ODA(政府開発援助)
ODAメールマガジン第338号
ODAメールマガジン第338号は,新シリーズ「国際機関と開発協力」第1弾としてヨルダン・ハシェミット王国から「ヨルダンの治安確保と安全維持のために 国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)を通じた日本の支援」,シリーズ「周年記念と開発協力」第2弾としてブータン王国から「日・ブータン外交樹立30周年」,シリーズ「TICAD VI」第13弾としてJICA本部から「TICAD VIサイドイベント「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが平和な社会を創る」 アフリカにおける取り組みの課題と可能性について議論」と,国際協力局政策課から「「命のパスポートが国境を越える」日本生まれの母子手帳が,世界中のお母さんの手に渡るまで ハフィントンポスト掲載記事」をお届けします。
ヨルダンの治安確保と安全維持のために
国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)を通じた日本の支援
原稿執筆:UNOPS中東地域事務所 プロジェクト支援分析官 中川 直光
国連プロジェクト・サービス機関(United Nations Office for Project Service, UNOPS)は,特に紛争や災害後といった困難な現場において人道支援および開発支援を実施する国際機関で,プロジェクト管理,調達,インフラ開発の3つの分野を中心に活動しています。
2015年には,80か国以上において1,000を超えるプロジェクトを実施しており,1年間のプロジェクト総額は約14億ドル(約1,400億円)に達しています。
日本は,UNOPSにとって非常に重要なパートナーであり,世界各地で協働しています。今回は,日本の支援を受けてヨルダンで実施されるプロジェクトについて紹介させて頂きます。
ヨルダン政府にとって,ヨルダン国民とシリア難民の安全確保と治安維持は最重要課題です。しかし急激に増加する難民への対応は,政府の業務を増加させています。そこで日本政府はUNOPSを通じ,シリア難民の保護に貢献する必要不可欠な車両や機材を供与しました。こうした調達による支援は,ヨルダン政府が安全と治安の向上を図ることに貢献しています。
また,国内でイスラム過激派思想が広まりつつあるヨルダンの現状を踏まえ,現在日本からの支援を受け,UNOPSはイスラム過激派思想を生み出さないための教育施設(穏健派促進センター)の建設を進めています。
UNOPSは同施設の建設のため,国際競争入札により業者を選定し,施工管理を含むプロジェクト・管理を行っています。本事業は2017年3月に完了する見込みであり,同施設ではヨルダン各地からの研修員を対象に,穏健派促進のための研修が行われ,ひいてはヨルダンの治安安定に貢献することが期待されています。国連加盟以降,日本政府は国連を通じて世界の平和と繁栄に貢献してきており,こうした事業はヨルダンの安全確保と治安維持のためにとても重要です。
なお,本事業はプロジェクト実施期間が1年であるため,スケジュール管理にとても気を配っています。
プロジェクト初期の段階では,決められた時間の中で業者との契約を纏めなければならなかったことが大変でした。また,建設サイトで予期せぬ埋設物が見つかり,プロジェクトマネージャーと対処方針を協議し,ヨルダン政府の協力を得ながらなるべく工期に影響がでないよう対応したこともありました。さらに,同施設の完成後,速やかに研修が開始されるよう,カリキュラム開発や人材配置計画などの準備状況についてもモニタリングを行っています。
多くのプロジェクト関係者と調整を重ねながら事業を進めていくことは容易ではありませんが,そこに大きなやりがいも感じます。
今後も日本をはじめ各国ドナーや他の国際機関とも連携しつつ,現場のニーズに即した支援を行っていきたいと思います。
日・ブータン外交樹立30周年
原稿執筆:在インド日本国大使館
ブータンは,南アジアに位置する人口約76.5万人,約3.8万平方キロメートル(九州とほぼ同じ),北側は中国,南側はインドに接し,ヒマラヤ山脈南麓に位置する内陸国です。
また,北側の中国との国境付近は海抜7,000メートル以上,南側のインドとの国境付近は海抜約300メートルで標高差が大きく,首都のティンプーは標高約2,300メートルに位置しています。
ブータン国民は,親日的で,顔立ちは日本人に似ており,米を主食とするなど日本との類似点も多くあります。2011年に,ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王王妃両陛下が国賓として日本を訪問されたことは記憶に新しいところです。
2016年,日本とブータンは,1986年3月28日に外交関係の樹立に関する書簡交換を行い,外交関係を開始してから30周年を迎えました。
これを記念し,外交関係樹立30周年記念行事公式ロゴマークが決定されるとともに,両国において記念行事が行われています。
さて,ブータンに対する日本の経済協力の歴史は,外交関係樹立以前,西岡京治氏(故人)が,コロンボ計画の農業指導の専門家として海外技術協力事業団(現・国際協力機構(JICA))から派遣された1964年に始まります。
西岡氏は,農業の機械化や新しい作物の導入,米の品種改良など農業開発に力を尽くしました。その献身的で誠実な活動は,ブータン官民の信頼を集め,外国人として初めて「ダショー」(注:ダショーは通常各省次官・県知事級の者に授与される称号)を国王から授与されました。1992年,西岡氏が現地で亡くなった際には,国葬が執り行われ多くの人々が参列するなど,ブータンでダショー西岡を知らない人はいないと言われています。
現在,日本の経済協力は,農業・農村開発だけでなく,橋や道路のインフラ整備,救急車の供与などの幅広い分野に渡っています。
