ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第426号
国連環境計画(UNEP)のスペシャリストが挑む!
アジアのプラスチック廃棄物問題

国連環境計画(UNEP)国際環境技術センター(IETC)
プログラムオフィサー 本多 俊一
日本でもレジ袋有料化が始まり、今までのプラスチックに依存した生活・習慣においてパラダイムシフトの第一歩が起こりました。これを機に、皆さんも地球を守るために自分で何かできないか、と考えるようになったと思います。地球を守るための行動(サステナビリティ・アクション)を起こすためにも、持続可能な開発目標2030(SDGs)を私たちの生活や事業の中心に組み込まなければなりません。
国連環境計画 国際環境技術センターのミッションは?

私が勤務する国連環境計画(UNEP)国際環境技術センター(IETC)は、1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」のレガシーとして日本政府が誘致し、1992年に設立されました。UNEP IETCは、UNEPにおける廃棄物担当部署として、プラスチック廃棄物管理や水銀廃棄物管理、廃棄物と気候変動問題、民間企業との連携によるUNEPサステナビリティアクション等、幅広い活動を実施しています。
現在私が主に取り組んでいるのが、プラスチック廃棄物の適正管理を実施するために、アジア各国に対して技術的な支援を行うプロジェクトです。これは日本政府の支援を受けて進めているもので、アジア各国が必要としている環境技術情報のニーズ・シーズ調査を行い、デジタル技術を活用した廃棄物管理技術に関するデジタルプラットフォームを構築し、デジタル化社会における新たな環境技術支援活動などを推進しています。
SDGsスタンダードな環境技術とは?
アジア各国が必要としている環境技術とは、どのようなものでしょうか?環境技術はその国の経済レベル状況で異なるため、それぞれの国が必要としている身の丈の範囲で役立つ技術を利用する必要があります。そして、その技術は環境を守りつつ、人間の生活をよくするという原点から考えなくてはなりません。

- 低所得国であれば、貧困をなくすため
- 下位中所得国であれば、経済基盤をつくるため
- 上位所得国であれば、都市経済を発展させるため
- 高所得国であれば、持続可能な社会を構築するため


この考え方に基づき求められる環境技術を、SDGsスタンダードな技術と呼んでいるのです。実際にアジア各国が必要としている環境技術とは、各国の社会・経済的な状況に合うシンプルな環境技術です。例えば、現地の技術力で施設・機器のアップグレードやメンテナンスが可能な環境技術、地方創生を目指したコミュニティレベルにおいて、小さな循環型社会を形成できる環境技術などです。このシンプルな環境技術を導入するには、そのコミュニティが直面しているSDGsを明確にし、その社会的課題を自らの手で解決するために役立つ環境技術の導入が必要です。
プラスチック廃棄物に関しては、どのようなSDGsスタンダードな環境技術が望まれているでしょうか?一例としてはペットボトルのリサイクルシステム・技術が挙げられています。アジアの多くの都市、特に地方都市では、ペットボトル入りの飲料水があるからこそ、衛生的に安心な水を飲むことが可能です。しかし、一度使用したペットボトルの多くは、そのまま埋立処分場に廃棄されています。
これら使用済みペットボトルを、処分場に行く前にコミュニティレベルで回収し、シンプルなリサイクル技術により循環資源としてよみがえらせることが可能です。これにより、コミュニティにおける社会的課題と環境問題も同時に解決できる、小さな循環経済を構築することにつながります。SDGsスタンダードな環境技術アプローチは、持続可能な未来都市に重要な役割を果たす、分散型かつ強靭な街づくりの一歩となるでしょう。
UNEP IETCではこのような社会的課題解決に向けた各種廃棄物管理プロジェクトを実施しています。SDGsスタンダードな環境技術を活用して、気候変動対策や環境上適正な廃棄物管理を実施し、その結果として経済的利益も生むことができる「グリーン・ニューディール」の構築を目指しています。
プラスチックごみ問題解決に向け、UNEPサステナビリティアクションをスタート

