ODA(政府開発援助)

2019(令和元年)年7月12日発行
令和元年7月12日

リプロダクティブ・ヘルス/ライツってなに?

(画像1)世界人口推移グラフ 世界人口推移グラフ「国連人口基金東京事務所ホームページ別ウィンドウで開くより」
20世紀にはいり人口が急激に増加しています。

原稿執筆:国連人口基金(UNFPA)東京事務所

人口問題に対する,人権を基本としたアプローチ

 毎年7月11日は世界人口デー。世界の人口が50億人になった際に国連で制定されました。その後人口は増加を続け,2050年には97億人になると予想されています。これは1950年から100年の間に人口が72億人増加することになり,今後の世界の動向を考える上でも,また持続可能な開発目標(SDGs)達成のためにも,人口問題について取り組んでいく必要があります。

(写真1)1994年に開催された国際人口開発会議 1994年に開催された国際人口開発会議(写真提供:©UN Photo)

 第二次世界大戦後,高い人口増加率に対する危機感が高まり1974年と1984年に人口に関する国際会議が開かれました。そこでは家族計画の必要性が認識されてはいましたが,画期的なパラダイムシフトが起こったのは,1994年にカイロで開催された国際人口開発会議(ICPD)においてでした。

 人口問題を考えるうえで欠かせないのが,「リプロダクション(reproduction)」という単語。「再生する」「生殖する」という意味があります。つまり,「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(RHR)」(性と生殖に関する健康と権利)はそのための健康とその権利なのです。ICPDにおいて初めてこの概念が定義づけされ,採択文書である「行動計画」に取り入れられました。そこでは,カップルと個人が安全で満ち足りた性生活を営むことができ,子どもを産むか産まないか,いつ産むか,何人産むかを決める「選択の自由」を持つとされました。つまり,人口を数として捉えるのではなく,人々の尊厳,女性の健康やエンパワーメントに焦点をあてる人権を基本としたアプローチに転換したのです。女性が自身の身体をコントロールできる選択の自由が無い社会では人権が保障されているとは言えません。

リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(RHR)に関する動画

出生率と,女性の選択の自由の関連性

 出生率は女性の選択の自由と密接に関連しています。例えば,避妊具(薬)や家族計画へのアクセスがないことによる望まない妊娠が女性の「選択の自由」を阻んでいます。
また,児童婚や女性性器切除(FGM)などの有害な慣習や,ジェンダーに基づく暴力(GBV)が女性と少女の意思決定を妨げ,尊厳を傷つけています。

 例えば,世界平均では5人に1人,開発途上国では5人に2人の少女が18歳になる前に結婚しています。児童婚は望まない妊娠や,妊産婦死亡率の増加,暴力,虐待,搾取,教育の機会を奪われるといった人権侵害にも繋がります。先進国でもジェンダー不平等や,安価で質の高い保育ケアを享受できないという状況があります。これは,家庭と仕事の両立が難しくなり子どもを産みたい女性が子どもを産めない,または希望する子どもの人数よりも少なく産むということに繋がっています。

出生率の違いにより,世界は大きく4つのグループにわけられます。
「世界人口白書2018(日本語版)」12-13ページより
  • 図1 (図1)女性1人当たり4人以上出生の地域
    サハラ以南アフリカの大多数の国々および6か国
    ほどで,女性は1人当たり4人以上の子どもを産
    んでいる。通常,これらの国々は他地域に比べ貧
    しく,保健医療と教育へのアクセスが制限されて
    いる。ジェンダーによる差別が固定化し,女性が
    自立できておらず,若年結婚とそれに伴う若年で
    の出産が多い。
  • 図2 (図2)出生率が横ばい状態の地域,出生率女性1人当たり2.5~3.9人
    いくつかの国で出生率は一度かなり低下した
    が,その後横ばいになった,あるいは場合に
    よっては再び上がり始めた。その理由は家族
    計画政策が挫折したことや,紛争や経済危機
    の余波を受けたためである。
  • 図3 (図3)出生率が急減した地域,出生率女性1人当たり1.7~2.5人
    国によっては,早いところで1960年代,遅い
    ところでは1980年代に出生率の低下が始ま
    り,今も着実に低下し続けている。これらの
    国々は貧しい国が一部,裕福な国も少数ある
    が,ほとんどは中所得程度の国々である。
  • 図4 (図4)出生率が何年にもわたり低い地域,出生率女性1人当たり2.1人以下
    国によっては,長いこと低出生率が続いてい
    る。主にアジア,ヨーロッパ,北米の開発が進
    んでいる国々である。教育も所得も高い水準
    で,女性の権利の実現についても進んでいる傾
    向がある。基本的なリプロダクティブ・ライツ
    とその他の権利はほぼ達成している。ただし安
    価で質の高い保育サービスが不足しているた
    め,仕事と家庭生活の両立が困難である。

 現在,図1から図4のように出生率は国や地域により大きな差があり多様化していますが,どの地域にも共通しているのは,すべての人々がリプロダクティブ・ライツを享受していると言い切れる国は,日本も含めどこにもないということです。

UNFPAの取組,「3つのZEROのミッション」

日本政府からの支援を受けてロヒンギャ難民キャンプに作られた女性のためのスペース
専門家が女性を精神的・身体的にサポートし,トラウマなどの問題に対処します。
(写真提供:🄫UNFPA Bangladesh)

