ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第470号
ODA支援を通した日本とアフリカの関係性
大阪大学法学部国際公共政策学科3年 竹之内 花乃
1 アフリカにおける日本のODAの意義


私は今年の夏、自分の価値観や知識を広げるような経験がしたいと思い、国際交流基金で活動している知り合いがいるケニアに行くことに決めました。それに伴いケニアについて文化や風土、教育制度などを調べているうちに、自分の抱いていたアフリカ地域に関するイメージが一面的であったことに気付かされました。また、実際にケニアに行ってみて、発展している都市やスラムなど色々な角度からのケニアを見たことで、ケニアを含むアフリカ地域への理解が深まりました。
本年はアフリカ開発会議(通称TICAD)30周年の節目の年であり、日本とアフリカの関係において重要な意味を持つ年です。TICADとは、アフリカの開発をテーマとする国際会議であり、1993年以降日本が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行及びアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催しています。昨年はチュニジアにおいて第8回アフリカ開発会議が開催されました。
日本人である私達にとって、遠く離れたアフリカの内情を的確にイメージすることはなかなか難しいと思います。今回は、ケニア滞在時の写真なども参考にしながら、ケニアを含むアフリカ地域と日本との関わりについて紹介していきたいと思います。この記事によってアフリカを少しでも身近に感じて頂けたら嬉しいです。
2 アフリカの魅力


皆さんはアフリカというとどのようなイメージが思い浮かびますか。壮大な自然や野生動物、民族紛争や貧困といったイメージがほとんどだと思います。
もちろん、自然が豊かで貧困といったイメージ通りの側面もあります。しかし実際は日本と同じようなビルや建物が立ち並ぶ都市地域もあり、カフェやおしゃれなレストランもあります。また、デモや紛争は選挙の時期に発生することがほとんどで、普段は安全に暮らすことが出来ます。

実は、アフリカは2050年には世界の人口の4分の1を占めると言われており、ダイナミックな成長が期待できる大陸です。


資料:各地域における人口見通し(経済産業省通商白書2016より引用【経済産業省提供】)
また、アフリカは資源も豊富にあり、潜在性あふれる世界最後のフロンティアとして世界各国が注目している地域でもあります。それは、アフリカ開発銀行(AfDB)が「アフリカ経済見通し2023」(注1)の中でアフリカの実質GDP成長率を2023年が4.0%、2024年が4.3%と見込んでいることからも明らかです。これらの成長の背景には日本によるODAの取り組みが貢献しています。
3 実際の支援内容

ODAというと規模や金額のみに焦点が当てられ、具体的な中身についてはあまり浸透していません。より支援の中身や実際の現地の人の変化が伝わればいいなと思います。
以下で実際に日本が行っている支援のうち、特に私が興味深いと感じた事例を2つ紹介したいと思います。
1つ目はケニアにあるオルカリア地熱発電所です。オルカリアI4・5号機地熱発電所は、日本の有償資金協力を通じて2015年1月に完成しました。ケニアでは国内における総発電量のうち40%以上を地熱発電が占めており、地熱発電がケニアの電力を支えていると言っても過言ではありません。そして、その地熱発電は、水蒸気と熱水を地上に噴出させて、その勢いでタービンを高速回転させることによって発電します。オルカリアI4・5号機をはじめ、同地区で稼働している地熱発電所のタービンはその殆どが日本製です。