UNEP IETCは、2019年5月に「プラスチックごみ問題に関する国連環境計画シンポジウム」を開催しました。シンポジウムでは、海洋プラスチックごみ問題が世界的に深刻な問題となっていることを踏まえ、国際機関・政府機関・地方自治体・民間企業等の取組の紹介や連携戦略についてパネル・ディスカッションが行われました。その結果を踏まえて、同年6月に開催されたG20大阪サミットおよび関係閣僚会合に対するメッセージを、日本政府に伝達しました。
このシンポジウムの成果として、2020年6月1日、UNEPは株式会社ファーストリテイリング、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、地球環境センターと共に、UNEPサステナビリティアクションをスタートさせました。UNEPサステナビリティアクションは、地球環境問題、特にサステナブルな社会の促進を目的とし、分野・業界・国境を越えて、国連・政府・企業・市民・その他機関がつながる横断的なプラットフォームです。
地球誕生から約46億年の歴史を1年で表す地球カレンダーを用いて考えると、すべての環境問題は、わずか2秒間で起きています。地球が自然に創りだした究極のエコシステムを取り戻すため、今後は、私たちが培った英知とテクノロジーをフル活用して、サステナブルな社会へ転換していかなければなりません。人間社会の暮らし方が自然と一体化したその時に、SDGsで掲げられている全ての課題が解決するでしょう。サステナビリティ×創造力を活用して、私たちはこの壮大な目標に挑戦しなければなりません。

- 本多俊一 略歴
- 工学院大学卒業後、静岡県立大学大学院で博士(環境科学)を取得。2003年清華大学博士研究員に着任。2005年より環境省国立水俣病総合研究センターの研究員として国際的な水銀管理プロジェクト実施後、2008年より環境省廃棄物・リサイクル対策部で国際環境条約交渉を担当。2015年より国連環境計画国際環境技術センター勤務。
(注)本記事は、8月10日に執筆されました。
(注1)水銀の一次採掘の禁止から貿易、水銀添加製品や製造工程、大気への排出、水銀廃棄物に係る規制に至るまで、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定める条約。正式名称は「水銀に関する水俣条約」。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための国際協力


新型コロナウイルス感染症の世界規模での拡大は、人の往来やモノの流通がグローバルに進展している今日、日本を含む全ての国の経済・社会にとっても大きな脅威であり、世界全体にとっての深刻な危機として国際社会全体が一致して取り組むべき課題です。そのため、日本がODAを通じて、途上国の感染防止対策および保健・医療体制強化のために行っている支援例を紹介します。
エクアドル共和国への医療関連機材の供与
エクアドル共和国は新型コロナウイルス感染症が拡大していますが、国内の医療関係のインフラが十分ではなく、保健・医療体制の強化が重要な課題となっています。そこで日本はエクアドル共和国に対して保健・医療関連機材の供与を行う無償資金協力を行うこととしました。この支援によって、人工呼吸器、救急車、X線および血管撮影システム、CTスキャナー、ポータブル超音波スキャナー等の各機材が、保健省の定める病院にそれぞれ整備されることになります。

エクアドル外務省で行われた署名式の様子。ひじを合わせて笑顔で挨拶する、エクアドルの外務大臣と在エクアドル日本国大使
- 報道発表全文はこちらから
国名 | 供与内容 | 金額 | ODAタイプ | 署名日付 |
---|---|---|---|---|
レソト王国 | 血液ガス分析装置等 | 1億円 | 無償資金協力 | 8月13日 |
エクアドル共和国 | 保健・医療関連機材 | 7億円 | 無償資金協力 | 8月8日 |
マダガスカル共和国 | 移動式X線撮影装置、小型救急車等 | 4億円 | 無償資金協力 | 8月6日 |
コンゴ民主共和国 | 移動式X線撮影装置、医療コンテナ等 | 5億円 | 無償資金協力 | 8月6日 |
パラグアイ共和国 | 移動式X線撮影装置、小型救急車等 | 3億円 | 無償資金協力 | 8月6日 |
セルビア共和国 | X線撮影装置、救急車等 | 1億円 | 無償資金協力 | 8月5日 |
モーリシャス共和国 | 血管撮影システム、X線撮影装置等 | 3億円 | 無償資金協力 | 8月5日 |
バングラデシュ人民共和国 | 新型コロナウイルス危機対応のための緊急支援 | 350億円(償還期間15年) | 円借款 | 8月5日 |
グアテマラ共和国 | 保健・医療関連機材 | 3億円 | 無償資金協力 | 8月5日 |
コロンビア共和国 | 保健・医療関連機材 | 5億円 | 無償資金協力 | 8月4日 |
モザンビーク | 小型救急車 ICUベッド等 | 5億円 | 無償資金協力 | 8月3日 |
8月1日~8月13日署名分。日付は日本時間
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