ODA(政府開発援助)

2019(令和元年)年12月27日発行
令和元年12月27日

密輸ルートにNO!
国境管理の強化支援で中央アジアの治安安定へ

在キルギス日本国大使館 齋藤 竜太 専門調査員

  • (画像1)キルギス共和国

 国土の9割が標高1,500メートル以上の山地で占められ,麻薬生産が問題となっているアフガニスタンに近接しています。政治体制は独立して間もなく,国家建設の途上にあるキルギスで,国境管理は難しい課題です。1991年の旧ソ連崩壊後,アフガニスタンの動乱や紛争を経て,キルギスが位置する中央アジアはロシアや欧州への違法薬物の主要な密輸経路の一つとなってしまいました。国際犯罪組織や過激派ら武装勢力の活動も,キルギスのみならず中央アジア地域全体の脅威となっています。

 日本政府は,2013年から,違法薬物と越境組織犯罪と闘う国際連合の組織である国連薬物犯罪事務所(UNODC)と連携し,キルギスおよびその周辺地域における国境管理強化プロジェクトとして国境連絡事務所を設立し治安機関職員の能力強化に取り組んできました。

  • (写真1)キルギス・ウズベキスタン国境検問所の視察
    キルギス・ウズベキスタン国境検問所の視察。
    両国の関係改善に伴い交通が活発になりつつある。
    (当館館員撮影)

 この案件では,キルギスが国境を接しているカザフスタン,ウズベキスタンおよびタジキスタンとの国境地帯それぞれに,国境警備隊,税関,国家麻薬監督局,警察を管轄する省庁である内務省の各治安機関が常駐する国境連絡事務所を新たに4か所(キルギス国内,中央アジア全域で15か所)設置し,機材整備および要員訓練を実施しました。省庁の縦割り構造が強く残る旧ソ連中央アジア地域において,このような省庁の垣根を越えた取り組みは画期的です。また,キルギスとカザフスタンとの国境地帯では,両国国境警備隊による麻薬捜査に関する共同演習が実施されています。

  • (写真2)麻薬犬による車両捜査の様子
    キルギス・カザフスタンの合同国境警備演習にて。
    麻薬犬による車両捜査。
    (UNODC撮影)

 国境連絡事務所に加え,各地の連絡事務所および国際空港など,キルギスと近隣諸国との主要な国境地点からの情報をリアルタイムで収集,総括,分析する国境連絡事務所活動調整センターが,キルギス国境警備隊本部に設置されました。この調整センターを中心として各地の国境連絡事務所が統合的に管理されるシステムが導入されたことにより,どのような人物がどの国境地点を通過したか,過去にキルギスに何回,どの国のどのような種類のパスポートで入国したかを瞬時に把握することが可能となりました。また,犯罪歴がある人物や宗教過激主義・テロ団体と関係があるとされる人物もすべてデータベースで検索することができるようになっています。これらの成果として2016年から2019年にかけて600キロを超える違法薬物を押収しており,UNODCは「この活動により7つの組織犯罪グループに打撃を与えた」と報告しています。

  • (写真3)機材引き渡し式の様子
    国境連絡事務所の活動調整センターでの機材引き渡し式。
    国境警備隊,UNODCおよび日本大使館の代表者。
    (UNODC撮影)
  • (写真4)日本の支援であることを示すプレート
    国境連絡事務所の活動調整センターにて
    日本の支援であることを示すプレート。
    キルギス語,ロシア語,英語で記載されている。
    (当館館員撮影)
  • (写真5)国境連絡事務所の活動調整センターでの視察の様子
    国境連絡事務所の活動調整センターでの視察の様子。
    供与機材に日章旗ステッカーが貼付してある。
    (当館館員撮影)

 国境連絡事務所と活動調整センターの設置により,キルギス国内の関係省庁職員約200名の能力が強化され,麻薬関連犯罪の阻止に繋がります。また,国内,国際的な違法薬物の取引対策が強化されることで国内の治安が安定することから,キルギス国民約600万人の生活がより安全になることが期待されます。

 本案件は我が国の対中央アジア外交枠組みである「中央アジア+日本」の第6回外相会合での共同声明(PDF)別ウィンドウで開くでも高く評価されており,中央アジア諸国の「開かれ,安定し,自立した発展」を支える日本の貢献を示すものとなっています。

