ODA(政府開発援助)

2020(令和2年)年11月13日発行
令和2年11月13日

開発コンサルタントのODA現地レポート(マダガスカル)
相次ぐ困難に直面しながら挑む、かんがい施設改修プロジェクト

(画像1)マダガスカル

株式会社三祐コンサルタンツ 海外事業本部技術第4部 戸嶋 龍

 アフリカ南東部に位置するマダガスカルは、日本と同じ島国で主食もコメである。戦前の日本と同じく、一人あたり1か月に約10キログラムのコメが消費されており、食事の大盛りごはんは普通の日本人では完食できないほどである。また、マラガシ(マダガスカル人)の顔つきも、他のアフリカ諸国と比べ、アジア人に似た面影をもつ人々が多く、農村風景も東南アジアのそれと近い。今回は、日本に遠くて近いマダガスカルでのコメのかんがい施設の改修事業について紹介する。

老朽化したかんがい施設を改修
コメの増産をめざす大型プロジェクトを担当する

(写真1)広大な1万ヘクタールの受益地 広大な1万ヘクタールの受益地
(写真2)改修中の頭首工(取水口) 改修中の頭首工(取水口)

 「アロチャ湖南西地域灌漑施設改修計画」プロジェクトは、日本の無償資金協力事業により2015年から設計を実施し、2018年4月から3か年計画でかんがい施設を改修施工する計画である。

 この計画に沿って、首都アンタナナリボから北東へ約200キロメートルに位置する既存農業水利施設(頭首工、水路、農道、水位調整施設等)の改修を行っている。対象地区はコメの主要な生産拠点であり、面積は1万ヘクタールと広大である。日本の耕地面積は約450万ヘクタールであることから、一気に日本の耕地面積の450分の1の面積を改修する大事業である。

 プロジェクトの対象となる施設は約50年前に旧宗主国のフランスにより建設されたものであり、施設の老朽化により農業用水の安定的な供給が困難になっている状況であった。このような状況下、日本の無償資金協力事業により本かんがい施設を改修して安定的に用水を供給し、持続的農業およびコメの増産を目指したものである。また、この事業により約4,300の受益農家が裨益し、増産したコメを大都市へ出荷することによって、マダガスカルのコメの自給率向上が期待できる。

プロジェクトに降りかかる最初の課題
設計変更と住民への説得に奔走する

(写真3)改修設計前の水位調整施設 改修設計前の水位調整施設
(浮力により自動的に開閉)
(写真4)改修設計後の水位調整施設 改修設計後の水位調整施設
(越流型)

 プロジェクト開始にあたっては、まず現地の維持管理の実情に合わせた改修設計をすべきと考えた。例えば、建設当時にフランスにより輸入された浮力により自動的に開閉する水位調整用ゲートは、老朽化と維持管理不足によりゲートの機能が失われていた。そこで農民が自主的に維持管理、更新、修理ができるような簡単な構造のゲートを提案し、施設の持続可能性の向上を目指した。具体的には農民が容易に運営・維持管理できる越流型の水位調整施設とし、そこに水位計をつけて下流への流量を確保するものとした。

(写真5)現地の人々に説明を行うプロジェクトチームの様子 改修された水位調整施設で、使い方や維持管理について現地の人々に説明を行うプロジェクトチーム

 さらに住民にプロジェクトの意義を理解してもらうことが重要だ。改修してすぐ利用できる道路などと違い、かんがい施設改修では、実際に農業用水が利用され効果が見えるようになるまでに時間がかかる。新しいプロジェクトの導入によって住民は新たな水源を利用できることになるが、過去50年の歴史の中では、水管理計画にはない場所からの取水が行われてきた現状がある。こうした取水行為は長い時間の中で既得権化しており、今後適正な水管理を実施する上で住民の理解が必要となっている。水利組合を対象に水管理や維持管理の重要性を説明し、規定外の取水行為があった箇所をパトロールし、取水できないように改修した翌日に、また元の状態に戻っていたこともあった。

 このような背景を踏まえると、ODAにより施設のみを改修しても、適切な利用がなされなければ安定した水供給につながらないため、根気強く水利組合や農民と直接対話し、理解してもらうしかない。

(写真6)説明する筆者の様子 水利組合幹部に水管理や維持管理の重要性を説明する筆者
(写真7)説明に耳を傾ける現地の人々の様子 コンサルタントの説明に耳を傾ける現地の人々

 「今の改修プロジェクトは皆さんのためのものでもあり、適切な維持管理を続けていけば、お子さんたちの世代、お孫さんたちの世代まで引き継がれ、役立つものになるはずです」と伝えると、共感してくれる人が少なからず出てくる。突然やって来た外国人コンサルタントの言うことに耳を傾けてもらうためには、彼らの気持ちに寄り添い、具体的なイメージを伝えることが大切だと感じる。

さらに降りかかる洪水と新型コロナウイルスによる中断 そして今後は?

(写真8)洪水により被災した水路 洪水により被災した水路

 もともと工事は3年を予定し、1年ごとに区域を分けて施工して完成したところから順次、先方政府や地元水利組合へ引き渡していた。このプロジェクトには、施主であるマダガスカル農業・畜産・水産省、JICA、施工業者、コンサルタントが一体となって関わってきた。途中の設計の変更や住民の説得など、いろいろな苦労を乗り越えつつ工事も進み、5割か6割程度の完成を経て一部引き渡し式なども実施され、なんとかめどが立ちそうだと思っていた。

 ところが工事の3年目開始直前の2020年1月末に、50年に一度の洪水により、既に工事完了したかんがい施設が被災した。これは水利組合の長老も経験したことがないような洪水であった。「神様は工事を終わらせてくれないんだ」と、私は心の中で思わず叫んだ。だが、しかたない。雨期が終了した2020年4月に洪水被害の全貌を把握できたが、コロナの影響が拡大している状況により、いつ中断しても良いように被災したかんがい施設の仮復旧のための盛り土を早急に実施した。工事の一時中止が長引いたときに、農民が最低限の営農をできるよう、用水を流せる状態を保っておく必要があったからだ。

 このような状況の中、全世界に猛威を振るっているコロナの影響はマダガスカルにも拡大した。じわじわと首都から拡大していたが2020年5月にプロジェクト現場まで100キロメートルに位置する中核都市に感染が拡大したことを受け、本プロジェクトは工事関係者の健康を守る観点から、2020年6月より工事一時中止を決定した。現在、工事再開が可能となった時のために、工事工程の見直し、洪水再発防止対策、運営・維持管理問題を抽出し、必要な延長期限を想定して計画を練り直している。いつ完成をみるかはまだわからないが、プロジェクトの完成まで必ず見届けたい。

 そして事業が完了して、次世代を担う地元の子どもたち、またその子どもたちがこの施設を運営・維持管理して、このアロチャ湖周辺地区がコメ作りにおけるマダガスカルの模範地区になってほしい。そして「あの時、日本の事業が行われて良かったね」と語り継がれることを期待している。

(写真9)著者(戸嶋 龍)
著者略歴:
大学卒業後、株式会社三祐コンサルタンツに入社し、国内外のかんがい排水事業に従事する。現在50歳。好きな言葉は「質実剛健」、趣味は「剣道」、日本にいるときは早く稽古に行けるよう、定時退社を目指している。

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