評価年月日:平成18年4月28日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一
1.案件名
1-1.供与国名
エジプト
1-2.案件名
大エジプト博物館建設計画
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2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等
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エジプトとの関係緊密化
エジプトは、アラブ世界最大の人口(約7000万人)を抱える中東・アフリカ地域の大国であり、イスラム・非同盟諸国との連帯や欧米諸国との協調により、中東和平を始めとする諸問題の解決への貢献を行うなど、地域の平和と安定のために重要な役割を果たしており、国際場裡における発言力も強い。イラク問題や中東和平に対しても、同国は自国においてG8及び周辺諸国会合、パレスチナ諸派会合を主催するなどの貢献を行っている。このような役割を果たすエジプトとの間で、円借款を通じて緊密な二国間関係を維持・発展させることは重要である。
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(2) |
我が国の安全保障環境の改善
同国は、若年層を中心とした高い失業率や貧困層の拡大を国内問題として抱えており、これがイスラム過激派の温床となる可能性も排除できない。同国の政治的・経済的安定を通じた中東地域の安定は、我が国の安全保障環境の改善につながることから、円借款を通じて同国の安定的発展を支援する必要性は大きい。この点に関し、特に観光産業は同国の最大の外貨収入源であることから、観光産業の支援を行う意義は大きい。また、中東地域の安定は、石油資源の大部分を同地域に依存している我が国にとって重要課題であり、上述のとおりエジプトは中東地域の平和と安定のために大きな役割を果たしていることからも、円借款による同国への支援は重要である。
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(3) |
経済関係における利益増進
同国はアフリカ、中東及び欧州の結節点である地政学的要衝に位置し、民主化と市場経済化に向けた経済改革を推進していることから、今後の我が国との技術移転・貿易・投資をめぐる関係が強化される可能性があり、同国への支援は我が国経済関係の利益増進につながる。
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2-2.対象国の経済状況
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一人当たりGNIは1,310ドルであり、円借款供与対象国の低所得国に位置付けられる。人口は6870万人(2004年、世銀)。 |
(2) |
エジプト経済は、2000年9月以降のパレスチナ情勢の悪化や2001年9月の米国テロ事件による観光収入の減少が不況に拍車をかけ、経済成長率は3%台に低下した。しかし、その後観光収入の回復等により国際収支が2002年後半以降改善する等、景気は総じて回復傾向にある。GDP成長率は2001/02年3.2%、2002/3年3.1%であり、2003/04年には輸出の増加に支えられて4.1%となった(IMF)。 |
(3) |
財政赤字は、公務員給与や生活基礎物資に対する補助金増加等による歳出増のため拡大傾向にあり、対GDP比2.5%となっている(2003/04年)。今後、輸出部門の競争力強化、高い失業率とインフレ率への対応、貧富の格差是正、国営企業の民営化等が中長期的な課題である。このため、2004年7月に発足したナズィーフ内閣は、経済活動の自由化、外国直接投資の誘致、製造業・輸出産業育成、天然ガスの開発等を通じて、経済成長と雇用創出の実現を目指した施策を講じている。 |
(4) |
エジプトの外貨準備高は、2004年7月には143億ドルであり、近年着々と増加し、過去最高を記録している。 |
(5) |
エジプトの対外債務残高は289億ドル(2004年6月)であり、輸出に占める債務残高の割合は2002/03年に159.7%、2003/04年に126.1%と減少を続けており、債務残高のGDP比は2002/03年35.3%、2003/04年37.6%と低い水準を維持している(IMF)。財およびザービス輸出に対する総債務返済額の比率(Debt
Service Ratio: DSR)は2002/03年に12.4%、2003/04年に10.9%(IMF)と比較的低位で安定している。これら対外債務の指標は中期的にも着実に低下すると見込まれている(IMF)。他方、公的債務レベル(対GDP比60%以上)が非常に高いことが懸念要因である。しかし、債務削減分の余剰資金を将来の対外債務の支払のために充てられる銀行預金(Block
Account)が相当あることや、国内債務の7割を国内の金融機関が保有しているためリファイナンシング(注:より低金利の債券に借り換えること)やロールオーバー(注:期日までに再投資を行い、実質的に決済を先延ばしすること)のリスクが低いこと、対外債務は中期的かつ譲許的なものに政府がとどめていること等を勘案すれば、今般、円借款を供与するに当たって問題となる水準とは考えられない。もっとも、近年の高いレベルの公的債務は成長や民間投資を妨げることになるため、政府借入を減らし、歳入・歳出面での改革、金融セクター改革、民営化に取り組むことが必要である。
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2-3.対象国の開発ニーズ
カイロの中心にあるエジプト考古学博物館は、年間約200万人が来館し、カイロ観光の拠点の一つとなっている。同博物館は1902年に開館し、展示部門の延べ床面積約2.1万m2、2階建て、約16万点以上の歴史的収蔵品を展示している。しかしながら、同博物館は建物や設備が老朽化し、収蔵品の保存・修復は適切な技術水準をもっては行われていない。また、収蔵品数は当初予定の3倍以上に増加しているものの、敷地に制約があり同博物館を拡張することはできない。このため、展示スペースは不足し、収蔵品が本来持つ価値を適切に発揮するような展示はできていない。さらに、同博物館は収蔵品を活用したエジプト考古学等の研究・教育を行うことを想定した設計ではないため、一般的に博物館に求められる保存・修復、展示、研究・教育の機能を果たすことができていない。
2-4.我が国の基本政策との関係
対エジプト国別援助計画においては、(イ)経済・社会基盤の整備、産業の振興、(ロ)貧困対策、(ハ)人材育成、教育の充実、(二)環境の保全、生活環境の向上を重点課題とし、エジプトを支援することとしている。
2-5.タエジプトに対して有償資金協力を実施する理由
本計画は、上記2-3.に示すとおり開発ニーズが高く、対エジプト国別援助計画の重点課題である上記2-4.(イ)及び(ハ)に該当し、経済成長の促進と貧困・環境問題の改善に有効であると考えられる。 |
3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
カイロ南西約15kmに位置するギザ地区において現在エジプト考古学博物館等に展示・保存されている約10万個の考古学収蔵品(ツタンカーメン王の黄金の仮面等)を展示・保存し、考古学の研究・教育を推進するための博物館を建設する。
3-2.実施内容
供与限度額:348億3,800万円
金 利:年1.5%
償還(据置)期間:30(10)年
調達条件:国際・国内競争入札
実施機関:文化省・考古最高評議会
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
(1)EIA(環境影響評価):不要
(2)用地取得:不要
(3)外部要因リスク:経済状況の変化による観光客数の変化
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
本計画を通じ、観光産業の発展、研究・教育の推進、雇用機会の創出に貢献し、経済成長に必要な経済・社会基盤の整備に寄与する。さらに、エジプトの安定的発展の確保、周辺地域の安定と経済発展への寄与、二国間関係の緊密化等に貢献する。 |
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、F/S、環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン
(http://www.jica.go.jp/environment/guideline/archives/jbic/index.html)、
その他国際協力銀行より提出された資料等。 |
(注)本プロジェクトに関する事後評価は、実施機関が行う予定。