 近々キルギスを訪問されるご予定のあるかたは,マナス国際空港出国の際,パスポートコントロールで使われている機材を注意深く見てみてください。日本が中央アジアの安定のために協力していることの証である日章旗ステッカーが貼ってあります。

モルディブのテロ対策を支援する日本のODA

在モルディブ日本国大使館 経済・経済協力班 湯澤直子

  • (画像1)モルディブ共和国

 モルディブはインドの西南に位置し,約人口53万人のイスラム国家です。国土の総面積は約300平方メートル,東京23区の約半分程度の小さな国です。およそ1,200の島が南北に広がり,そのうち住民島と呼ばれる大小の島が約200,世界中から観光客が集まるリゾート島が150ほどあります。観光業が経済の主な基盤で,年間の観光客は約150万人,うち日本人は4万人ほどに上ります。

  • (写真1)リゾート島ヴィラガンドゥーの水上コテージ
    首都マレ市から水上飛行機で西に20分のリゾート島
    ヴィラガンドゥーの水上コテージ。
  • (写真2)整備された東護岸の様子
    1987年の高潮により首都マレ島の3分の1が
    冠水し,南岸と東岸が広範囲にわたり浸食された
    ことから,日本のODAで護岸を整備。
    (東護岸)
  • (写真3)マレ島を取り囲むようにして建設された北護岸
    護岸は南北1.2キロメートル,東西に1.9キロ
    メートルのマレ島を取り囲むようにして建設。
    2004年のインド洋津波からマレ市民を守った
    ことで知られている。(北護岸)

 日本とモルディブの関係は古く,2017年には外交関係樹立50周年を迎えました。日本政府が無償で建設した学校があちこちの住民島にあり,政府関係者からもこれらの学校で学んだという話をよく聞きます。さらに日本政府が80年代から5期に渡り建設した護岸が2004年に起きたインド洋津波からマレ市民を守ったことはよく知られており,15年経過した今でも機会があるごとに感謝されています。

 一般的にモルディブの治安は安定していますが,2007年に住民島で起きた暴力的過激主義思想者による暴動をきっかけに,モルディブ警察内にテロ対策デスクが設立されました。現在はテロ対策部となり,訓練を受けた約50名の警察官が配置されています。今年4月,日本は同対策部にパトロール用の車両13台,捜索部隊用車両15台,警備艇4艇とその付属品を供与しました。住民島が散在しているモルディブでは,警備艇は迅速に現場に駆けつけるため重要な役割を果たします。捜索部隊用車両は,あらゆる犯罪や麻薬調査にも使われることから,一見警察の車両とわからないようにするため黒一色です。他方,パトロール用の車両は日本のパトカーと同様で,誰が見てもすぐに警察車両とわかります。

  • (写真4)警備艇
    散在する島々の緊急事態の際に急行できる警備艇は,
    モルディブの治安維持のために欠かせない。
    日本のODAで4台が供与された。
  • (写真5)警護やそのほか多様な用途に使われる複合艇
    警護やそのほか多様な用途に使われる複合艇。
  • (写真6)市内のパトロールの様子
    日頃から市内のパトロールを行い,テロ対策
    強化につなげている。

 昨年11月に発足したソーリフ政権では,日本の「交番」にならった「近所の警察官」制度を導入して住民とのコミュニケーションを図り,警察のイメージアップに取り組んでいます。テロに関する情報は住民の通報に頼ることも少なくないため,住民との関係構築もテロ対策の重要な仕事の1つです。

 今年4月に隣国スリランカで起きたテロ事件以来,モルディブでは警察と国防省が協力してテロ対策に取り組んでいます。日本は,今年10月にテロ対策強化を支援するため,液体検査装置やX線検査装置などの空港保安用の機材供与に関する正式な約束をモルディブと取り交わしました。今後も研修や機材供与を通してモルディブのテロ・治安対策能力強化支援を継続していく予定です。

  • (写真7)空港保安長官(中央)と空港保安局職員
    空港保安長官(中央)と空港保安局職員
    (マレ国際空港出国セキュリティチェックにて)

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