ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第446号
開発コンサルタントの現場レポート
気候変動に対応 エジプト太陽光発電事業について
株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル
プランニング事業部 地球環境・スマートシティ部 竹内 友博
私は開発コンサルタントとして、主に再生可能エネルギーの案件に従事しています。今回は私が駆け出しの頃に従事した、エジプトにおける太陽光発電所事業プロジェクトを紹介します。「太陽光」発電をはじめとする再エネ分野の案件は、気候変動への対応という観点からも、SDGs達成の観点からも、今後さらに重視される開発分野だと考えております。
エジプトの電力不足を解消
再エネ開発のためのエネルギーマネジメント
エジプトでは、2013年~2014年時点で発電設備容量は32,015メガワットである一方、2017年~2018年度の最大需要電力は32,195メガワットと当時の供給能力を超える見込みがあり、エジプト国内では突然の停電が日常茶飯事でした。そのため、発電設備容量の増強および環境負荷の少ない電源開発が喫緊の課題でした。エジプトと言えば歴史の教科書にも登場するアスワン・ハイ・ダムの水力発電が有名ですが、現在は石油やガスによる火力発電が主力です。本事業では、紅海県・ハルガダ市にあるハルガダ風力発電所発電所に、新たに出力20メガワットの太陽光発電、蓄電池による電力貯蔵システムおよび関連施設(インフォメーションセンター、地中ケーブル等)を新設することになり、弊社は施設の調査設計業務を受託しました。
この太陽光発電所は、太陽光発電および蓄電池等によるエネルギーマネジメントシステム(EMS)のショーケースとして位置づけられました。EMSとは、電力需要予測をもとに各エネルギー供給設備の制御を行うシステムです。現在のエネルギー使用状況を把握・管理し、それをもとに立てた需要予測を用いてエネルギー供給設備の制御を行います。そうして無駄なエネルギーの消費を減らし、エネルギー使用量を最小化するが可能となるのです。
また、本事業では、太陽光発電設備とあわせて、この事業の意義・概要を紹介するインフォメーションセンターの建設が予定されていました。弊社は、インフォメーションセンターの展示コンセプト策定や建物の設計を行ったほか、既存の施設としてあったハルガダ風力技術センターを改修し使用することを検討しました。調査初期段階では、施設に関しては概算予算と基本方針だけが示されているのみでしたので、まずは現地調査をおこなったところ、既存施設である風力技術センターは設立後20年以上を経過していることがわかりました。そのため、既存施設改修では新設に比べ今後の耐用年数が短くなることや、改修においてデザインに制限が生じるという弊害が想定されました。また、現地カウンターパートより施設新設の費用面等の効果を具体的に示してほしい、との要望を受け、施設新設と既存施設の流用の費用等の比較説明を行った上で、施設をすべて新設する提案を行いました。
さらに、エジプトの省エネルギー、再生可能エネルギー・未利用エネルギー対策における取組を効果的に示すため、この太陽光発電所を紹介するインフォメーションセンターの建物をZEB(net Zero Energy Building)にすることで、建物自体をEMSのショーケースとしました。建物をZEB化することで、エネルギーを自給自足し、化石燃料などから得られるエネルギー消費量をゼロ、あるいは、おおむねゼロにすることができます。自給自足のエネルギーで運営されるインフォメーションセンターを通じて、来館者が太陽光発電やEMSへの理解を深めることで、今後、太陽光発電やエネルギーの最適な利用が促進されることが期待されます。
また、本事業では本邦技術の優位性が発揮できる蓄電池、パワーコンディショニングシステム、EMSが、円借款・本邦技術活用条件(STEP)により日本原産の資機材として導入されます。日本の優れた技術やノウハウが活用され、日本の「顔がみえる支援」となることが期待されます。