注:コジェネ(cogeneration)とは、火力発電などで生じた廃熱を利用して発電すること。熱電併給とも言う。JETRO海外ビジネス情報 地域分析レポート「総発電量の9割が再エネ由来(ケニア)」より引用
タービン以外にも、井戸の掘削技術や環境や施設関連知識、資材調達など、日本は多角的にケニアの地熱発電を支えています。日本で蓄積されてきた地熱発電技術が遠く離れたケニアの生活を支えているのです。
ケニアでは、総発電量のうち約9割をこの地熱を主とした再生エネルギーで賄っており、再生エネルギーの先頭を走っています。対して日本は総発電量のうち、2022年時点で再生エネルギーは22.7%のみであり、発電のためのエネルギー源を、天然ガス、石炭及び石油などの化石燃料に頼っています。しかも、そのほとんどは海外に依存しています。(注2)
このような状況において新たな資源外交展開の鍵として考えられるのが、アフリカ地域における豊富な資源や再生可能エネルギーです。近年アフリカでは紛争や内戦が収束し、資源を活用した経済成長を目指す国が増えています。実際に次々と探鉱や調査が行われ、新たな資源が発見されています。(注3)現在ウクライナ危機やエネルギー転換の影響によって、世界のエネルギー秩序は大きく変動しています。日本においてもエネルギー価格の高騰は経済に大きな影響を与えており、将来の脱炭素時代に向けた「カーボンゼロ」と安定供給の両立をどのようにして実現するのか、資源の確保をどのように行うのかといった課題が山積みです。また、これから世界のエネルギー市場はますます混乱し、再生可能エネルギーの促進やエネルギー安定供給への需要が高まっていくと予想されます。日本はアフリカ地域と協力関係を構築し、再生可能エネルギー技術の普及や開発支援を行っていく事が重要です。アフリカ地域への技術支援が、ひいては日本のエネルギー安全保障にもなり得るのです。
2つ目は、土嚢技術による道路整備事業についてです。アフリカ地域では未整備の道が多く、雨季には泥沼化してしまいます。そのため、物流が滞る、学校や病院などの公共機関へのアクセスが困難になるといった状況は日常茶飯事です。

こうした問題を解決するために、ODAからの資金によって、国際労働機関(ILO)と道普請人の指導の下、ケニアやザンビアにおいて土嚢技術を利用した道路整備が行われました。土嚢は、現地でも調達しやすく、施工も簡単であるので、安価で手軽に道路整備が行えるようになりました。これにより、交通が大幅に改善されています。


また、本支援は交通整備のみならず、持続的な雇用創出に貢献しています。ケニアでは若者の失業率が高く、失業率の高さが経済の停滞や貧困の助長および治安の悪化などにつながっています。そうした中、土嚢技術を利用した未舗装道路整備手法を技術移転し、その後の施工会社登録をサポートすることで、技術を身につけた若者達がビジネスに参画できるような仕組みが整えられています。これからのアフリカにとって、若者の就職支援は必要不可欠です。最新技術や環境整備などの支援も大事ですが、現地の実情に合わせた技術を提供し、人材育成につなげる取り組みこそが「質の高い成長」(注4)の実現に向けた協力として重要なのではないかと感じました。
4 日本とアフリカの今後


私は実際にケニアに行き、現地の人達と話したことで、本当の意味での「支援」とは何だろうという思いを抱きました。
スラムを訪問した際、一際目立つ立派な病院がありました。その病院は支援により建てられたものですが、実際は機能していないと感じました。その病院の中に医師免許を持った医者はおらず、看護師少数と免許を持っていない人達が診察していたようでした。また、薬や注射は高額であるため、診断のみ行われることが多いそうです。
また、ケニアでは電気が高額であり、昼間はつけない家が多く、また貧しい地域では電気自体がない家も多く存在します。地方のみならず、都市部でも人口増加により交通渋滞や配電網の老朽化による停電等課題は多く存在します。
私は実際にケニアを訪れたことで、現地のニーズや生活に合わせた、現地の人たちに寄り添ったものが本当の意味での「支援」であると感じました。無償資金協力や円借款、技術協力と様々なスキームでインフラが整備されている部分もあり、日本のODAの成果を感じる部分も多く存在します。しかし、まだまだ「支援」の余地はあるのではないかと感じました。
ODAの取り組みは日本のネットワーク強化や信頼関係につながると同時に、世界共通の社会問題に対する解決策に対するアプローチにも関連しています。法整備や海運、医療制度の観点からも、企業が進出しやすい環境が整えられることで、日本の経済活動の発展にもつながります。アフリカの支援は日本にとっても有意義なものであり、相互に利益をもたらします。これから日本とアフリカがより密接な関係を築き、協力しながら共に発展することを願っています。
- (注1)JETROビジネス短信(2023年のアフリカのGDP成長率は4%の予測、アフリカ開発銀行が報告)
参照
- (注2)環境エネルギー政策研究所 2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)
参照
- (注3)プラチナ、レアアースなどの新鉱床や油田が次々と発見されているアフリカビジネス振興サポートネットワーク(資源大陸)(PDF)
参照
- (注4)成長の果実が社会全体に行き渡り、誰一人取り残されない「包摂性」、社会や環境と調和しながら継続できる「持続可能性」、経済危機や自然災害などの様々なショックに対する「強靭性」を兼ね備えた成長(開発協力大綱より)