物館運営・展示に係る能力向上を目的とした技術協力を新たに実施中。更に,同博物館の位置するギザ県とカイロ市内を結ぶ地下鉄建設に対し,「カイロ地下鉄四号線第一期整備計画」として円借款を供与してきており,本計画の開発効果の一層の増大を図るため重層的な支援を行っている。

(3)有効性

 本計画により,歴史的文化遺産の保存修復・展示・研究・教育等の諸機能の強化が図られ,文化財保存修復が強化,考古学・保存修復関連研究論文発表数や教育セミナー・シンポジウム等開催回数の増加が期待される。また,三大ピラミッドが位置するギザ地区は観光の関心が高い地域であり,新博物館の建設により観光客の増加及びそれに伴う観光収入の増加が見込まれる。
 運用・効果指標(事業完成後2年後(2020年)見込み)として,対象施設の入場者数が5,085(1,000人/年)を達成することを目標として設定している。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

  • 要請書

 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。
 なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

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