大型プロジェクトを支える若手コンサルタント
心に残る炎天下での地質調査など
このプロジェクトでの私の主な役割は、自然条件調査や設計調査の補助および業務調整でした。自然条件調査では地形測量および地質調査を行い、施設設計の条件である地形・地耐力に関する情報を収集・分析しました。設計調査の補助としては、太陽光発電の経済性評価や工事費の見積もり、防風林の樹種選定を行いました。業務調整では、調査団員が円滑に調査や会議を行えるよう、出張の旅程作成から航空券・宿泊先の手配の他、会議の準備、現地業者との契約手続き・監督等を行いました。
印象に残るエピソードとして、現地での地質調査が挙げられます。地質調査では、現地業者が調査地に私たちの要求と異なるボーリング機材を用いようとしたことや、砂漠気候の屋外で二週間ひたすらボーリング調査を行いました。調査では、ハンマーを自由落下させ打撃回数を測定する試験を行いました。炎天下の中、現地業者が2週間朝から夕方まで試験を適切に行っているかを常に現場で監督しつつ、並行して現地会議の調整・準備を行うため大変でした。しかし、無事に納得のいく土の試料を入手出来た際には大きな達成感があり、今から振り返ると良い思い出です。
イスラム圏の文化・慣習への配慮
また、エジプトではイスラム教が主流のため、円滑に業務を実施する上で、イスラム文化に配慮することが重要です。例えば、イスラム教徒の五行のひとつにラマダンがあります。ラマダン期間中は、基本的に日の出から日没までの飲食が禁止です。また、この期間は官公庁のオフィスアワーが短縮されたり、飲食店が日中休業されたりすることがあります。断食している彼らと会議を行う際には、振る舞われたお水やお菓子などを遠慮するといった配慮をしました。また、短縮されたビジネスアワーに合わせて会議日程を調整するように心がけました。
その他には、アラブ社会では「インシャ・アッラー」という言葉があり、結果は全てアッラーの意思で決まると言う意味で、アラブ世界では努力はするが、結果は神の思し召しという考え方があります。なので、現地の地質調査会社から調査スケジュールが遅延した際に「インシャ・アッラー」と言われる時には、事前に遅れを見越して作業に余裕を持たせることや、如何にして作業を前に進めるかを考えるように心がけました。
この国の人々のおかげで、働かせて頂いている
どんな立場の方であれ、プロジェクトに関わる現地の方々を敬う心持ちがとても大事だと思っています。様々な現地業者にレンタカー手配や地質調査などを依頼する場合、仕事上は我々が上の立場ですが、立場に関係なく接するよう心がけています。この事業が円借款で実施されるということは、エジプト人の税金で事業が実施されることを意味します。彼ら一人一人の大切なお金を使わせて頂くわけですから、彼らの役に立てるよう、働かせて頂いているという視点は忘れないようにしたいと思っています。
例えば、工事費見積もりの情報収集のため、私が現地業者に資機材の情報提供を依頼した際に、厳しい言葉をいただくことがありました。その時には最後まで相手の主張を聞き、相手の言い分を理解するように努めました。その結果、現地業者は私の要求を承諾し、情報提供に応じて頂きました。
最後に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「1.5℃特別報告書」によれば、国際協力は、開発途上国や脆弱な地域が、昇温1.5℃に整合する気候対応の実施に向けて行動を強化するための重要な成功要因とあります。本事業が、中東およびアフリカにおける自国の気候変動対策を促すための一助になれば嬉しいです。
竹内 友博(たけうち ともひろ)さん 略歴
- 株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(外部リンクへ)
- 今回紹介したプロジェクト(JICA ODA見える化サイト)
「ハルガダ太陽光発電事業」 - エジプトへの国際協力についてもっと知りたい!