このような日本の活動に対し,ブータンの国王から一般国民に至る様々なレベルから累次にわたり感謝の意が表されています。また,これまでもブータンは日本の国連安保理常任理事国入りを一貫して支持するなど,国際場裏においても両国は確固とした協力関係を構築しています。
TICAD VIサイドイベント「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが平和な社会を創る」 アフリカにおける取り組みの課題と可能性について議論
原稿執筆:国際協力機構 社会基盤・平和構築部 平和構築・復興支援室 中川 享之
8月27日から28日,ケニアの首都ナイロビで,第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催され,安倍晋三首相やケニアのケニヤッタ大統領のほか,35か国のアフリカ各国首脳級を含む11,000人以上の参加者が出席し「ナイロビ宣言」を採択しました。
ナイロビ宣言の優先分野の一つである「繁栄の共有のための社会安定化」分野では,「紛争の影響を受けた女性,移民,難民など脆弱な状況にある人々に対する教育,技術及び職業訓練」や「紛争中及び紛争後の性暴力(SGBV)多発の予防及び対応」などへの支援が行動目標として盛り込まれました。
ナイロビでは政策レベルでこのような行動目標を話し合う事に加え,具体的に何をしていくべきか,という議論も平行しておこなわれていました。そのひとつとして開催された「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが平和な社会を創る」と題するサイドイベントは,JICAと英国政府およびDFID(英国国際開発省),赤十字国際委員会(ICRC)が,準備段階から議論を重ねて共催したものです。当日はアフリカ各国の政府関係者や国際機関,ケニアの市民社会組織等から,約100名の参加を得て,紛争の影響を受けている国々での女性の保護,エンパワーメント,参画,リーダーシップにかかる挑戦と可能性をテーマに,活発な議論が交わされました。
冒頭,北岡伸一JICA理事長は,紛争が今もアフリカにおいて人々,とりわけ女性を苦しめているものの,女性こそ紛争の解決を促し,国づくりを担う源泉であり力となりうること,したがって,平和のための女性の保護・エンパワーメント・参画・リーダーシップの促進がアフリカにおいても重要である,とのメッセージを会合参加者に送りました。
これに続く基調講演は,コービー・ベントレーDFIDソマリア事務所副代表と,アンジェリーク・サーICRC地域事務所アドバイザーという2人の女性が担いました。ベントレー氏は,女性のエンパワーメントがいかに紛争解決・平和の定着に有効であるかについて,具体的な事例やデータを示しつつ,ソマリアでの教訓として,開発だけでなく外交や安全保障も含めた包括的なアプローチの必要性を伝えました。サー氏は,紛争下における女性・少女に対する性的暴力被害からの保護と予防,及び被害者への緊急医療に関するICRCの取り組みと課題について,中央アフリカにおける被害者の心理的・医療的ケアや住民啓発活動などの現場の実例を紹介し,性的暴力被害は予防可能であることを強調しました。
パネルディスカッションは,田中由美子JICA国際協力専門員の司会により,アフリカ連合(AU)のジェンダー専門家,かつて自らも紛争のために国内避難民であった北部ウガンダの女性行政官,コンゴ民主共和国の女性起業家という3人の実務家が登壇しました。
ウガンダの行政官は,被災経験にも関わらず就学を諦めず行政官となった自らの経歴や,自身が取り組む疲弊したコミュニティに対するインフラ整備や保健アクセス改善などの事例を紹介しました。コンゴ民主共和国の起業家からは,復興過程において女性が直面する課題について,民間の立場から女性の貢献の実例や可能性が述べられました。
また,登壇者の一人であった久保田真紀子JICA国際協力専門員からは,アフガニスタンにおける女性警察官の養成・能力向上や,フィリピン・ミンダナオにおける紛争調停・解決に女性が果たした調査事例が紹介され,社会変革に向けた女性の参加及びリーダーシップは,アフリカでの取り組みにも活かされるのではないかとの提案がありました。
この後,会場の出席者と登壇者との間で,ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向け,アフリカ各国ならびに国際社会が取り組むべき課題について活発な意見交換がなされ,フロアからは,政策レベルにおける強いコミットメントとともに,いかに現場で具体的な行動を起こしていくかが重要,といったコメントが聞かれました。最後に,単なる議論を越え,女性の意思決定への参画とリーダーシップ強化に向けた具体的な行動こそが,アフリカの平和と安定のために必要であるとの認識が共有されました。
このイベントでも強調されたように,アフリカ各国自身の取り組みを尊重しつつ,コミュニティ活動や政策決定など,様々な場面で女性の活躍が進むように支えていくことが,JICAの役割として期待されているということを再認識しました。
「命のパスポートが国境を越える」日本生まれの母子手帳が,世界中のお母さんの手に渡るまで ハフィントンポスト掲載記事
原稿執筆:国際協力局政策課
先日,ニュースサイトのハフィントンポストに日本が実施する「母子手帳普及プロジェクト」について記事が掲載されました。
日本生まれの母子手帳について紹介しておりますので,是非ご覧下さい!
母子手帳とは?
子供を持つ親にとっては,身近で特別珍しいものではない母子手帳ですが,「名前は知っているけど,具体的にどのようなものかわからない」という方も多いはず。
母子手帳(正式名称は「母子健康手帳」)には,妊娠・出産・育児の経過や,子供の予防接種の記録など,健康状態や発育などに関する情報が記載されます。
母子手帳は戦後間もないときに,母子の健康管理を目的に日本で発祥しました。
そんな日本オリジナルの母子手帳は,開発協力のツールとして採用され,今では30か国以上に普及。
開発途上国の乳幼児死亡率の改善に大きく貢献しています。