 UNFPAがこれらの状況を改善するため現在力を入れて取り組んでいるのが,「3つのZEROのミッション」です。(1)家族計画サービスへのアクセスが満たされない状況,(2)妊娠・出産による妊産婦の死亡,(3)児童婚などの有害な慣習とGBV,これらを2030年までにZEROにするミッションです。(3)のミッションの1つとして,UNFPAは日本の協力を得ながら複数の国でGBVに関するプロジェクトを実施しています。バングラデシュではGBVの危険にさらされているロヒンギャ難民への人道支援として,女性のためのスペースをつくり,助産師や専門家による身体的・精神的なケアを行っています。日本はこのような支援を通じ,国際社会における役割を果たすだけでなく,社会全体の繁栄にも貢献しています。

 「3つのZEROのミッション」はSDGs,特に貧困に関する目標1,健康と福祉に関する目標3,ジェンダー平等に関する目標5や,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成にもつながります。

UNFPA設立50周年

(ロゴ)国連人口基金(UNFPA)東京事務所

 UNFPAは今年設立50周年を迎えました。また今年は,25年前にICPDで交わされた合意の進捗状況を見直し,残された課題を考える重要な年でもあります。この25年で一体何が変わったのでしょうか。これまで改善が見られた一方,近年世界では過激な原理主義の台頭などにより逆風が吹いています。私たちUNFPAは11月に開催されるICPD25周年記念のナイロビサミットに向けて,性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:SRHR)を推進し続けています。

 日本のSRHRの状況はどうでしょう。皆さんも私たちと一緒に考えてみませんか。

“国連人口基金はすべての妊娠が望まれ,すべての出産が安全に行われ,そして,すべての若者の可能性が満たされるために活動しています。”(国連人口基金 活動理念:国連人口基金(UNFPA)東京事務所ホームページ別ウィンドウで開くより)

 より詳しく知りたい方は国連人口基金(UNFPA)が発表した「世界人口白書2018(日本語版PDF)別ウィンドウで開く」と「世界人口白書2019(英語版PDF)別ウィンドウで開く」をご覧ください。

スーダンへの教育支援 女子小学校を整備しました

(写真1)小学校の校舎前での記念撮影 小学校の校舎前での記念撮影
(写真2)大使を囲む女子生徒たちの様子 真新しい教室で大使を囲む女子生徒

原稿執筆:在スーダン大使館 一等書記官 山口 実

(写真3)小学校完成式典の様子 小学校完成式典に参加する地元住民と
村落のリーダーの皆さん
(写真4)アル・=ハグ・アタ・アル=マナン女子小学校 校舎2棟,トイレ1棟とフェンスを新設し,
校舎2棟が改築された
アル・=ハグ・アタ・アル=マナン女子小学校

 スーダンの女子小学校が,日本のODAにより整備され,完成した真新しい校舎を目にした女子生徒が歓声をあげました。教室の中では,日本の大使を囲んで一緒に記念写真を撮影しようと,女子生徒が集まりました。

 この学校のあるカッサラ州ニューハルファ郡は,スーダン東部,エリトリアとの国境に接した場所で,過去に紛争があったために,多くの難民や国内難民を受け入れている地域です。近年,この地域の人口は著しく増加したため小学生数が急激に増え,学校の教室やトイレが足りなくなっていました。また,スーダンにおいては,基礎教育の環境水準は非常に低く,生徒たちは机や椅子がない狭い教室や野外で授業を受けるなど,劣悪な環境での学習を強いられていることからも,小学校を退学する生徒が多いことが社会問題となっています。特に女子生徒の退学が非常に多く見られ,その数も増えています。これは,スーダンの一部地方地域においては女子の初等教育に関して住民が積極的でない風潮も影響しています。そのため,女子小学校の校舎やトイレなどの環境改善支援は,これら女子生徒の退学を少しでも止めることに寄与できるものと期待されており,日本政府も積極的に女子小学校の建設に取り組んでいます。
 このような事情を背景に,学校で学びたいのに学べない女子生徒に対して教育の機会を与えたいと,地元NGOの要望に応えるかたちで,日本の草の根・人間の安全保障無償資金協力によって,女子小学校の整備が進められことになりました。この女子小学校では,校舎2棟,トイレ1棟とフェンスを新設し,さらに既存の校舎2棟の改築が実現されました。

 校舎完成の式典には,学校の改善を喜んでくれた地域住民をはじめ,教育関係者やNGO団体など約800名が会場に集まり,式典は盛大に行われました。この模様は地元テレビ局やラジオ放送で紹介されるなど,地域における教育への関心の高さをうかがわせます。一方で,この学校に通う女子生徒の数はおよそ470名。実際にはこの地域で学校に通うことのできる生徒はいまだ少なく,就学率はおよそ68パーセントにとどまっています。まだまだ多くの支援が必要です。

 日本は,以前からスーダンへの教育支援に力を入れてきました。この支援によって,より多くのスーダンの女子生徒が教育の機会を得て勉強し,将来への希望をつかみ,地域社会の力となってほしいと期待されています。日本はこれからもスーダンでの教育支援を続けていきます。スーダンと日本の絆がいっそう強まることを心より願っています。

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