ODA(政府開発援助)エジプト
人間中心の開発支援
日本の「人間の安全保障」の取組について
国際基督教大学教養学部公共政策専攻4年 佐々木 二愛
人間の安全保障とは、私たち人間に焦点を当てて様々な脅威からの“保護”と“能力強化”を通じ、持続可能な社会の実現を目指すという考え方です。では、なぜ私たち人間を中心とした安全保障が重要なのでしょうか。
私たち中心の安全保障? フィリピンで出会った少女の言葉
私はフィリピンにて1か月間サービス・ラーニング活動(自発的な社会貢献をめざすボランティア)に参加し、孤児院、小学校や村でホームステイしました。ある日孤児院で学校の宿題を見ていると、一人の女の子が脇目も振らず勉強しているのに気づきました。なぜそんなに熱心なのか聞くと「将来は大統領になってフィリピンを変えるんだ」と目を輝かせながら教えてくれました。私は彼女の熱意に胸を打たれ、そこから一人ひとりの人間には社会のために行動する力があり、持続可能な社会の実現にはその背中を後押しすることが大切だと考えるようになりました。そのような開発協力の軸となるのが、人間の命の“保護”だけでなく、可能性を実現するための“能力強化”を目指す人間の安全保障というアプローチです。
日本は早くから人間の安全保障という考え方が国際社会に浸透するよう努力してきましたが、実際の現場でも国際協力の柱として位置づけ、人間一人ひとりに配慮する開発協力を数多く実施しています。1999年3月には国連に人間の安全保障基金(注)を設立し、他国と共同で100以上の国・地域で267件を支援してきました。この基金を元にしたプロジェクトとして、ハイチの防災分野への支援を紹介します。
- (注)人間の安全保障基金とは
- 1998年に小渕総理(当時)がベトナムで行った演説を受けて、1999年に日本が約5億円を拠出し、人間の安全保障の実施と普及を目的として国連に設置された信託基金。人間一人ひとりの命と生活と尊厳を様々な脅威から守る人間の安全保障の考えに基づき、現場において実際に人間の安全保障を実践するため、同基金を活用したプロジェクトが実施されている。
日本の人間の安全保障の実施例
分野横断的な支援でハイチの防災分野に貢献!
2010年1月12日、ハイチ共和国の首都の近くでマグニチュード7.0の大規模な地震が発生しました(ハイチ大地震)。これにより、死傷者は約22万2,500人、被災者は約370万人(人口の3分の1以上)にも上る大きな被害が発生しました。被災地の中心では建物の8~9割が倒壊し、ハイチ政府や国連の建物もほとんどが壊れ、GDPの約120%に相当する損失を被ったと言われています(注1)。この被害に対し、日本はテントや毛布などの緊急援助物資を供与し、また、国際緊急援助隊として医療チームや自衛隊部隊を派遣し、首都郊外において医療活動を行いました(注1、2)。その後も仮設住宅の建設や感染症対策といった追加的支援を行い、支援総額は1億ドルを超えました(注1)。
甚大な地震の被害は、貧困、脆弱な人的資本、森林伐採といった社会・経済・環境面といった様々な要因により引き起こされたと言われています。そのような複合的な原因に対処し、ハイチの人々を自然災害の発生という脅威から保護するために、「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義される人間の安全保障という考え方が役に立ちました。
また、2016年から2018年には、人間の安全保障基金により「ハイチにおける防災に関する人間の安全保障向上プロジェクト」が実施され、防災分野の脅威からの保護と人々自身の防災能力の強化を目的とした活動が行われました。具体的には、これまで国主導だった防災戦略において、一人ひとりの置かれている立場による視点を取り入れるほか、地方公共団体におけるワークショップの実施、さらに、学校や女性のコミュニティを生かした防災能力の強化を試みました。このような一人ひとりの置かれている立場に基づく保護と能力強化を通じて、短期間ではなく持続可能な形で防災対策に繋がることが期待されています。また、このプロジェクトは“自然災害の発生による脅威の削減”という共通の目的のもと、地方公共団体、政府や国際機関といった様々な機関が関わり、それぞれの機関の特性を活かして支援を行いました。このようなきめ細やかな支援ができることも、包括的な人間の安全保障アプローチの特徴といえます(注3)。
同じ地球上にいる人々に手をさしのべよう!
人間の安全保障は私たちの日々の行動にも取り入れることができます。例えば、「誰ひとり取り残さない」社会を目指すSDGsの実施において、人間の安全保障に基づき一人ひとりの命・暮らし・尊厳を考えれば、様々な立場にいる私たちを連帯させて本当にすべき行動に導く指標になります。
近年の新型コロナウイルスは、経済の発展度合いに関係なく猛威を振るい、私たちはグローバルな課題へ目を向ける余裕がなくなっているかもしれません。一方で、世界はつながっていると気づく契機にもなるのではないでしょうか。もし日本にウイルスがなくなっても、どこかの国にある限りウイルスとの戦いは終わりません。今こそ苦境にある人々のために何ができるか考え、また私たちも助けられる側になりうる現実を考えて一歩踏み出してみませんか。
- (注1)「わかる!国際情勢 ハイチ大地震を乗り越えて」
- (注2)JICA「2010年 ハイチ地震」
- (注3)UN Trust Fund for Human Security “Increasing human security –to-disaster-risk in Haiti(PDF)